なぜesportsにおいてコミュニティが重要なのか――企業とコミュニティの理想的な関係について

企業が何らかの形でesportsに関わるとき、コミュニティの存在が非常に大きな役割を果たすことはあまりにも自明だ。しかし、その価値やあり方は必ずしも言語化されていないので、試論としてまとめておく。

本稿はかなり抽象化したWhyの議論であり、コミュニティの作り方や運営方法などのHowについては詳述しない。

コミュニティの定義

コミュニティはとてつもなく多様な意味を取りうるが、本稿では「何らかの目的を共有し継続的に相互にまたは何かを介して交流している2人以上のユーザーの集まり、あるいはユーザーたちが活動している場」とする。ユーザーが1人しかいない場合は当てはまらないし、ランダムマッチングで行なわれる試合に参加するユーザー集団はコミュニティとは言えない。

ここで言う「ユーザー」はesportsタイトルをプレイする人=プレイヤーと、大会を視聴したり選手やチームを応援したりする人=ファンを総合した呼び名とする。また、「企業」はコミュニティを営利目的(何かしらの利益を得るため)で利用する団体や個人とし、必ずしも一般的な会社だけを呼び表すわけではないことに注意してほしい。

次にコミュニティを企業主体型コミュニティユーザー主体型コミュニティに分類する。

企業主体型コミュニティはesportsタイトルを提供している企業や、esportsタイトルを利用して自社商品を訴求しようとする企業が資本を提供することで形成されるコミュニティで、コミュニティから何らかの利益を享受する目的で形成・維持される。ユーザーはその企業と直接的に繋がってコミュニケーションするが、ユーザー同士は直接的には繋がっておらず、企業を介して繋がっていることになる。

企業がネット番組を放送しているところを想像してほしい。ユーザーはその放送を観に来てチャットし、企業が提供するコンテンツを企業とコミュニケーションしながら楽しむ。企業運営のネット番組は企業主体型コミュニティが形成されている典型的な例と言える。

ユーザー主体型コミュニティではユーザーが中心となり、ユーザー同士が直接的に繋がってコミュニケーションする。コミュニケーションを生み出す仕組みの中に、企業は介在しない。esportsタイトルがプレイされるならそこに企業の姿が浮かんでくるように思えるが、ゲームをプレイするために企業とコミュニケーションする必要はない。

こちらは一般的なゲームコミュニティとほぼ同じ意味なので、想像しやすいと思う。企業に属する人が個人としてコミュニティを運営するケースも考えられるが、企業の資本が用いられない限りはユーザー主体型コミュニティと言っていいだろう。

また、プロゲーマーやチーム、ストリーマーが形成するコミュニティは、基本的には何らかの利益を得ることが目的なので、企業主体型コミュニティである。が、ユーザー主体型コミュニティに近い、とただし書きをしておく(すべてのコミュニティが企業主体型コミュニティとユーザー主体型コミュニティのどちらかにきっちり分類できるわけではなく、1:9だったり5:5といった割合で両方の性質を持ちうる)。

コミュニティがもたらすもの

コミュニティは企業にとってどんな価値があるのか。言いかえれば、コミュニティは企業に何をもたらすのか。それを考えるには、コミュニティがユーザーに何をもたらすのかを考えるのが早い。ユーザーにとっての利益は企業の利益に繋がるからだ。

ユーザーがコミュニティに所属することで、他者と一緒に遊ぶことが楽しいといった理由から、継続的にプレイ(関与)する環境や意義が生まれる。そのプレイをより楽しくするために課金することになり、企業にとって最も重要な売り上げが生まれる(課金してもらうための仕組み/仕掛けがあることが前提)。これはesportsタイトルに限らず、一般的な課金型のゲームに当てはまることだ。

また、関与時間に比例して、企業主体型コミュニティであれば企業/esportsタイトル/コミュニティへの、ユーザー主体型コミュニティであればesportsタイトル/コミュニティへの満足感や帰属感、愛着といったロイヤリティが育まれる。これはパッケージ型ゲームも同様で、課金型ゲームの場合はさらに課金が発生するだろう。

新規ユーザーも増えていく可能性が高い。そのesportsタイトルを知らなかったような人やコミュニティに属していないユーザーも、評判を見聞きすることでコミュニティへの憧れや興味を感じ、ゲームをプレイしたり自分もコミュニティに所属したりしたいと思うだろう。

また、ユーザーは仲間がある程度多いほうが楽しいからと、同じコミュニティに所属する人を増やしたいと思って勧誘をする。ただ、コミュニティの存在が必ず新規ユーザー獲得に繋がるわけではなく、既存ユーザーのロイヤリティへの影響のほうが大きい場合が多い

このように、コミュニティが企業にもたらす価値は非常に重大だ。しかし、これは別にesportsに特化しているわけではない。ほかのどんなゲーム、あるいは商品においても通じる話だ。esportsにおいてなぜコミュニティが最も重要なのかは、次の議論で明らかになる。

コミュニティがesportsをesportsたらしめる

とある対戦ゲームがある。ユーザーがいて、各々オンラインで遊んでいる。ふと、誰かがSNSを通じて同好の士を見つけた。一緒に遊ぶうち、だんたん仲間が増えていく。そこにコミュニティが生まれる。すると、最初はわいわい楽しく遊んでいる状態から、「あいつに勝ちたい」「コミュニティの全員に勝ちたい」という気持ちが生まれ始める。すなわち、ユーザー同士の競争が生まれる。

ここで、コミュニティ内で1位になることに価値(達成感や名誉)が生じる。コミュニティ内で1位になることに価値があるなら、ゲーム内(いわば最大のコミュニティ)で1位になることにも価値があろう。こうなって初めてデジタルゲームによる競技、すなわちesportsなるものが立ち現れてくる(わいわい遊ぶだけならesportsとは呼べない)。

この議論は対戦ゲームではないゲームにも当てはめられる。競争の要素があれば、そこにはesportsが生まれるのだ。ゲームをクリアするまでの時間を競うRTAはその最たる例だろう。つまり、あるゲームタイトルがesportsであるかどうかは企業やタイトル自身(ジャンルやゲームデザインなど)が規定するのではなく、コミュニティが規定するのだ。

さて、競争が生まれ勝利に価値が生じれば、1位を決めるための大会が生まれる。ユーザーは自分のコミュニティのメンバーが出場する大会を視聴するだろう。ここに視聴者が生まれる。視聴者の存在や集まる場に価値を見出す企業が出てくる。その企業が投資することで、スポンサード大会やプロゲーマーが生まれる。プロゲーマーはさらに大会や視聴者やファンやスポンサーを生み、新規ユーザーをも生み出す。新規ユーザーはコミュニティに所属したり、みずからそれを作ったりする。そしてまた、コミュニティの内部で競争が生まれる。

この循環の根本にはコミュニティがある。

もしコミュニティがなかったとしたら、ユーザーは個々で存在するだけなので、勝利することや1位になることで得られるものがない(その場の試合に勝つという一時的な快楽だけだろう)。大会を開いても1位になることに価値がないのだから、参加者も視聴者も集まりにくい。

そういうとき、勝利を価値づける方法として賞金を付与するケースがある。賞金目当てで大会に参加するユーザーはいるだろう。大会への賞金付与は、企業がコミュニケーションやロイヤリティではなく賞金によって企業主体型コミュニティを形成しようとしていることと同じだ。往々にして、そういう大会では来場者や視聴者はほとんど見込めない。

さらに言えば、大会後に賞金や運営費などの投資を活かしてきちんと企業主体型コミュニティを作り上げ、継続的に利益を得られる仕組みを構築しなければ、まったく無意味な大会となってしまう。

esportsを賞金中心に考えてしまう向きがあるが、それは上記のようなコミュニティの重要性に意識が向いていないからと言っても過言ではない。賞金はあくまで副次的な報酬で、コミュニティ形成への投資と考えたほうがいい。そもそも大会の開催自体がコミュニティへの投資活動である。

ところで、ユーザーがなぜ大会を視聴するのかはまた別の議論が必要だが、誰が勝つのかを知りたい、特定のユーザー(プロ選手含む)を応援したいといった欲望があるのは明らかだ。その原動力は先に述べたように、基本的にはコミュニティが育む。

理想のコミュニティ

次に、企業に価値をもたらすコミュニティの理想的なあり方を考える。誤解がないように言っておくと、企業に有益なものはユーザーにとっても有益だという前提に立つ。企業にとって有益でも、ユーザーにとって不利益ならば、それは理想には程遠い。

企業主体型コミュニティの場合、ユーザーを楽しませることで企業やesportsタイトルに対するロイヤリティと売り上げを高め続けられる状態が理想である。共犯関係を構築できているとなおよい。共犯関係とは、簡単に言えば企業がミスしたときに誠実に謝罪することで、すんなりと受け入れてもらえる状態のこと。あるいはより強固な関係が構築されていれば、ユーザー自身も責任を感じてしまうような状態を指す。

また、企業が誘導しながら(あるいは自然と)ユーザーがユーザー主体型コミュニティを形成してくれればさらにいい。これはまさに、企業とユーザーがともに楽しんでいる状態である。

一方でユーザー主体型コミュニティは、企業がまったく関与しないでも新規ユーザーを獲得し、個々のユーザーを取り込んで拡大し、所属ユーザーのロイヤリティを育み、数字を生み出してくれる状態が理想だ。もしそんなコミュニティがいくつもあれば、企業にとってこれほど幸いなことはない。

ユーザー主体型コミュニティが自律し自走するのはたいへん難しいものの、企業の投資なしで勝手にコミュニティ大会が開催されるような状況になれば、esportsタイトルとしては成功の道筋が見えてくるだろう。その補助輪として企業が関与する方法もあるが、それについてはのちほど議論する。

もちろんユーザーがいずれかのコミュニティに所属するなら、ゲームやコミュニケーションを最大限に楽しめなければならない。コミュニティはユーザーが入りやすい雰囲気であることも重要だ。企業主体型コミュニティで新規ユーザーが入りにくい空気になったら、どんどん新しいコミュニティを立ち上げていくという方法もある。

コミュニティとの関係性

最後に、企業がコミュニティとどんな関係を構築していけばいいのかを考えていく。

ご法度なのが、既存のユーザー主体型コミュニティに企業が無作法に、あるいは一方的にアプローチすることだ。企業なしで盛り上がっているコミュニティに企業が土足で立ち入るようなことをすれば、ほぼ確実に反感を招き、最悪の場合にはコミュニティの喪失とユーザー離れさえ起きてしまうだろう。

基本的に企業なしで成り立つユーザー主体型コミュニティはユーザーに任せきるべきで、そこに企業の論理を持ち込むのは悪手以外の何でもない。ただし、ユーザー主体型コミュニティとまったく関係性を持たないのは企業にとってプラスというわけでもない。適切な距離感をもって誠実にコミュニケーションし、相互理解を深め、企業とユーザー主体型コミュニティという立場でお付き合いをしていくべきだろう。

また、最初から企業が裏方に回り、ユーザー主体型コミュニティの立ち上げや運営・拡大をサポートするケースもありうる。そこで気をつけるべきは、企業がユーザーやコミュニティを貪ろうとしているわけではないことを伝え、誠実にコミュニケーションすることだ。根づいた不信感はなかなか拭えず、投資がすべて無駄になる可能性すらある。

とはいえ、企業があまり手厚くサポートしすぎると、企業のサポートを受けないユーザー主体型コミュニティの存在感がなくなってしまう可能性がある。企業が関われば豪華な賞品や来場特典を用意できるが、ユーザー主体型コミュニティで同じことをするのは難しいし、むしろ参加料を徴収しなくては運営が成り立たない場合もあるだろう。

両者を比べたとき、ユーザーがどちらのコミュニティに参加したくなるかは明白だ。サポートの加減は難しく、すべてのコミュニティをサポートするか、あるいはまったくサポートしないかの二択にすらなりうるかもしれない。

一方で、企業が積極的にコミュニティを利用したい場合には、企業主体型コミュニティを立ち上げることが適切だ。積極的に投資し、ユーザーを集め、企業と直接的なコミュニケーションができる場を作る。esportsタイトルがリリースされたばかりであれば、この動きは必須である。

企業主体型コミュニティが大きくなってきたらそこからユーザー主体型コミュニティが生まれてくるので(または企業がそう誘導する)、その際には喜んで手綱を離そう。また新しい企業主体型コミュニティを立ち上げていけばいい。

コミュニティを形成・維持するために必要なこととして、企業が何らかの投資を行なうことはもちろんだが、ユーザーがコミュニティやesportsタイトルに貢献できる仕組みも必要だと思われる。

たとえば公式フォーラムでユーザー同士がトラブルや質問を解決するなど。サービスを享受するだけでなく、みずから貢献することで、ユーザーはコミュニティ(ひいては企業)へのロイヤリティを醸成していく。そして企業はユーザーの活動を認知し、評価すべきだ(SNSの公式アカウントで言及されるだけで嬉しいものだ)。そうしたことがユーザーの強いロイヤリティを育むことに繋がる。

注意したいのは、企業が積極的すぎるとかえってユーザーが消極的になってしまうことだ。企業主催の大会やイベントが毎週行なわれているとしよう。ユーザーはそれに参加すればある程度楽しめるため、わざわざユーザー主体型コミュニティを作ったりそこで活動したりする必要がない。

渇望感や物足りなさを残しておくことがユーザーやコミュニティの活発化を促すのである。

また、コミュニティとコミュニティを繋いでいくことも、シーンの活性化にとっては不可欠になるだろう。

◆◆◆

ここまでで、なぜesportsにとってコミュニティが重要なのか、そしてコミュニティが企業にもたらす価値が明らかになったと思う。企業都合で大会やイベントを開催しても、コミュニティと何らかの形で連携できていないと、参加者・来場者・視聴者を見込むことはできないのだ。そうなると利益には繋がらない。

もしesportsが一方向性のコミュニケーションを行なうテレビの世界観で展開されるなら、コミュニティはそこまで重要ではないかもしれない。しかし、双方向性のコミュニケーションが必要なネットの世界観では、コミュニティの存在が不可欠である。

実際のコミュニティの仕組みや構造を分析することや、具体的にどうやってコミュニティを形成し、維持・発展させていくかについては、また改めて議論したい。

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謎部えむ

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