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【東京喰種・二次小説】二人の少女、二つの正義

★この小説は
『東京喰種』の二次小説です。
とある喰種の少女と、人間の少女の絆を描いたほろ苦い系。
種族の垣根を越えて育まれた絆の先にある景色とは……?
R15指定(暴力表現アリ)

画像は集英社さんの公式サイトから

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食物連鎖の頂点とされるヒトを喰らう存在がいた。
ヒトの血肉を啜る彼らは<喰種>と呼ばれている。
喰種はヒト以外のものを口にすることができないのであった。
彼らの中には、ヒトの姿に化け社会に溶け込む者もいた。
ヒトを喰らう機会を伺うために。
一方で、ヒトを理解し共生の道を歩もうとする者もいた。

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共生の道を辿ろうとする少女の喰種の名前は、<霧嶋董香>。
ミディアムショート丈の紫紺の髪は、右目が口元ほど長い。
もう片方の前髪から覗かせる瞳の色は髪色と同じく薄紫紺色をしている。
ライトグレーのブレザーの胸元には赤いリボンが飾られており、
スカートにはプリーツがしっかりとアイロンプレスされている。
彼女は、人間の女子高生そのものだった。

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昼下がり。早弁を終えた男子生徒達がサッカーボールを持ち、校庭へと駆け出していく。
「トーカちゃんって、ジャムパンしか食べないよね」
そう語りかけてくる、茶髪のぱっつん前髪の彼女の名前は<小坂依子>。
私の初めての人間の友人だ。
「もしかして、食欲ない?」
茶髪の少女は心配そうにこちらを見つめてくる。
「いいんだよ、これが一番食べやすいから」
「ダメだって、成長期なんだから」
そう言うと、彼女は自分の弁当箱からひょいと唐揚げを取り出した。
「はい、今日の自信作!」
渋る紫紺の髪色の彼女の口元にそっと箸を差し出した。
「ありがと……」
一噛みし、溢れた肉汁が舌に触れた途端、まるで吐瀉物を舐めるような感覚に襲われる。

不味い。不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い。

けれど、吐き出すわけにはいかない。吐き出したらすべてが終わってしまうから。
「…はいはい、きょうもうまいよ」

私は無垢な善意を喉の奥へと押し込んだ。

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まだ17時前ではあるが冬の訪れを告げるかのように、日差しが陰り始めていく。
帰路につく交番の掲示板で、二人の少女は一枚の張り紙を見つける。
<ラビット>と呼ばれる兎の仮面を被った喰種の写真が貼られている。
この近くの路地で、喰種捜査官が狙われたとのこと。
「また喰種……トーカちゃんも気をつけてね」
「依子も夜道は一人で歩くなよ」
「うん。それじゃあ、また明日学校で!」
茶髪の少女は手を振りながら、目を細めてこちらに笑みを向けた。

紫紺の少女のスクールバッグの兎のストラップは静かに風に揺れていた。

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とある晩。ビルの屋上。
私は同朋の仇を取るために、喰種捜査官に狙いを定めていた。
少数の自分が大勢の喰種捜査官に手を出すことは自殺行為だ。
警備が厳しくなり、仲間を危険に晒すかもしれない。
しかし、それでも私は自分の中の衝動を抑えることができなかった。
生身の人間を狩ることは容易い。

背中から真紅に煌めく翼<赫子>を揺らめかせて、私はその男を袈裟斬りにした。
自分が斬られたことを気づいた頃には既にその男は事切れていた。
不意をついた。もう一人も仕留めるーー
次の瞬間、私の腕を何かが貫いた。
空いた傷口が熱くじんじんと熱を帯び、赤い液体がドロリと流れ始めた。

「ククク、駄目だろう。<クインケ>を忘れちゃああぁあ!」

頬が痩せこけた白髪交じりの男の腕には異形の装具が禍々しく蠢いていた。

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クインケーー喰種捜査官が使用する武器の一種である。
刃物や銃器が効かない喰種に、唯一有効な武器とされている。
元となる素材は、狩られた喰種の<赫子>だ。
「このクインケに見覚えがあるだろう?」
痩躯の男は、にやりと不気味な笑みを浮かべると、矢継ぎ早に言葉を発した。
「この間殺った、メスの喰種の旦那はなかなか手強かったな……今ではもう私の仕事道具だがな」
「ヤロォ……」
皮膚を抉る鞭のようにしなり、血肉を突き刺す槍のような無慈悲な凶器の前に手負いの少女は為す術もなかった。

兎の仮面を被った少女は、月下の闇に姿をくらませた。

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あの晩から一週間。
私は日常を取り戻していた。
いつものように登校し、下校する。
今日もそんな一日を過ごすはず、だった。
授業中に窓の外を見やると、校舎のまわりを複数の車輌が取り囲んでいた。
目を凝らしてみると、一つのマークが目に飛び込んできた。
<鳩>
鳩は喰種捜査官のシンボルマークだ。
なぜ、ここに捜査官が?心臓の鼓動がドクンと脈打つ。
もう一度確かめようとして、再度目を見やるとそこには見覚えのある痩せた白髪の男が車から出てくるのが見えた。
「先生。体調が悪いので、保健室に行ってきます……」
そう言って教室を後にした。
「心配なので、私が付き添います」
お節介焼きの茶髪の少女は、彼女の背中を追うのだった。

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構内に放送が響きわたる。
「この学校の中に喰種が潜んでいる可能性があります」
「生徒の皆さんは速やかに体育館に集合してください」
紫紺の少女たちが校舎の1階へと向かおうとすると、廊下の曲がり角で一人の男とぶつかった。
「っと……ごめんなさい」
「大丈夫?トーカちゃん……?」
少女たちがそう言った視線の先には、見覚えのある、痩せこけた白髪の男性がいた。
「おっと失礼」
そう言ってその男はこちらを覗くように見つめてくる。
手のひらにじわりと汗が滲み出る。
「……用事があるので、それでは」
過ぎ去る少女たちの背中に男は言葉を投げかけた。
「君ぃ、その臭いは何だね」
男はにやりと笑みを浮かべた後に<クインケ>をアタッシュケースから取り出した。

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少女達は手を繋ぎながら校舎の階段を駆け下りた。
なぜ、どうして。なぜ正体がバレたの?
<赫子>を使う?駄目。依子にだけは喰種だとバレるわけにはいかないのだから。
脳裏に次々と疑問が浮かぶが答えが見つからない。
ヒュンと、空気を切り裂く音がトーカの耳元を通り過ぎた。
「あっ……」
斬撃を受けて髪がはらりと舞い、バランスを崩したトーカは廊下に倒れ込んだ。
次の一撃がトーカの眼前に迫ろうとするとき、依子は身を挺して、立ちはだかった。
「トーカちゃん!」
鋭い刺突が肉を切り裂き、腱がぶちりと断たれた音がする。
廊下には、かつて自分の右腕だった肉塊が落ちていた。

いっ痛っああ痛あっああっっああ痛っ痛ああっっあっ

経験をしたことがないような痛みに声がかき消される。
「クっ。依子っ……」
駆け寄ろうとするも、白髪の男の攻撃の手は止まない。
「まず仕留めろってことかよっ……」
私は<赫士>の力を解き放ち、悪意の元へと飛びかかった。

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トーカの重たい一撃は、白髪の男を校舎の彼方へと吹き飛ばした。
「依子、しっかりしろ!」
「……トーカ、ちゃん……」
呼吸は荒げているが、既に顔からは血の気が失せている。
千切れた腕からは鮮やかな赤い液体がごぽりと溢れている。
「ま……さ、かトーカちゃんが喰種だったなんてね……」
「こ…れまで、無理し……て、からあげ食べてくれたんだね……」
「喰種な……んだよ、ね……私、トーカ…ちゃんに食べ……られるなら、それでも……」
依子の手を握ろうと手を延ばすが、掴むよりも先に腕は地面に投げ出された。

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紫紺の髪色の少女の口元は赤く染まっていた。
二人は再び対峙する。
「依子の仇……お前だけは許さない……」
「喰種ごときが仇討ちだと?反吐が出っ」
少女は本来の力を取り戻していた。然るべき、食糧を摂ることで。
地面を蹴る音だけが一歩二歩と聞こえる。
しかし、男はその姿を捉えることはできない。

視界に捉えた次の瞬間、左手首と右足が宙を舞った。
男は直立を保てず、地面へとなだれ込んだ。
「私としたことが……喰種ごときにしくじるとは、な……」
憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけてくる。
「まだ……死ね、な…い…」
男は力なく伏せると、衝撃の反動か、胸元から銀色のロケットが投げ出された。
そこには、笑顔の娘を大事そうに抱きかかえる男の写真が納められていた。
「くっ……一体なんなんだよっ……」
人間と喰種。追うものと追われるものの関係性だけでなく、手をとりあえたかもしれなかったのに。

これから、私は何を繋いでいけばいいのだろうーー

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