見出し画像

夏祭り前夜

某月某日

身体の重さがとれないまま朝を迎えた。暑さで外出が遠のいているからか、不調というほどでもないだるさが続いている。

こういうときは旬の果物の力を借りるに限る。昨夏、会社の先輩に「食欲がなくても桃は食べな」と言われてから、すっかり夏=桃のイメージが定着した。実際問題、一人でも食べやすいサイズで、甘さとさっぱり感のバランスがよい、果汁たっぷりの果物というのはそんなに多くなくて、その点、桃は優秀だ。

朝から桃を頬張る。口いっぱいに広がるみずみずしさが、乾いた身体を潤していく。やはり桃は偉大だ。

少し元気を取り戻したので、近所を歩くことにした。日差しは強いけれど、風は気持ちよい。汗ばみながら気分よく歩を進める。

通りすがった公園が、提灯や櫓で祭り仕様になっていた。朝の閑散とした公園も、祭り仕様なら淋しくない。たくさんの人で賑わうようすを想像して、今日も頑張ろうと思った。

某月某日

相変わらずの暑さを凌ぐべく、スーパーへ向かう。

自力ではどうしようもないストレスに対処するための行動を「コーピング」と言うそうだが、私のコーピングにはたくさんの食がリスト入りしている。

気合いを入れたいときの豚肉、瞬間的に現実逃避したいときの果物、自分を労うときのカフェラテ、くたくたなときの蕎麦。シーンごとに欲する食事は変わってくる。暑くて全てのことが面倒になりそうないま、どうしようか。

もずく酢を買って帰った。箸すらいらないくらいするっと食べれるし、酢がシャキッとさせる。自炊する前にもずく酢をひとくち食べて、夏の調理場に向かうのが日課になりつつある。

某月某日

お好み焼きを作った。こう言うと得意料理か、少なくても定番なように聞こえるが、全くそんなことはなく。父が関西出身で、実家ではお手製のお好み焼きがよく食卓に並んだけれど、自分が作るとなると、てんでうまくいかない。

これまでにも何回か、父の姿を思い返しながら作ったことはある。初回は粉っぽかった。2回目は味が薄かった。3回目はひっくり返すのに失敗した。4回目は生地が固かった。

意地になって、5回目の挑戦をした。粉をやや少なめに。絹豆腐も混ぜ込んで。少しだしを入れて。焼き始めたら生地を触らない。

うまくいった。初めて父の味を習得した。次帰省するときは、私が作ったお好み焼きを父に食べてもらいたい。


20230803 Written by NARUKURU


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?