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[短編小説]GTO物語 ターン編12

会計を済まし、領収書、診療明細、医師が書いてくれた紹介状を手にして帰路についた。
会社へは病院を出てすぐに連絡を入れて、医師から今日は休むようにと指示があったことにして、一日休むことにした。
普段はは必要以上に説明を求めてくる上司は昨日の今日で、二つ返事ですんなり了承してくれた。

紹介状はがんセンターへの紹介所で自分で電話して予約するよう説明された。
帰宅する間に電話で予約しても良かったのだがなんだが気分が落ち着かないので、家に帰ってからに電話することにした。
ただでも病院嫌いなのにまた数日後に別の病院に行かなくてはいけないと思うと、家に向かう足取りは軽くはなかった。

昼前に自宅マンションに帰り、テーブルに病院で受け取った書類を置き、ソファに腰掛けた。十月の下旬、朝夕は少し冷えるが、今日は陽が差していてほのかに部屋も暖かかった。

がんセンターに電話すると、事務口調の女性が電話口に出た。しゃべり方や声の質からして中年女性だろう。総合病院にかかり医師に紹介状をもらい予約を取りたい旨を伝えた。予約可能な日付を聞くと一番早くて二週間後。

二、三日には新しい病院へかかれると思っていたのに二週間後と聞いて、気が遠くなった。
『その間に僕のがんは進行してしまはないのか?』

立て続けに降ってくる予想外の出来事に叫びたくなった。電話口ではなんとか平静を装えたがかなり動揺していた。電話口の事務員にもっと早く予約とる方法はないのかと聞いても「ないです」と冷たく言葉が帰ってくるだけだった。

僕は混乱しながらなんとか予約をとり、予約日時をひとまずメモした。

『会社には報告するべきか?』『がんセンターに掛かってからでいいか?』『僕はこのまま死ぬのか?』『死ぬなら会社辞めるか?』『親には一応連絡いれたほうがいいか?』

感情と思考が入り乱れて、頭が一杯になった。誰かと話したい気もしたが何も出来ずに五分ほど宙をぼんやりと眺めた。すこし正気に戻ったときにおなかが減ったことに気づいた。

こんなにシリアスな状況でもおなかはちゃんと減ってくれる。

新しいレストランを探す気力もないのでよく通っている近所のラーメン屋に行くことにした。いまのマンションに引っ越してからずっと通ってるラーメン屋だ。初めの頃何度か自分の好みを言ったら厨房のおじさんが覚えてくれていて、その後から好みを言わなくても麺柔らかめ、脂やや多め、味濃いめで作ってくれるようになった。

(つづく)








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