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落として拾おう

全てはこの落ち着かない陽気のせいだ。

その日は朝夕こそ冷え込んだものの、日中は20度に近い暖かさだった。
午後3時頃、東京都心部への訪問のため横浜の埠頭にある事務所を出たとき、私はジャケットの下にカーディガンを着込み、コートを羽織ってマフラーを首に巻くという寒い日の格好をしていた。加えて肌着はヒートテック。歩くと汗ばんでくる。
ガマンしかねて私はついにマフラーをとった。これで大分涼しくなる。私は無意識にマフラーを手提げ鞄の取っ手の間に挟み、駅へと向かった。

京急と山手線を乗り継ぎ、訪問先の最寄り駅に到着する。その時、ふとマフラーのことを思い出した。鞄の取っ手のところに挟んだはずだ。ところがそこには何もない。血の気が引いていくのがわかった。
とりあえず仕事優先と訪問先へ向かった。

仕事が終わってから、落とした場所を特定すべく記憶をたどってみる。が、鞄の上に置いてからの記憶が全くない。マフラーも鞄も完全に意識から外れている。我ながら恐ろしい。
一縷の望みをかけて京急の忘れ物センターに電話をする。乗車した時間と区間を伝え、調べてもらうも該当なし。まだ届いてないだけかもしれないので時間をおいてまた確認してみてくださいと言われる。
次にJR東日本。こちらは「お忘れ物チャット」へ登録。結果が出るのには時間がかかるようだった。
あきらめきれずに帰りがけに京急最寄り駅の窓口でも聞いてみるが、やはり該当する拾得物はなかった。

落としたマフラーは地元桐生の洋品店でオヤジのうんちくを散々聞かされた挙げ句に売り付けられたといういわく付きのもので、それ故に愛着もあったものだった。
その晩は大分ヘコんで、いつもより早めに寝てしまった。

翌日、もしかしたら道に落ちているかもしれないと、駅から会社への道を目を凝らしながら歩いた。すると、会社から程近い道端の三角コーンの足元に、見覚えのある色の塊があったではないか。
見つかった。
会社のある埠頭は人通りが少ないので、拾われることもなくそのままになっていたのだろう。

こうしてマフラーは無事手元に戻ってきたのだが、今後こういうことのないように原因を分析しておかなければなるまい。
マフラーを外したのは時節にあわない暖かさである。すなわち地球温暖化が原因ということだ。
環境問題にももっと関心をもっていかねばなるまい、と、つくづく思う次第である。

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