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ドラマ/青春

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ドラマ、青春物の短編集です('ー')/~~
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【ショートストーリー】『使命を受けて』

日曜日、僕はモヤモヤとした何とも説明出来ない思いと、少しの期待の両方を抱えて、その店のドアを開けた。 僕の目に、彼女の姿がうつった.. 「いらっしゃい」 カウンターの中にいる年配のマスターが、僕をチラッと見て小さな声で挨拶した。 5.6人の客の中、彼女はカウンターの一番奥の席に、ポツンと座り文庫本を読んでいた。 僕は彼女のすぐ側まで歩いて行き、声をかけた。 「アキ..」 ハッと顔を上げたアキは、作り物ではない驚いた表情を見せた。 「..びっくりした」 本を読

【掌編】『素敵じゃないか!』

土曜日、早朝。 朝4時まで営業してる居酒屋から、追い立てられる様に外に出た。 「風邪ひかないでね。ありがとねぇ」 還暦を過ぎた白髪の男性店長は、疲れた様子で僕と彼女にそう言い、アルバイト2人と店の掃除を始めた。 4月の朝はまだ寒い。 小柄な彼女は赤い顔で、大きなアクビをしてから僕に言った。 「..メチャ寒いね。始発までどうする?」 最寄り駅の始発は5時05分。 あと1時間とちょっとだ。 「どうしましょうか」 「私、とりあえず温かいのが飲みたい」 「コーヒーでいいですか?

【掌編】『私はSF小説家』

「え?パラレルワールド?...ふふふっ」 私の口から無意識に笑い声が漏れた。 だが、吉村君の顔は真剣そのものだった.. .... 私はSF小説家。 大学卒業後すぐにデビュー作を発表した。 そして、その小説はベストセラーになった。 続く2作目は映画化されるほどの大ヒット。 私は若くして幼い頃からの夢を実現させた。 憧れだった、売れっ子SF作家。 でも夢を掴んだはずの私の心は満たされなかった。売れる為、編集者から言われるがままに妥協の連続。書店に積まれた小説は私が生み出した物

【ショートストーリー】『リリィの面影』

《Side.A》 小学校の同級生にリリィという、とてもキレイな女の子がいた。 リリィはもちろんアダ名だ。 本名は何だったか、ちょっと思い出せない。 小学校の卒業式の翌日、僕はなぜかそのリリィに呼び出された。 夕方、一人で待ち合わせ場所の公園に行くと、リリィも一人でブランコに乗っていた。 僕を見たリリィはブランコから降りて、僕の元に駆け寄ってきた。 「来てくれたんだね。来ないかと思ってのに」 僕は何と答えたのだろう? 思い出せるのはリリィの言葉だけだ。 「これ、大

【掌編】『千葉さんとヨーグルトと私のささやかな幸せ』

【ヨーグルトのある食卓/コンテスト投稿作品】 .................................................. 土曜日。大手チェーンの飲食店でバイトしている私が一番楽しみにしているのが、今、この時間、男性アルバイトの千葉さんと二人で過ごす休憩室でのひととき。 私と千葉さんは同じ時間帯の勤務なので、いつも休憩が一緒になる。 千葉さんは休憩中、ほぼ毎回、小型冷蔵庫に入れてあるヨーグルトを取り出して食べる。 そして今日も例に漏れず、私の左隣の

【#2000字のドラマ】『忍者ガール、美影』

私、服部美影はいわゆる『くノ一』、女性の忍者だ。いや、まだ忍者見習いかな? 厳しい祖母の指導のもと、ずっと忍者として生きる為の修行に励んできた。 今は修行を続けながら東京にある普通高校に通っている。 私が幼い頃に亡くなった両親も忍者だったんだって。 「美影。貴女の両親は伝説的な忍者だったのよ」 物心ついた時から祖母に何度もそう聞かされてきた。私の憧れの存在。 その両親への想いが、私を厳しい修行の道へと駆り立てるんだ。 でも私の朧気な記憶の中の父と母は、私に対してそれらしい素振

【ショートショート】『ヤンチャな人』

「あんまり、でけえ声じゃ言えねえんだけどよう..今、売人やってんだよ..」 そう言って、村田さんはニヤリと笑った.. 【売人】..僕の心に、暗い影の様な物が差し込んでくるのが判った。 ............. ............. 村田さんは、僕が今働いている工場の元同僚だった。 大学を卒業しても、希望の会社に就職できなかった僕は、とりあえず実家の近所にある化粧瓶の印刷工場で働く事にした。 その工場で配属されたラインにいたのが、僕よりひと回り年上の女性、村田

【#2000字のドラマ】『ねえ!星野君?』

放課後の暮れなずむ街。 高校の吹奏楽部の練習を終えた私は、自転車で家路を走っていた。 その途中にある、こじんまりとした公園に差し掛かった時、言い争うような男の声が聞こえてきた。 「そんなの、お前だけだろ!」 ケンカ? 反射的にブレーキをかける。 キッ!と音を立てて自転車が止まった。 私は自転車を道路の端に置いて、薄暗い公園を覗き込む。 すると公園の真ん中に、見覚えのあるシルエットが二つ。 あれは、同じクラスの田中君と星野君? 田中君は中肉中背だけどモヒカン。星野君は普通

【掌編】『誰の為に戦うの?』

土曜日の午後、自分の部屋にいた私はTwitterで、国民的人気(らしい)タレントが、新型ウィルスに感染し、病院に運ばれたと知った。 私の人生に全く関係の無い出来事だった。 だが、そのツイートが、そのタレントの過去の番組における、女性に対するセクハラ行為を称賛する内容だった事は、私にとって大きな問題であった。 しかも、それを肯定的に捉えている者達の数が四桁を超えている。 私はすぐさま、そのツイートを引用し、タレントの過去の罪と、そのツイートをした本人、そしてツイートを拡散した

【掌編】『僕は待ち人』

約束の時間を過ぎても、彼女は現れなかった 。 僕は待ち人 **** 今日、初めて二人きりで彼女と会うので、緊張して、30分も前に約束の公園に着いてしまった 。 勿論、彼女は来ていない。 時刻は午前10時30分。 ベンチに座って待とう。 何を話そう?何処へ行こう? 何も決めてないんだ。 10時40分 。 あと少しで、彼女が現れる。 緊張していて、何も食べてこなかったから、 ちょっと、お腹が空いてきた。 お腹が鳴ったらどうしよう… 10時50分 。 もう来るか

【#2000字のドラマ】『青春症候群』

いつも通りだ。僕は親友でクラスメートのタカと共に、帰宅部の活動に勤しんでいた。 タカがいつもの話を始める。 「昼休み、斉藤さんと喋ってただろ?斉藤さん、やっぱお前に気があるんじゃねえか?ユウイチ」 多分、いや絶対、タカは斉藤さんの事が好きなんだろう。 僕はいつも通り、ムズ痒い様な気持ちになりながら、必要以上に真顔で答える。 「そんな訳ないでしょ..僕なんかさ..」 タカは最近、ほぼ毎日、僕に斉藤さんの話を振ってくる。少し斉藤さんと接点のある僕をネタにして、斉藤さんの話をした

【掌編】『懐かしいひと』

今日、懐かしいひとに会った.. ......... 会社の昼休みの事。 同僚とランチを食べ終えて、店から出ようとした瞬間だった。 その懐かしいひとが店に入ろうとしていて、入り口で鉢合わせしてしまった。 「あっ...」 「あっ!えっ?」 まさか、こんな所で、このひとと.. 正直、いまだに、わだかまりがあるのだけれど、余りにも唐突だったから、まったくの無防備な状態で向き合ってしまった。 向こうも、本当に驚いていた。 いきなり過ぎて、お互い思わず笑みがこぼれてしま

【掌編】『知られてはいけない』

【一駅ぶんのおどろき】コンテスト投稿作品 ............................... ............................... 11月下旬。 この日は妙に暖かかった為、私はTシャツ姿で外出した。 そしてマモルに手を引かれ、街中を歩いた。 周囲を歩く人達の話し声が聞こえてくる。 私は、右隣を歩くマモルに聞いてみた。 「ねえ、他の人達、どんな格好してるの?」 「はい。皆、ハルカさんと似た格好ですよ」 私は、少し安堵した。

【ショートショート】『帰り道で逢ったひと』

その日の仕事帰り、会社の最寄り駅に向かっていた僕は、突然、後ろから声をかけられた。 「あの、この前、ありがとうございました!」 振り向くと、スーツを着た、見知らぬ若い小柄な女性が、少し驚いた様な顔で僕を見ていた。 「.........」 見覚えのない顔に言葉が出ない僕を見ながら、女性は、おずおずとしながら言った。 「あ、あの、こ、この前、ありがとうございました」 この前? 何の事だろう? 「えっと…」 僕の様子を見て、女性は慌てた感じで付け加えた。 「あの!