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クラロワリーグ世界一決定戦で舞った"みかんバルーン"に愛を込めて

『クラロワ』を始めて1年ほどが経つ。

とあるキャスターが、「『クラロワ』の大会番組は最も学びがある現場の1つ」と話していて、それなら自分もやってみようかなと思ってインストールした。あっという間にハマって、いまはカンストのロイジャイとゴーレムに苦しめられている。

『クラロワ』はゲームだけでなく、シーンの描き方もとても魅力的だ。その最たる例が、2017年にアジア大会に出場したけんつめしを追ったドキュメンタリーだろう。僕も彼を紹介する記事も書いて、多くの人に共感してもらえた。

それも束の間、今年の4月にはプロリーグであるクラロワリーグが始まった。けんつめしはもちろん、カリスマと呼ばれるみかん坊やなど国内のトッププレイヤーが4つのチームに所属し、韓国と東南アジアのチームと鎬を削ることとなった。

その中で印象的だったのは、数々の名試合はもちろんだが、それまで控えめだったトッププレイヤーたちが次々とYouTubeに動画を投稿し始めたことだ。お勧めのデッキやテクニックだけでなく、彼らの考え方、日常、プロという立場に対する姿勢まで知ることができた。

みんな独特のキャラクターがあって、知れば知るほどリーグの1試合に詰め込まれた想いを感じ取れるようになっていった。キャスター陣も運営陣も、なんとかその部分まで伝えようと全力を注いでいるのが配信画面の端々に感じられた。

『クラロワ』のプロシーンは加速していく。1stシーズンの頃、世界大会が開催されるのかは誰も知らなかった。そのうち2ndシーズンが始まり、終盤に突如としてクラロワリーグ世界一決定戦が幕張メッセで開催されることが告知された。チケットは2時間で完売したという。

僕たちの期待は否応なしに高まっていった。

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世界一決定戦が告知されたあともリーグは続いていた。クラロワリーグ アジアという名のとおり、アジア1位のチームを決めなくてはならなかった。

みかん坊やを筆頭とするPONOS Sportsが1stシーズン以上の強さで日本1位を奪い去り、早々にプレイオフと世界一決定戦の出場を決めた。その背後で、プレイオフに進出する権利をかけてけんつめしたちが所属するFAV gamingもワイルドカード決定戦を戦っていた。

だが、FAV gamingは勝てなかった。プレイオフの出場権を逃した瞬間、試合中に、RADは耐えきれず涙を流す。その様子はドキュメンタリーに残されている。RADがどれほどの覚悟でリーグに臨んでいたか、少しでも知ってもらえると嬉しい。

ほかの選手にしても同じだ。例えば、GameWithのZEROSが2ndシーズンに向けて仕事を辞めたことは、彼らが背負うものの重さを象徴している。国内最高峰のプレイをするために用意された舞台で、彼らは名誉を懸けて戦い続けた。

そして時に、背中にのしかかる重圧は選手の思考と手元を狂わせ、思わぬ事態を巻き起こす。プレイオフに挑んだPONOS Sportsのライキジョーンズは、負ければ敗退が決定する最も重要な試合で、いつもならありえないミス――BANカードのトルネードを使用して反則負けを喫してしまった。

視聴者からの心ない声もあった。期待が大きかった分、その気持ちは分からないでもない。だが、チームメンバーは誰も彼を責めなかった。監督を兼任するみかん坊やは、タイムアウトのデッキ作成中に気づけなかった自分の責任でもあるとこぼした

ライキジョーンズは、翌日には吐きそうになりながら状況と事情、そして心の内をファンに対して動画で説明し、顔を上げて世界一決定戦への決意を告げた。

◆◆◆

12月1日。僕は11時前に幕張メッセに着いた。

このクラロワリーグ世界一決定戦、キャスターの岸大河やドズルのツイートによると、設営とリハーサルに2日をかけたという。それだけの舞台が用意されているに違いなかった。

6ホールの中に暗幕で囲われた空間があった。中から耳慣れた声が場の空気を温めようとしているのが聞こえてきた。続けて歓声が起きた。グッズコーナーやフォトスペースを足早に通りすぎ、僕は奥へ進んだ。階段があった。1段飛ばしで駆け上がった。

ぱっと開けた視界の先に、いわゆる「世界大会」の番組でよく見る円形舞台が広がっていた。中央に選手が戦うステージが鎮座し、周囲を何段かの観客席が囲う形。『クラロワ』の世界の中に入り込んでしまったような。まだ前のほうが空いていたので、そこに陣取った。

僕は入り口で受け取った新聞を広げた。毎日新聞が今大会を取り上げた特別版だ。前日にはメンバーのインタビュー記事もサイトに掲載されていた。彼らがいまからこの大舞台で戦うのだ。

すると、きおきおがフロアを走り回り、大声を上げながらクラロワグッズを観客席に投げ込み始める。歓声を煽る声も息絶え絶え、この役は彼にしかできない仕事だった。

ふと見渡すと、会場のおよそ1000席はすでに埋まっていた。

◆◆◆

11時になった。『クラロワ』を象徴する赤と青のライトが輝き、岸の声が場内に響く。すぐ隣で打たれる太鼓の振動が体を震わせる。いよいよ世界一決定戦が始まったのだ。

事前に決定されたように、PONOS Sportsは初戦からの出場。相手はNova Esportsと並んで優勝候補と言われていた、Royalやthegod_rfという世界最強クラスのプレイヤーを有する北米代表のImmortalsだ。

セット1の2v2、みかん坊や&天GODのペアは見事に勝利を収めた。2v2はプロリーグでしか大会が行なわれておらず、使用されるデッキや戦術はこの半年間で練り上げられてきた。ゴーレムや巨大スケルトン、ロイヤルホグ、最近ではロイヤルジャイアントと環境の中心となるカードは変わり続けたが、その中で高い勝率を誇ってきたのがこの2人だった。

実況と解説もかつてなく熱がこもっていた。多種多様なタイトルをプレイしながらも『クラロワ』に膨大な時間を費やしてきた岸と、つい先日ゲーム内で最も高いランク帯である天界に到達したドズル。この半年間、リーグのメインキャスターを務め続けてきた2人がPONOS Sportsの大試合を鋭く、的確に表現してくれた。

セット2は1v1、いよいよライキジョーンズが登場した。だが、及ばず0-2で敗北。勝負の行方は最後の勝ち抜き戦、KING OF THE HILLへ。

ゲーム1を戦ったのは、昨年世界一決定戦に出場したフチ。アナリストとしてチームを支えながら、ここではその分析力を試合にぶつけることとなった。しかし、thegod_rfの防衛を突破できなかった。

次に、先ほど破れたライキジョーンズが舞台に上がった。ここで勝たなくては何のための決意表明だったのか! ライキジョーンズは2人を華麗に打ち倒し、最後の望みをみかん坊やに託した。

頼む――僕は祈った。静まり返った会場のみんなが祈っていた。すべての視線が、堂々と階段を上るみかん坊やに注がれる。その背中がどれほど大きく見えたことか。

そして歴史に残る1戦が始まった。日本最強と北米最強が正面衝突、試合開始早々に場を動かしたのは、相手の隙をついて放たれたみかん坊やのエアバルーンだった。自身の代名詞でもあるそのユニットがRoyalのプリセンスタワーをへし折ったのだ。

勝負は決する。

場内は歓声と拍手で満たされていく。岸が満を持して言ったように、"クラッシュ・ロイヤル"が成し遂げられた。

◆◆◆

その後、知ってのとおり、PONOS Sportsは準決勝でVIVO KEYDに完敗した。みかん坊や&天GODがなす術なく打ち破られ、国内最強の一角を占めるRolaporonが手玉に取られるほどの相手だった。

世界最強まではまだ実力の差があった。しかし、その差は思ったより大きくはなかったように思う。もしもう一度世界一決定戦が開催されれば、日本のチームには優勝の可能性がある。彼らがそう確信させてくれた。

ステージで火花が降り注ぎ、金色のクラウンが煌めくと、紙吹雪が舞い散った。トロフィーの輝きは、まさしくNova Esportsの輝きである。僕はしばらく席に座ったまま、余韻に浸っていた。

◆◆◆

選手はもちろん、運営陣の覚悟も並々ならぬ大会だった。最高の1日を体験させてみせるという意思が漲っていた。世界大会だからこその規模だったのかもしれない。けれど、esports先進国の事例として紹介されるような大会が日本で開催されたこと、それ自体が感慨深かった。

クラロワリーグはいったんこれで幕を閉じる。この先どうなるのかは分からない。Supercellからは新作『Brawl Stars』が発表され、近日中にリリースされる。栄枯盛衰、トレンドの移り変わりが早いゲーム業界にあって、『クラロワ』が永遠に続いていく保証はまったくない。

それでも僕は、みかん坊やがエアバルーンでタワーを割った瞬間を一生忘れないだろう。

◆おまけ(音量注意)


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