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【映画感想133】金の国 水の国/渡邉こと乃(2023)


全体的な感想

2017年「このマンガがすごい!」で第1位を獲得した岩本ナオの同名コミックの映画版。原作ファンとしては大満足の完成度でした。

漫画詳細↓

セリフも展開もほぼ原作のままでありつつも、原作にないアングルや動きが追加されたことにより画面が奥行きが生まれていて楽しい。エンドロールで各キャラクターの「その後」が描かれるファンサービスもよかったです。

音楽はヴァイオレットエヴァーガーデンの方らしく、また声もサラディーンの神谷浩史さんをはじめハマっており全体的にクオリティが高いです。地上波で放映されてたらもっと話題になったかもしれない、という点だけ惜しい。

漫画からアニメへの「翻訳」

別監督ですが、某漫画原作アニメのインタビュー記事で「漫画をアニメにするには、漫画からアニメへの翻訳が必要」というコメントを見たことがありましたが、本作はまさしく「翻訳」を試みたように感じました。

翻訳といえばつきものの、そのまま訳すと意図が伝わらないけどアレンジしすぎてしまうと別物になってしまう……というジレンマ。
まず気になったのは漫画のテンポと映画のテンポの違いでした。

細かい起承転結がたくさんあって、あれいまここ全体のストーリーのどの辺なんだろう?となってしまう感じ。(30分ずつの1クールアニメだったら気にならなかったのかもしれない)

しかしクライマックスのシーンをより盛り上げてメリハリを作ってる気がしました。

ついでに言うとこの山場でサーラとナランバヤル、2人だけで一緒に宮殿を走る時間を長くしてるの良かった。ストーリー上、このふたりって深く語り合ったり一緒になにかをするシーンが実は少ないんですよね。漫画だと扉絵で一緒にいたりしてたのでスルーしてたけど、恋愛映画となると仲が深まるパートは欲しい。

後もう一つ、原作のギャグテイストを映画にあたって落としている感じがしました。例えば原作だと「お互いの国の男女を結婚させよ」と命令するのは魔法少女コスプレをした謎神様ですが映画では出てきません。A国、B国という名称も変えていて、ゆるっとした謎時空ワールドをしっかりしたものに変えようとしている雰囲気。

しかし映画のみ視聴している人だと、キャラの言動に残るコミカルさの名残やちょっとメタい異世界感が浮いているように感じる人もいるかもと思いました。しかしこの作品の魅力ってかっちり作り込まれた世界観ではなく人々のやさしさやゆるやかさなので、映画が合わない人は漫画も合わないような気がします。

映画も原作も共通する魅力は、登場人物がみんな憎めない人物なのでストレスがないこと。
サーラに対して口調がきつそうな義姉……のように見えたフーリーンが「サーラは弟のために族長に怒った」と実は理解してくれていたとわかるシーンなど、「一見こう見えるけど実はこんな人」と相手の内なる善性に目を向ける場面が多いです。

お互いを理解して正しく歯車がかみ合っていく様は見てて心地よく、全年齢の人に安心して進める作品だと思います。

たまには創作の中でくらいこんな優しい世界が見たい。










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