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esportsメディアのSHIBUYA GAMEって誰が運営してるの? 儲かるの? 編集長と部長に訊いてきた【SHIBUYA GAME 石川龍&ビットキャッシュ 管野辰彦インタビュー】

esportsシーンを伝えてくれる国内のメディアは、まだまだ数が少ない(攻略サイトがそれなりだが)。情報発信を担っているのはNegitaku.orgやEAA!!、格ゲーチェッカーといった個人が運営するメディアで、企業が運営しているメディアは片手で数えられるほどで存在感も薄い。

ファミ通や4Gamerといった大手ゲームメディアにもesports関連の記事が掲載されるものの、あくまでゲームの世界にある一つのジャンルという扱い。esports専門のメディアではない。

もちろん、企業がesportsメディアを運営していくためにはさまざまな課題がある。最も重要なのは、投資した以上に儲かるのかどうかということ。国内のesports業界の現状を見渡せば、それはとても厳しいと言わざるをえない。

そもそもesportsどころか、一般的に(まともな)メディアは儲かりにくいとさえ言われている。だからこそ、esports業界ではお金を度外視できる個人メディアが優勢なのだ。

だが、そんな中で果敢にも挑戦を始めた企業もある。1つが、PCメーカーのDellが手がけるブランド「ALIENWARE」を柱としたALIENWARE ZONE(僕も記事を書いている)。

そしてそれを追うように、電子マネーを展開するビットキャッシュが2017年5月にSHIBUAYA GAMEというメディアを立ち上げた。

SHIBUYA GAMEはまだ知名度も存在感もほとんどないメディアだが、独自の記事を掲載し、立ち位置を確立しようとしている。しかもビットキャッシュ自体が、CYCLOPS athlete gamingやJCGを傘下に迎えるなど国内のesports市場に全方位的に参入してきている。

気にならないはずがない。だが、中の人のことがあまりよく分からない。

ということで、SHIBUAYA GAMEの編集長・石川龍さん(写真右)と、ビットキャッシュの事業開発部部長・管野辰彦さん(写真左)に、SHIBUAYA GAMEの目的や方針、そしてビットキャッシュが目論むesports市場へのアプローチについて、たっぷりと取材してきた。

ナタリーイズムを受け継ぐSHIBUYA GAME

――SHIBUYA GAMEはゲーマーへのインタビューなど独自の記事が多く、立ち上げ時から注目してました。でも、中の人、特に編集長の「顔」があんまり見えなくて、どういう思想を持ってるのか疑問でした。

まだ始動して2か月ちょっとだとは思いますが、いろいろ訊きたいと思ってます。まずは石川さんの経歴を教えてください。

石川:
僕はもともとバンドマンで、23歳のときにプロのミュージシャンとしてメジャーデビューしました。30歳くらいまで活動してたんですが、いったん見切りをつけて、会社員生活を始めたんです。ただ、その後また別のバンドで音楽活動を始めて、いまも続けてます。

前職はポップカルチャーを扱うメディアのナタリー(運営はナターシャ)で、広告営業のマネージャーをしてました。そのあとにビットキャッシュに転職するんですが、SHIBUYA GAMEにおける僕のメディア論はナタリーイズムをかなり受け継いでます。

――編集の仕事ではなかったんですね。

石川:
チームマネジメントをする立場だったので、ナタリーの各編集長とは強く連携してました。コンテンツ作りがまったく分からないわけじゃないとはいえ、ごりごりの編集者じゃないというのは知っておいてもらいたいですね。

――そんな石川さんが編集長に就任した経緯を知りたいです。

石川:
そもそもビットキャッシュが会社としてesports市場に参入し始めたのは2016年8月で、その頃に僕も入社を誘われました。入社したのは11月ですが、いろいろある仕事の1つとしてesports事業に携わるという前提でした。なので、メイン事業の決済において自分がどんな貢献ができるかと考えて入社の準備を進めてました。SHIBUAYA GAMEはまだ全然形がありませんでした。

同時期に、現在「ゲームBANBAN」という名称でリリースしているesports系のニュースキュレーションアプリの開発が進んでいて、それと並行してesportsのメディアも作るかもしれないという話はありましたね。

――石川さんはナタリーの頃からesportsに関心があったんですか?

石川:
まったく知りませんでした。入社前に代表と面談する機会があり、そこでesportsの世界について説明していただきました。どんな世界なのかと調べたら、自分が見てきた音楽や映画、お笑いとは違うところがありつつ、エンタメというところで共通する部分もあるんだなと思いましたね。ショウビジネスやスポーツビジネスとしての可能性は、素人ながらにも感じました

――まったく分からないとき、最初に何を調べました? esportsでググりましたか?

石川:
まずはそうですね。そうしたら「なぜ日本ではeスポーツが普及しないのか。世界のeSportsとプロゲーマーの年収!」という2014年の記事があり、わりと悲観的な状況なんだなと初めて認識しました。

――当時けっこう話題になった記事ですね(笑)。いまだにこれが検索上位に来るのが悲しいところですが。そういう状態で入社されて、いきなり編集長に任命されたんですか?

石川:
いえ、最初の仕事は別です。僕が入社したときにはすでに関係会社のeスポーツコネクトがCYCLOPS athlete gamingのオーナーになっていて、JeSLが始まる直前でした。それに向けて公式サイトが必要だということで、マネジメントやブランディングの知見があった僕がディレクションをすることになったんです。11月に入社してすぐ大阪に出張し、選手の写真撮影などを行ない、サイトを制作しました。

SHIBUYA GAMEに直接繋がるのは、ビットキャッシュの公式サイトにあったesportsニュースページの存在です。ゲームBANBANとは別で運営してたんですが、ぶつかり合うようなことをしてもしょうがないので、どうしようかと社内で話し合うことにしました。で、やるべきはオウンドメディアだろうとまとまったんです。

ただし、ナタリーでの経験を通して、メディアをやることの難しさは重々承知してます。「やる」と明言するのは怖いことでもあり、非常にリスキーだとは感じてました。ですが、会社としてesportsにコミットするうえではゲーマーや関係会社とのタッチポイントが必須で、その意味でメディアを持つ価値は充分あります。チームオーナーであるということだけでは一日の長のある他社には敵いませんから、別の強みが必要でもあったんです。

――その頃、石川さんはesports事業に対してどんな気持ちになってました?

石川:
楽観半分、難しさ半分ですね。ちなみにいまは「すげー難しいぞ!」という気持ちに変わりました。当時は無知なところも多く、希望的観測ができてたんです。SHIBUYA GAMEで月間100万PVを目指す、と強気でも何でもなく言えてました。

――そうした流れでSHIBUYA GAMEができたんですね。なぜ「SHIBUYA」になったんですか?

石川:
第一は、ビットキャッシュが渋谷にあるからです。また、世界的に見て日本のesportsの存在感が小さいいま、渋谷という街に力添えをしてもらえないかという思惑もありました。渋谷から世界に向けてポップな情報が発信されてますから、その勢いに乗ってesportsの情報も届けられればいいなと。

あと、渋谷駅の再開発もポイントです。2020年頃に渋谷が大きく変わるそうですが、日本で最後の大開発とも言われてますよね。そんな場所に身を置きながら情報発信することには特別な意義を感じます。ですから、渋谷が持つポテンシャルをSHIBUYA GAMEに活かせればと思って名づけました。

「esports」を入れなかったのは、まだハードルが高い言葉だという印象があったからです。できるだけ敷居を低くしたいと思ってGAMEにしました。

日本最大級のEDMイベントでesportsの試合を

――立ち上げ当時、石川さんやビットキャッシュでは国内のesportsメディアの状況をどう捉えてましたか?

石川:
網羅できてるわけではありませんが、メディア状況を整理してみました。赤が企業運営で、青が個人運営のメディアです。esports専門性と媒体規模を四象限で表してます。

SHIBUYA GAMEの立ち位置としては、esports専門性を高くしていきたいと考えてます。また、NEGITAKU.orgや格ゲーチェッカーといった個人運営ながら規模の大きいメディアを一気に超えていくのは難易度が高いので、まずは企業が運営するメディアとして認知度を高めていくのが直近の目標です。

――チゲ速をesports系のメディアとして捉えてるのが興味深いですね。かつてはウメスレからゴシップネタをパクってきただけのまとめスレでしたが、いろいろあって更新の方針が変わってからはたしかに存在感が増してます。

石川:
媒体規模で見ると無視できないですからね。ただ、この図で意識してもらいたいのは規模と専門性で、メディア品質はあまり表現されてません。ちなみに、専門性というのは深掘りというよりもesports関連の記事数が多いという意味です。

――どのメディアが一番気になりますか?

石川:
やはりALIENWARE ZONEです。まだ足元にも及びませんが、少なくともここに追いつかなくてはいけないと思ってます。PCメーカーのDellが運営してることがメディアにどう影響するかが肝じゃないでしょうか。もしかしたらそれが足枷、弱さになってしまうこともありえます。

中立なメディアであることは、それだけで強みになります。その点でSHIBUYA GAMEはフラットだと考えてるので、どんな相手にも取材し、情報を掲載できます。そこにSHIBUYA GAMEの勝機があるはずです。

――僕はALIENWARE ZONEでも記事を書いてますが、書き手や取材対象を見るに「いろいろ超えてきそう」な感があるとだけは言っておきたいですね(笑)。

石川:
なるほど、リサーチが必要ですね……!

――SHIBUYA GAMEの方針についても教えてください。

石川:
メディアポリシーはesportsだろうが何であろうが関係なく、フラットであること、ファン目線で情報を届けることを大事にしてます。それに加え、人に光を当てることを重視し、ゲーマーだけでなくesportsに関わる人や企業全般に取材したいと思ってます。

また、記事の1本1本にきちんとお金をかけて、高い品質を保っていきます。「企業運営」というメリットを最大限にフル活用していくつもりです。

――メディアとして、誰にどういう価値を提供しようとされてるんでしょうか。

石川:
僕のようにesportsをまったく知らなかった人がゲームやesportsの世界に踏み込むきっかけになるような情報を届けたい
と思ってます。ゲームを知らない人にゲームのことを伝えても響かないじゃないですか。特にesportsタイトルだとなおさらです。だからこそ、SHIBUYA GAMEではゲーマーや選手に焦点を当てて、esportsシーンの認知を高めていきたいですね。

ウメハラさんやときどさんの存在は、格ゲーやesportsを好きな人は当然知ってますが、そうでない人はやっぱりまだまだ知らないんです。そういう人に興味を抱いてもらうには、違う切り口が必要になります。

僕はジャンルミックスが鍵だと考えてるんです。入社の際、僕が管野に最初に伝えたのは、日本最大級のEDMイベントであるULTRA JAPANにesportsを持ち込みたいということです。エクストリームスポーツと音楽のコラボが流行ったことがあるんですが、それに近いです。

DJの転換中やサイドで『ストV』の試合が爆音で行なわれてる。そういう世界って面白いと思うんです。

その取っ掛かりとしては、ゲーム好きのミュージシャンにどんどん話を訊いて、ゲームやesportsのことを拡散してもらうイメージですね。ターゲットとしている若年層にとって、ミュージシャンの影響力は非常に大きいと思ってます。

例えばTwitterのフォロワーで言うと、日本のesports界隈ではウメハラさんで約3万人(英語アカウントは約8万人)ほどです。客観的に見て、これはそこまで大きな数字ではありません。ミュージシャンなら何十万人もフォロワーがいる人が数えきれないくらいいます。そういう人たちにesportsを応援してもらえるようになれば頼もしいですよね。

ちなみに、いまも『スプラトゥーン』にはまってるミュージシャンはとても多いんですが、そこから『Overwatch』を始める人はほとんどいないようです。そのギャップをうまく繋ぐことができれば、ほかのメディアができない、SHIBUYA GAMEならではの価値を出せるのではと思ってますね。

さっきも言いましたが、「ほんと難しいな」という気持ちがかなり大きいです。ただ、それを乗り越えて、ビットキャッシュだからこそ提供できる価値を作り、esports市場の拡大のお手伝いができれば、僕がこの会社に来た意義があるなと。

弊社は素人の集まりで、esportsの新参者ではあります。でも、全員が「やるからにはやるぞ」という熱意をもって取り組んでます。いまの職場は仕事をするうえでだけでなく、僕の人生においても大事な環境です。

編集長としての使命感に目覚めた

――単にメディアの読者数やPVを増やして成長させるだけでなく、esports人口や認知度の拡大も視野にあるということですね。

石川:
そういう使命感を最近抱くようになってきました。

――いいですね、使命感。何かきっかけがあったんでしょうか。

石川:
実は、僕はあんまり物事に感動しないタイプなんです。昔は映画を観て泣いてたのに、いまでは全然泣けない。ミュージシャンとして場数を踏むごとに、また年齢を重ねるごとに、ちょっとやそっとでは心が動かなくなるのが悩みでした。だから、ゲームや選手のことを知らないesportsの試合を観て盛り上がる気持ちが正直まだ分かりません。

でも、少しは分かるようになってきました。それは人を好きになったからだと思います。例えばCYCLOPS athlete gamingの選手や、SHIBUYA GAMEにも登場していただいてるふ~どさん、MOVさん、HATSUMEさんたち。ほかにもスイニャンさんが書いてくれているチームのことなど、読めば読むほどそれぞれのドラマがあり、応援すると面白いと感じる人が増えたんです。

特にEVO 2017でベスト8に残ったMOVさんは印象的でした。僕は現地に行ってて、いろんな人から「MOVならいける」という話を聞いてました。そのためか、いつの間にか本気でMOVさんを応援してたんです。拳を握って「頑張れ!」と。こんなに全力で誰かを応援し、勝敗の行方にはらはらしたのは久しぶりの体験でした。

日本に帰ってきた思ったのは、僕が感動するなら同じ気持ちになる人はもっとたくさんいるはずだ、ということです。それが使命感に繋がってます。もちろん何も知らずに感動できるジャンルじゃないですし、SHIBUYA GAMEとしての力もまだまだです。でも、esports自体にはとてつもないポテンシャルがあると実感しましたね。

僕の妻が「esportsって面白い」と言ってくれるようになったら最高ですよ。旦那が夜なべして記事のチェックをしてるのも、何をしてるんだと思われてるかもしれません(笑)。そんな彼女が大会に行ってみたいと言ってくれたなら、自分の仕事は1つ成功かなと思います。

――いまは関心がないんですか?

石川:
たぬかなさんのことは好きですね。ニコ超のとき『ARMS』のエキシビションに参加したのを、妻と一緒に観てたんです。妻はこういうイベントに参加するのは初めてで、たぬかなさんが戦ってる姿に感銘を受けたみたいです。実際に観てもらうことって大事ですよね。

管野:
我々はFIA-F4で戦ってるメディアドゥ影山レーシングにスポンサードをしてます。レースって、マシンの速さに感動するわけではなく、運転してる選手に対して、あるいはそのテクニックに感動するものです。

esportsも同じだと思うんですよ。ただ、esportsはゲーム画面が中心なので、人を応援するのにちょっとハードルがあるのかなとは思います。ゆえに、SHIBUYA GAMEでは人となりを伝えて応援しやすくなるような雰囲気を作りたいんです。

石川:
どうしたら自分たちのビジョンを実現できるのか、そこは本当に悩んでます。サイトをスタイリッシュに魅せるのもそうですし、ほかにもさまざまな方法があると思いますが、模索しながら運営してるのが実情です。先ほどのジャンルミックスはアプローチの1つですね。

――使命感を抱き続けるにはモチベーションが必要ですよね。石川さんはいきなりesportsがメインの仕事になったわけですが、日々のモチベーションって何ですか?

石川:
いまはやればやるほど数字に直結する時期で、情熱に比例して成果が出ます。それはかなりモチベーションに繋がってますが、そういうステージはすぐに終わって停滞期が来るはずです。その先をどうするか。答えはありませんし、やってはダメなこともありません。最先端でシーンを作っていく喜びは感じてますね。

――仕事は楽しいですか?

石川:
楽しいです。でも、事業としてやってる以上、数字を追いかけないといけません。いまはよくても先のことを考えると不安がありますよ。割合で言うと楽しさ3割、不安7割ですかね。

――そこまで楽しくないと?

石川:
いえ、楽しさ3割というのは相当に楽しいという意味です。僕は人生において楽しさが1割くらいあれば上々だと思ってるんですよ。息を引き取る瞬間に「人生よかったな」って思うために必要な楽しさが、人生全体の1割なんです。それくらい世の中はたいへんなことが多く、また自分の思うようにいかず、いろんなストレスを抱えざるをえませんから。

僕は15年ほどプロとしてドラムを叩いてきましたが、割合だけで言えば楽しいときは少なかったんです。だいたいはメンバーと喧嘩をしてるか事務所とのいざこざで行き当たりばったり。ファンからはブーイングされ、根も葉もない噂を立てられてストレスが溜まる一方です。もちろん音楽は大好きですが、そういう環境を経験してると、いまはものすごく楽しいと言えますね。

――話は変わりますが、普段ゲームはされてるんですか?

石川:
最近は『ドラクエXI』をかなり遊んでます。いつもはモバイルゲームが多くて、『クラロワ』を中心に『Shadowverse』や『ウイニングイレブン2017』などもやってますよ。

――ゲームは昔から?

石川:
コアゲーマーかというとまったくそうではないですが、話題作はプレイしてきたという感じですね。『ドラクエIII』は並んで買いました。あと、PSPは思い入れが深いです。当時は音楽で全国を回るような生活をしてて、移動がめっちゃ暇だったんですよ。

対戦ゲームはアーケードの『ストII』や『鉄拳』シリーズなど、いわゆる格ゲーブームの中でプレイしました。駄菓子屋で遊んだのが懐かしいですね。最近のタイトルだと『PUBG』や『鉄拳7』をやってみたいと思ってます。

管野:
実は最近esportsに詳しい人が入社し、社内でesportsクラブを結成することにしました。esportsをばりばりでやってる人はそんなにいないんですが、ゲーム好きは多いんです。その人が「まずはCSでしょ」と言うのでいきなりは厳しくないかと思いつつ、みんなでゲームをする時間は大切にしたいですね。

――やっぱりそういうふうに、ゲームをやっててもesportsに関心がなかった人がesportsと言われるタイトルを少しでもプレイしてくれるようになることが必要ですよね。

管野:
SHIBUYA GAMEでもゲームイベントをやってみたいと思ってはいます。社内にちょっと広いオフィスがあるので、そこに集まるだけでも楽しそうです。イベント運営の専門家であるJCGの人たちもいますし、渋谷でゲームをするのは早く実現したいですね。

――「SHIBUYA GAMEやビットキャッシュの中の人ってゲームしてるのかな」という疑問は絶対にあるだろうので、実際にゲームをしてる姿を見ることは信頼に繋がるんじゃないかなと思います。

独り勝ち狙いでは絶対うまくいかない

――SHIBUYA GAMEは単体ではなく、ビットキャッシュのesports事業の1つです。どんな構想があるのかについても訊きたいです。

管野:
そもそもなぜesports事業を始めたかというと、代表が突然「esportsで日本の若者を元気にしたい」と言い出したんですよ。こちらとしては「は?」と戸惑いましたが、よろしくと言われたらやるしかありません。あれよあれよとeスポーツコネクトができてCYCLOPS athlete gamingのオーナーになり、SHIBUYA GAMEが立ち上がり、JCGまで参画することになりました。

僕らはとにかく、esports業界でご飯を食べられる人を1人でも多く生み出したい、という想いで取り組んでます。スポーツ産業として成立させたいじゃないですか。野球、サッカー、esportsと当たり前に言われるように。

スポーツの世界は選手や裏方含め、さまざまな役割の人たちの仕事で成り立ってますよね。そういう人たちがesportsだけで生活できるようになれば、これはめちゃくちゃ面白いことになると思うんです。いまはまだメインの仕事がある中で趣味としてやってる人や、バイトしながら大会に出てる選手もいます。

SHIBUYA GAMEではそんな人たちに光を当ててコンテンツとして発信し、お金を稼ぐきっかけを作るお手伝いがしたいんですね。記事が載ったからスポンサードを受けられた、となれば僕らとしてもハッピーです。

ただし、あんまりesportsという言葉だけに執着しないことが重要です。esportsと言ってもタイトルはいっぱいあり、それぞれのタイトルにファンがいて、コミュニティが存在します。その1つ1つをじっくり見て、どうアプローチするのがいいのかを考えないとダメですね。

石川:
自分の経験から言うと、いまミュージシャンとしてご飯を食べられるようになるのは本当に難しいんです。僕がメジャーデビューしたのは2004年で、音楽業界がCD販売のビジネスモデルで潤ってた時期です。レコード会社から協賛金、事務所からも契約金などが支払われ、さらに印税収入もありました。でも、CDが売れなくなるにつれて、だんだん収入が下がっていきました。

僕が以前のバンドから脱退したのは結婚のタイミングで、このまま音楽だけで生活するのは厳しいと判断したからです。いくら音楽が好きで、一生懸命取り組んでても、時代の移ろいによってお金を稼げなくなるんです。プロとして生きる難しさを知ってるからこそ、ゲーマーがesportsで稼ぐのが難しいのも分かります。なので、少しでもゲーマーやesports業界で働きたい人の可能性を広げられるなら、全力で手伝いたいと思ってます

管野:
そのためにも、まずは電子マネーの会社であるビットキャッシュがesportsに取り組み始めたということを、ゲーム業界の人たちに知ってもらいたいと思ってます。現状、そこかしこでesportsという言葉が聞かれるようになったこともあり、「ビットキャッシュもいろいろやってるみたいですね」という声をいただいてます。

石川:
電子マネー、スポンサー、チーム、オーガナイザー、メディアと会社として全方位的に取り組んでる強みもあり、SHIBUYA GAMEにもゲーム会社から提案などさまざまなお話が来るようになりました。企業が運営してるからこそ信用が生まれていて、大きなシナジーを感じてますね。

――まだ始動して2か月ですが、現状の手応えはどうですか?

石川:
メディアとしての規模はまだ小さくても、自信をもって出した面白い記事は多くの人に見てもらえるという実感を得られました。一方で、速報系のニュースを掲載するようになったものの、ありきたりなものをうちで出す必要はあるのかなと思ってもいます。リソースの配分で言うと、よりニーズのある記事の制作を優先したいですね。

ただ、広告やPRという観点でSHIBUYA GAMEを見たとき、ゲーム会社の作品を酷評する記事は出しにくいというのは事実です。それは先ほどのフラットという方針と異なると思われてしまうかもしれませんが、どこのメディアでも広告出稿がないと立ち行きません。

ですが、広告を掲載しつつも、ファン目線でフラットな記事を心がけることはできると思ってます。その本質を貫くためにも、より認知を広げて信頼を得ることが大切です。SHIBUYA GAMEが書くことなら受け入れてもらえる、そんな関係をゲーム会社とは作っていきたいですね。

――広告の話が出たので、SHIBUYA GAMEのマネタイズについても教えてください。

管野:
会社としては、やはり事業全体でマネタイズしていくことになります。メディア単体で収益化できるならいいですが、それはかなり遠いでしょう。ですが、SHIBUYA GAMEだけで収益化できなくても読者がたくさん来てくれるようになれば、そこからメイン事業の電子マネー、そしてesportsチームやJCGに波及効果をもたらし、全体でお金が回すことが可能になります。

そういう視点が重要で、メディアだけでなんとかするつもりはありません。esportsが盛り上がれば盛り上がるほど、かけ算で効果が出る仕組みを狙ってます。

石川:
ビットキャッシュの取り組みに対して異論もあるかもしれませんが、esports業界でお金が回り、飯を喰える人が増えないと全体が疲弊していくばかりですからね。本気でやっていきますよ。

あとは、メディアをマネタイズする方法はそれほど多くないので、例えばライターを派遣する事業も考えてはいます。SHIBUYA GAMEに言えば最適なライターを手配してくれる、となれば強いですよね。

もちろん、そもそもとしてesportsに明るい編集者はSHIBUYA GAMEに必須です。そういう人とパートナーになることは最優先ですね。

――メディアとして大切な指標にPVがありますが、SHIBUYA GAMEの目標はどれくらいですか?

石川:
いまのところ月間60万PVを掲げてます。

管野:
ALIENWARE ZONEは読者層が似てて数字を取り合う競合のように見えますが、実際にはesportsを一緒に盛り上げていく仲間のような存在だと捉えてます。esportsメディアと言えばALIENWARE ZONEとSHIBUYA GAMEの二大巨頭、となれば最高ですね。

石川:
そうなんです、独り勝ちするようなビジョンは絶対にうまくいきません。

esportsの仕事は個性的

――それでは最後に、esports業界で働きたい人、特にライター志望の人へのメッセージをいただけますか?

石川:
いまesports業界に飛び込めば、シーンを自分の手で作っていくチャンスが広がってます。やりがいのある稀有な経験ができますし、仕事をやり遂げたときの達成感には大きな価値があると思います。僕自身も学ばなければならないことが多く、一筋縄ではいきませんが、一緒に盛り上げていける人との出会いを心待ちにしてますね。

ビットキャッシュではまだ表立って募集はしてませんが、話があれば聞くことはできます。

管野:
もしSHIBUYA GAMEで書きたいというライターあるいはライター志望の人がいれば、それほど強い覚悟をもって飛び込む必要はありません。ゲームが好きで、攻略を掘り下げたい、プレイヤーを掘り下げたい、そういった気持ちがあれば充分です。当然、それだけで生活できるほど稼げるかは分かりませんが。

でも、いろんな働き方が可能になったいまの時代、専業でやる必要もまったくないんです。ただ、「自分はesportsライター」だという自負は大事です。

僕が石川を採用したのも、石川自身がプロのミュージシャン、ドラマーであることに対して自信を持っていたからです。例えば駆け出しのお笑い芸人でも、バイトのほうが収入が多くても「自分は芸人だ」と胸を張ってますよね。ライターでも同じことです。

石川:
僕もそのとおりだと思います。いまはそれくらい気軽に、と言うと語弊があるかもしれませんが、重く捉えすぎないで仕事をし始めるのもありです。esportsの仕事をしてたということが5年後10年後、重要なキャリアになってる可能性もあります。

実は最近、スラッシャーといういい言葉に出会いました。個性のある生き方をするために同時にいろいろな仕事や職種を経験している表現として、「/」を使うんです。僕の場合だと「ミュージシャン / マーケター / メディアプロデューサー」で、来年にはesports系のものを入れたいと思ってます。全然違う職種であればあるほど、個性豊かなキャリアになるわけです。

管野:
1万時間の法則ってありますが、1つの道で達成するのが難しいから複数をかけ合わせて達成する、という考え方と同じですよね。そのうちの1つとしてesportsに取り組むのがいいんじゃないでしょうか。

石川:
esportsの仕事はめちゃくちゃ個性的ですから。

インタビューを終えて――裾野を広げるメディアとして

CyberZの大友さんもそうだったが、今回の石川さんも自身の過去とesportsが繋がっているのがとても興味深い(ちなみに管野さんは石川さん以上にesportsのことを調べているという)。そして、ともに古くからのゲーマーではないし、ゲームに人生をかけてきたという人たちでもない。

こうしたゲームに対して本気ではない、心から愛していないと思われる人たちが「esports」と声高に言うことを、古参のコアゲーマーは嫌う。「彼らはゲームを愛していない。そんな人に近づいてほしくないし、コミュニティを壊されたくない」と。

だが、業界の新参者を「強烈なゲーム愛があるかどうか」だけで評価することはできない。大友さんも石川さんも管野さんも強烈なゲーム愛を持っているわけではないのに(もちろん充分な敬意がある)、esportsの仕事に本気になったり使命感を抱いたりしている。そこには大きな価値、そして示唆があるように思う。

さて、SHIBUYA GAMEの月間60万PVという目標は、esportsメディアとしてはそれなりかもしれないが、収益化を目指すBtoCのメディア(読者が個人)としてはとてつもなく少ない。しかし、BtoBも込みで考えれば、そこまで悪くない数字ではある。まだまだ手探りの状態ではあるそうだが、まずは60万PVに向けて独自性のあるクオリティの高い記事を更新していってもらいたい。

石川さんがおっしゃる「esportsに興味のない人へのきっかけ作り」は難しいがとても価値ある仕事だ。それはゲームに興味がない人だけでなく、ゲームが好きでもesportsに関心がない人も含まれる。SHIBUYA GAMEには、ぜひそういう人たちにも振り向かれる存在になってほしい。

……そうすると競合はALIENWARE ZONEよりもKAI-YOUのようなメディアだと思うが、そこはesports専門性で差別化できるだろう。心から期待している。

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石川龍 @slow_night
SHIBUYA GAME @SHIBUGAME / サイト

取材・執筆・撮影
なぞべーむ @Nasobem_W

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