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clusterのスーパーロイヤルユーザーは何人いる? サービス成長に有効な指標を考える

僕が利用しているメタバースプラットフォームのclusterを運営するクラスター社が、なんと2022年7月7日(木)に7周年を迎えました。

まったくめでたいことで、メタバースのプラットフォームを運営しているスタートアップが7周年とはすさまじいことです。何度も資金調達をしながら、ここに至るまでに大きな方向転換もしつつ、それでも「バーチャル」という軸をぶらさずに戦ってきたことは最上の尊敬に値します。

clusterはいま、バーチャル空間(メタバース空間?)におけるコミュニケーションとクリエイションを大きなテーマとしています。特に2021年3月から定期的な大型アップデートが途切れず、その注力度合いや人材採用の様子から、プラットフォームとしてますます勢いづいていくことが予想されます。

そんなクラスター社が同日に配信したプレスリリースが、clusterユーザーの間でちょっとした話題になりました。

1週間に6~7日clusterにinする「clusterスーパーロイヤルユーザー」の平均滞在時間は4時間を突破。
まさに生活の一部になっています。帰宅してから、家に居るときの余暇時間など、ごく自然に「cluster」を立ち上げ、ワールドを回遊したりフレンドとコミュニケーションをとったり。
「バーチャル空間で過ごす」が日常に組み込まれているユーザーが日々増えてきています。

スーパーロイヤルユーザー! なんとも端的な用語ですね。友達はダサいと言っていましたが、表現したいことを表現していると思います。

どうやらこのロイヤルユーザーを超えるロイヤルユーザーであるスーパーロイヤルユーザーは、「1週間に6~7日clusterにinする」ユーザーということで、言いかえればほぼ毎日インするユーザーのこと。滞在時間は特に定義されていませんが、現状は平均4時間を記録しているとのこと。

毎日4時間以上をclusterで過ごす。放置している人も入っているかもしれませんが、それでもなかなか強烈な数字です。ちなみに僕は全然及びませんし、スーパーロイヤルユーザーでもありません。

さて、前置きが長くなりましたが、この記事では言葉のインパクトや数値の大きさに踊らされず、スーパーロイヤルユーザーが意味のある指標なのかを検討してみましょう。つまり、スーパーロイヤルユーザーが増えればclusterの売上が成長するのか、ということです。

僕のいまのところの印象では、あくまで「メタバースで生活している人がいるということの印象作り」のための言葉であり、ビジネスやclusterの盛り上げにはそれほど有効な指標ではないと考えています(もう少し将来には別の意味が宿ると思いますが)。

では、clusterの成長や盛り上げに有効なユーザー指標とは何か。結論すると、「あの人がいるからインする」とか「あの人を推したい・応援したいからお金を使う」という、誰かの理由やきっかけになれる人の数だと思います。別の言い方をすると、コミュニティやプロジェクトの中心に立てる人、もしくは友達や人間関係を作ることに長けている人ですね(ある意味ではインフルエンサー)。

そこに至る議論を、このあと少し。マーケティングの話です。

スーパーロイヤルユーザーは何人?

1日一瞬でもほぼ毎日clusterにインする人がスーパーロイヤルユーザーとなりますが、これだとあまりにも意味がない指標になってしまうので、1日30分~1時間はインしているとしておきましょう(平均滞在時間が4時間ですが、とすると3~5時間の人が多いと思います)。

では、現時点(2022年7月)でこの定義のスーパーロイヤルユーザーはいったい何人くらいいるのか。

完全に僕の体感と適当な憶測ですが、100人よりは多くて400人よりは少ないくらいな気がします。いずれにしても500人以上、あるいは1000人以上ということはないでしょう(スーパーロイヤルユーザーに該当する人にも訊いたらだいたい100~400の数字が出てきました)。

さて、仮にスーパーロイヤルユーザーを400人と想定した場合、この数字が意味することは……「clusterってほんとに成長してるの?」という大いなる疑問です。正直なところ少ないし、成長率も低いのではということですね(あくまでスーパーロイヤルユーザーが有効な指標だとして)。

一般ユーザーを対象にしたコミュニケーションの場を提供しているプラットフォームを毎日それなりの時間利用するユーザーが数百人しかいないわけですから、持続的なサービスとして成立しているとは言いがたいです。

これがもし1000人になったところで特に変わりません。スーパーロイヤルユーザーが数万人、ないし10万人規模になってようやくビジネス的な面白さが生まれてくるかと思います。

スーパーロイヤルユーザーは売上の源泉?

なぜかというと、スーパーロイヤルユーザーはおそらく今後clusterでお金を積極的に使ってくれる人たちだと想定できるからです。

この人たちが1か月に500円を利用すると考えると……(プレミアム会員の料金でわりと見る価格)。先ほど想定した400人なら1か月の売上は20万円です。個人事業主のレベルですね。

10万人なら月5000万円の売上となります(年間だと6億円)。死ぬほどデータを喰うメタバースプラットフォームの開発・運営およびクラスター社の社員数や採用の勢いに比べると10万人でもかなり物足りませんが、成長の可能性は見出だせます。

「いや、スーパーロイヤルユーザーは1か月に500円以上使うのではないか?」という疑問はもっともですし、推測の400人も体感では多い気がします。なので、ちょうどいい数字を探しましょう。おっと、プレスリリースの中にありましたね。アバターマーケットの参加人数とアバター販売数です。

アバターマーケットの公表値から推測

アバターマーケットの開催期間は第1回が3日間、第2回が4日間、第3回が31日間です。第3回だけ大幅に開催形式が変わっており、当然諸々の数値は大きくなります。

ちょっと数値を分解していろいろ考えてみましょう。

結論だけ知りたい方に書いておくと、現時点でスーパーロイヤルユーザーは200人ほどで、1人あたり1か月に2000円を使うと推定できました。

黄色セルは公表値からの数値で、ほかは推測値。

※以下では正確な数値よりおおまかな数値を掴みたいので、基本的にキリのいい数値にしています。

訪問数(参加人数)について

公表値の参加人数が延べになっていますが、これは誰か1人がイベント会場を1回訪れるごとに1カウントされる訪問数のことのはずなので、上の表では参加人数ではなく訪問数としています。同じ人が1日に10回訪問すれば延べ参加人数は10人となるため、訪問数のほうが正確ですね。

第3回の訪問数は延べ83600回、1日あたり2700回でした。僕が開催したユーザーイベントでは800回で、ユニーク参加人数が(体感では)100~200人くらいだったので、第3回の1日あたりのユニーク参加人数は540人くらいでしょうか。

期間中のユニーク参加人数は推定が難しいですが、毎日同じ540人が訪問していたら期間全体でも540人ですし、毎日違う540人が訪問していたら16740人になります。後者はありそうにないですね。

とりあえず1日あたりの数値を推定してみましょう。パレートの法則を訪問数に雑に当てはめると、2割のスーパーロイヤルユーザー100人で8割の訪問数2160回、8割のライトユーザー440人で2割の訪問数540回となります。

※パレートの法則とは、全ユーザーのうち2割のコアユーザーの利用金額が、総売上のうち8割の売上を占めるとする経験則です。8割ではなく6割がより適切という説もあり、僕もそっちが適していると考えていますが、ひとまず2:8でいきましょう。

さすがに100人で2000回以上、言い換えると1人20回以上も毎日訪問しないと思うので、1人が10回訪問するとして、200人くらいがスーパーロイヤルユーザーだと考えられます。

恣意的なところもありますが、当初体感で仮定したスーパーロイヤルユーザーの数に近い数値が出てきました。

※31日間のうち新規のユニーク参加人数は右肩下がりになり、後半になるほど過去に1回でも訪問した人の占める割合が増えると思われます。

※全ユーザーを含めた1日のピークの同接人数は、「オンライン」にいる人を数えてみたら300~400人くらいな気がしました。

アバター売上について

続いて、スーパーロイヤルユーザーが1か月に使いそうな金額を知るためにアバターマーケット第3回における総売上(流通した金額)を推定してみます。

アバター販売価格は500円で出品している人が多かったので、ここでは600円と仮定し、延べアバター売上を算出。第3回は31日間で466万円の売上となり、1日あたり15万円です。

ここでもパレートの法則を適用すると、スーパーロイヤルユーザーは8割の1日12万円を使ったことになります。これを先ほどの200人という推定値で割ると1人あたりの1日の使用金額が分かります。ということで、スーパーロイヤルユーザー1人あたり1日で600円を使ったようです。

仮に開催期間中に毎日600円を使い続けたら1万8000円となり、これは僕が聞いたスーパーロイヤルユーザーたちの使用金額とかなり近いです。あくまで推定値であり根拠はありませんが。

ただし、これをもってスーパーロイヤルユーザーが毎月1万8000円をclusterに落としうると考えることには無理があります。これはあくまでアバターマーケットというお祭のテンションがなしたことであり、平時ではないからです。

けれども、1つ別の考え方を導入すると面白いことが見えてきます。この1万8000円という金額は、第2回のアバターマーケットから第3回までの間にclusterやクリエイターにお金を使いたくても使う機会と場がなかったスーパーロイヤルユーザーが溜めに溜めた感情を発露した結果だと捉えてみることです。

第2回から第3回までの期間は約9か月間。1か月間に溜まった感情(分の金額)は2000円です(1万8000円÷9か月間=2000円/月間)。VRChatの有料会員サービスが9.99ドル(1380円)なので、それに1つ2つデジタルな買い物をすると考えると2000円ほど。妙にリアルな数値が出てきましたね。

ということで、今回の推定では、現時点でスーパーロイヤルユーザーは200人ほどおり、1人あたり1か月に2000円を使うということになりました。

スーパーロイヤルユーザーは結果論

スーパーロイヤルユーザー200人が1か月に2000円を使うと40万円です。これまた個人事業主レベルですが、仮にclusterが成長して5万人になれば1億円(年12億円)、10万人なら2億円(年24億円)です。プラットフォームを運営していくにあたってそれなりに可能性を見出だせます。

将来的には、(本当にお金を使ってくれるかどうかが確認できれば)スーパーロイヤルユーザーの数が売上と成長を予測するために有効な指標になるのではないでしょうか。

でも、いまの本当の問題はスーパーロイヤルユーザーを増やすにはどうすればいいのかということです。

要するに、スーパーロイヤルユーザーは何らかの指標を高めるための施策の結果として増えていくだけなので、具体的な施策のためには別の指標があったほうがいいということです。

では、その指標とは? それにはスーパーロイヤルユーザーの行動と心理を分析するほかありません。いったいなぜスーパーロイヤルユーザーはほぼ毎日何時間もclusterにインするのでしょうか。

スーパーロイヤルユーザーがclusterにインする理由

幸いにも周りにスーパーロイヤルユーザーがたくさんいるので話を聞いたり行動を見たりしていると、ほとんど全員がclusterにインすることを習慣にしています。

ただ、習慣というだけでインしているのではなく、バーチャル空間のSNSという性質上、「誰かと会う・話す・楽しむ、誰かに見せる・共有することを期待している」という大きな要因があります。これは「行きつけのワールドや定期イベントがある」という要因にたいていは先立つ根源的な要因です。

clusterはTikTokやInstagramのようなSNSと違って、インすれば自動的に楽しませてくれるコンテンツが無限に流れてくるわけではないので、ユーザーが楽しむには主体性(自分から動くこと)が非常に重要です。

その主体性を発揮するには、誰かとの相互作用=コミュニケーションが中心に立つしかないわけです(スーパーロイヤルユーザーでワールド巡りやゲームワールドでの遊びを主目的にしている人を見かけたことがありません)。ここで言うコミュニケーションは必ずしも会話を意味せず、同じワールド内でお互いを認識しているだけのような状態も含みます。

ということは、ユーザーがclusterにインすることを習慣化するきっかけとして、「あの人」がいるワールドがあり、「あの人」とコミュニケーションすることを期待し、「あの人」がやっていることを楽しみたいという気持ちが生じなければなりません

「あの人」こそ、冒頭で書いた「コミュニティやプロジェクトの中心に立てる人、もしくは友達や人間関係を作ることに長けている人」のことですね。

もちろん、スーパーロイヤルユーザー全員が「あの人」をきっかけにしたわけではなく、「あの人」は必ずしも大きな影響力を持っている人とは限りません。単に「好意を持っている相手」である場合もあるでしょう。

そして、「誰かに出会えるかもしれない」というときの「誰か」も「あの人」なので、特定の人であるとも限りません。

※スーパーロイヤルユーザーが特定のワールドにインする場合、ほとんどはそこのワールド主が「あの人」になっています。ワールド主がいないとそのワールドに人が集まらない現象は日常的なことです。

「あの人」はインフルエンサーとは限らないので、いい感じの言葉がなかなか思いつきません。きっかけになる人なので、トリガーと呼んでおきましょう。あくまで内向きの言葉っぽいので、外向きには後述するパートナーでもいいかもしれません。

※公開後に思いついたんですが、相互トリガーという概念が重要そうです。例えば、AさんはBさんが来ることを期待してインする一方、BさんもAさんが来ることを期待してインするような状態の人たちです。

「あの人=トリガー」を増やす施策

clusterに直接的に資するユーザーはほぼ毎日インするユーザーだけではありません。週1に1回しかインしないけれどスーパーロイヤルユーザーがインするきっかけになっている人がいれば、その人はスーパーロイヤルユーザー以上にclusterに大きく貢献していることになります

※トリガーのうちクリエイターはUnityやBlenderなど外部ツールを使っていることが多いはずで、その作業中はclusterにインしていない傾向にあります。クリエイターだけでなく、clusterに頻繁にインしていなくてもclusterの成長に直接的に寄与するユーザーが大勢いることは見逃してはいけない点です。また、おそらくスーパーロイヤルユーザーではなくもう少し低頻度でインするロイヤルユーザーの数のほうが重要かもしれません。

すでに書いたように、clusterはUGCのプラットフォームですが、現状ではほかのSNSのようにインすれば役立つ情報が勝手に流れてきたり、楽しいコンテンツが膨大に押し寄せてくるわけではありません。とにかく人の存在とコミュニケーションが重要です。

だからこそ、トリガーを増やす施策やトリガーをサポートする施策が必要ですし、有効だと思われます。

例えば、いくらワールドクラフトの機能が充実したとしても、誰にも何も言われずそれをやってみようとするのは最初から創作意欲がある人だけであり、誰かにおすすめされたり誘われたりしてやってみるほうが始めやすいし継続しやすいのではないでしょうか。その誰かこそがトリガーですね。

具体的な施策として1つ、Twitchが実施しているTwitchパートナーシップを紹介しておきます。

Twitchでは視聴者を楽しませてくれるクリエイター(生放送をしている配信者・ストリーマーのこと)のための施策がいくつもあり、オフラインのパーティに招待するといった施策もありました(過去には東京ゲームショウの特別ブースに招待されたクリエイターだけが入れるなどの施策も)。Twitch Streamer Battleのような、活動的なストリーマーだけが参加できる対戦ゲームのイベントもありますね。

Twitchの場合はクリエイターと視聴者が明確に分かれているので区別が明瞭ですが、clusterの場合は境界線が曖昧なのでこのまま取り入れるのは難しく、ユーザー間の扱いに差を設けることには是非があるかもしれません。しかし、その基準を曖昧にせず、明確に「この条件を満たしている人全員」といった基準を設けておけば大丈夫だと思います(その条件はクリエイターの目標にもなりえます)。

大事なことは、トリガーがもっと頑張ろう、みんなを楽しませようと前向きに考えられるようなサポートをいかに実施していくかですね。

Discordにもパートナープログラムがあります。

あなたも誰かのきっかけに

最後に、クラスター社目線ではなく我々ユーザー目線でのお話。

幸いにも、僕の活動がきっかけでclusterを始めたり、clusterで何かプロジェクトをやったり、clusterにインする理由にしたりしてくれている人が何人かいます。

それは僕が特別だからではなく、自分がきっかけで誰かの行動が変わるのを楽しいし嬉しいと思っていて、意識的にそのきっかけ作りをしようとしているからです。

これは誰にでもできることです。だから、別にclusterの機能やサポートを待つ必要はなく、あなたも誰かのきっかけになるようなことをいますぐ始められます。そして、僕はぜひ始めてほしいと思っています。

そのために、以前プロジェクト志向の記事を書きました。これもよかったら読んでみてもらえるとありがたいです。

最初は全然誰も来てくれないし、挫折しそうになるかもしれませんが、僕もそうでした。でも、継続していくことで仲間や友達ができていきましたし、いまもいろいろ続けられています。

誰かのきっかけになるための活動をすれば、いまのclusterでのバーチャル生活ないしメタバース生活をもっと楽しめるようになります。

めんどくさいし怖いし恥ずかしいかもしれませんが、clusterでは普段の自分ではないバーチャルの姿を持っているはずです。どんどんやってみて、それから失敗して、改善しながら何でも試してみてください。誰も挑戦しているあなたを馬鹿にはしませんからね。

何十人、何百人にも影響を与える必要もありません。たった1人でも、あなたがきっかけでclusterを楽しいと思ってくれる人がいたら、それって本当にすばらしいことですよ。

もし相談や話したいことがあったら、毎週月曜日の夜にclusterのアドバースというワールドにいるので来てみてください。


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