ミルキー

眠たくて眠たくてしょうがない。病気なのかとおもうほどどんだけでも眠れる。
【プルプル……】
 部屋のコールが鳴るたびにいちいちおどろく。今あたしはヘルスの個室に待機をしている。
「はい」
 コール4回で受話器をあげる。ベッドから徒歩二歩のところなのにまだ覚醒していない頭で寝ぼけた声をだす。
『指名のお客さんです』
「——は、はい」
 別に支度をすることもないのでそのまま部屋を出る。お客さんと対面す

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もも

スーパーに並ぶももをみて
「おしり」
 と真っ先に叫んだ隣にいた小さな天使はやさしそうなパパとママの間に包まれるように立っていてその頬を目の端で捉えるようみるとそれはしかしまるで桃そのものだった。
 桃のように薄いピンクをしておりちょっとだけ毛羽立ってみえるのは子ども特有の乾燥あるいは汚れなどでありそれがリアルにまるで桃を彷彿させる。
「なあに? ももたべたいのかな?」
 ママは子どもの目線にあわ

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なく

『もうそっちのことさなんの感情もないから』
 はい? それってどういう意味合いでいってんの? そっちってあたしのこと?
 そっち。あっち。道を聞いているわけでもないのにあたしの名前はどうやらそっちであり彼がいうそっち(すなわちあたし)のことを恋愛対象として見れないという意味でいっている。のはわかっていたけれど敢えてとぼけたふりをした。
『だからさ、もうあう理由もないしあいたくないっていうかあえない

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み、みえません

(右)
 よし。あたしは『C』のマークがきちんと見えていることを右目と左目できちんと確認しシャワーへッドを持ってしゃがんだままお客さんの方に向きなおる。
「石鹸で洗いますね」
 ヘルス嬢は至って笑顔を絶やしてはいけない。愛想よく。嫌な顔をしない。との教訓はすっかり得てはいる。が。
「ああ、うん」
 お客さんの年齢は下半身にぶら下がったものやそのまわりにある密林によってだいたいわかる。密林は人生を物

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バレリーナたちの青春(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)〈前〉

東京神田にTYGというバレリーナ養成学校がある。

今日もわたしはそこへ通う。

わたしがそれを望んだというより、よくあるはなしだが親にその道を歩まされてるにすぎない。

それほど才能があるというわけでもないということにだんだん気づきはじめたわたしにはこうして学校に通うことにもちろん少し迷いが生じている。

しかし幼少の頃から続けているバレエとその練習がどうやらそんなに嫌いでもないらしい。

練習

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たかゆき

『ももちゃんご指名65分』
 内線電話が鳴り寝ぼけながら受話器をあげる。フロントのおじさんは素早く要件だけをいい身勝手に電話を切る。がちゃん。と。
『は、はい』
 寝起きなのもあるけれどあたしは身体もひどく小さいけれど声も蚊のなくような声しかださない(とゆうか出せない。この前なんてアイスクリームを注文しようとしておばさんを何度もすみませーんと呼んだけれど洗浄機の音に声が負けなかなか店先に出てこずア

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わすれさせて

少なくともはじめは『燃えるような』あるいは『すさましい』という言葉がぴたりとあてはまるほど両思いだった。なにせお互いが惹かれあってからというとんでもないラブな期間は毎日少しの時間でもあっていたしメールもそれこそ頻繁に交換をしていた。
『さっきあったぶんなのにもうあいたくなってるよ』とメールをしたら
『俺もだよ』と、それはまるで『山』『川』の忍者の合図のよう返ってきた。
『明日どう? どう? あえる

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うなぎ

『お昼くらいに行くね』日曜日の朝、なおちゃんにメールをする。なおちゃんはあまりスマホを触らない。なので自動的にメールも気がつかないことが多い。けれども返信はきちんと返してくれる。だから返信がなくてもなんら心配などはない。
 メールあるいはLINEなどの返事を待つもどかしさったらない。ある種の拷問いや嗜虐プレイに過ぎない。とくにLINEがそう。相手が既読にならないとどうにかなりそうになってスマホばっ

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狂宴(後編)

前編がまだの人は、前編をまず。

中編がまだの人は、中編をまず。

『高校野球部の野蛮な日常』続き

 拉致されたBは山の中にまで連れて行かれ、手を縛られ、目隠しをされた状態でその場に立たされた。

 この時点でその場にいたのはBとA美、M夫、そして後輩の一人の計四人である。怯えた声を出すBの頬を叩いたA美が、「静かにしろ」と怒鳴る。嫉妬が絡んでいる分、容赦がない。

「や、やめて、ください」とB

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狂宴(中編)

前編がまだの人は、前編をまず。

  ※

『高校野球部の野蛮な日常』

「A美ー、A美ー」

 S高校野球主将のT也が女子マネージャーのA美を手で招き寄せると、A美が嬉しそうにT也のもとへ駆け寄る。哲也は喧嘩っ早い、口よりも先に手が出るタイプの男だった。人望があるとは言い難い種類の人間だったが、それでも主将になれたのは運が良かったとしか言い様がない。野球部内に昔から存在する派閥争いで主流派だった

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