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[短編小説]GTO物語 ターン編14


僕と彼女のラーメンは同時に運ばれた。というかカウンターの一段高いところに同時に置かれた。お互いにカウンターの上に手を伸ばし各々のラーメンを自分の手間に置き直した。まわりの客が彼女をちらちら見ていた。

彼女はおなかがすいているのか、勢いよくラーメンを食べていく。

(なにか話しかけたい)

と思ったが、なんと話しかけていいかわからない。なんとか話しかけるきっかけを作りたい。普段はラーメンに調味料を入れないのだが、何か起こるかもしれない期待をして、彼女の目の前にある刻みニンニクの瓶に手を伸ばした…が何もおこらず、刻みニンニクの瓶は静かに僕の目の前に来た。僕は入れたくもない刻みニンニクをラーメンに少し加えてから、瓶を元の位置に戻した。

 話しかけたい気持ちは募っていったが、ラーメンはどんどん減っていた。

少しすると彼女はラーメンを食べ終えて身支度を左側に置いた学生鞄を肩にかけて、店を出ていった。僕はかのじょが店から出て行くのをただ眺めていた。ラーメン屋の引きを戸を閉めると大通りの方に向かって歩いていった。

 ふと左側の彼女の食べ終えたラーメンを見ると、隣に彼女のスマートフォンが置き去りにされていた。僕は最後の楽しみにとっておいたチャーシューを犠牲にして、そのスマートフォンをすぐに手にして、店を出た。引き戸はしっかり閉められなかった。彼女の姿が見えたので

「すいません!」と聞こえるように言った。

彼女は気づかずにそのまま大通りに入ろうとしたので

「すみません!」と大きな声で言った。

すると彼女はこちらに振り向いて怪訝そうな顔をしたが、僕が握りしめたスマートフォンを彼女が見えるように突き出すと、あっと驚いた表情を見せた。すぐに恥ずかしそうな表情に変わり、頬がほんのり赤くなった。

 僕がスマートフォンを手渡すと

「ありがとう、ございます」

と言った。彼女の声は特徴的で少しかすれていた。そして彼女の胸にどうしても目がいってしまった。なぜなら僕より十センチほど低い身長とは不釣り合いなくらい胸が大きかった。つい彼女の胸元へいってしまった視線を彼女の目にあわせる。ばれてまいかと心配になったが、彼女の表情は笑顔のままだった。次に何を話せばいいのかわからずにいると

「よく行くんですか?」

と彼女は言った。

「ああ、ラーメン屋おいしくて安いから時々。近所だし」

「えー、近くに住んでるんですか?」

嬉しそうに言った。

「そうだよ、この近くのマンション」

不用心かと思いながらも相手は女子高生そこまで気にする必要もないだろう。

「社会人になったらたくさんラーメン食べられていいですよねぇ。私ラーメン好きなんですけどあんまり食べられなくて…」

「あ、そうなの?」

何かもっと気の利いた返事がしたかったが、口からはそっけなさそうな言葉しか出てこなかった。

「今日はお仕事なんですか?」

「あ、今日は有休なんだ」

「えー、そうなんですねぇ。お休みってことですか?」

「そうだね」

そんなたわいもない会話が続いた後、僕らは喫茶店に行くことにした。


(つづく)

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