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キャスターじゃない、選手の顔を見たいんだ――ストVオールスターが取り入れた「遊び」の楽しさ

RAGEの枠組みで始まったストVオールスター。6月19日の第5節で一区切りとなったが、大会番組として面白い工夫がなされていたので紹介したい。

大多数の大会番組でカメラが捉えるもの

esportsの大会番組といえば、まず実況席が映されて本日のキャスターがあいさつをする。その日のタイムテーブルや対戦カード、チームや選手の紹介がなされ、キャスターによる見所が語られる。

そのあと試合が始まり、試合中はずっとゲーム画面が映されている。選手が会場にいるオフライン大会の場合、ワイプで選手の様子が切り取られていることもある。ラウンドが決着すると、次のラウンドに映る短い時間に選手の表情やチームのやり取りが映されるときもあるだろう。

そして選手が勝った瞬間、負けた瞬間の表情が捉えられる。優勝が決まれば、トロフィーを掲げる選手とインタビューの風景が映される。

それ以外の時間はどうか? 大多数の大会番組では実況席、キャスターの様子が配信されることになる。オンライン大会ならキャスターばかりが画面を占有するのはしょうがない。しかし、オフライン大会でもキャスターが画面を占有する時間はけっこう長い。

逆に、選手の顔が映っている時間は意外と短い(とはいえ体感なので、できればこのデータがほしい)。

選手の様子を楽しめたスト5オールスター

そういう大会番組のフォーマットが当たり前になっているいま、ストVオールスターの取り組みは観戦する人をもっと楽しませようという試みだったと言える。どんなことをしたのか?

試合の決着後、カメラが選手たちの様子を間近で捉え、声も一緒にかなり長い時間映し続けたのだ(頻度も高かった)。映像だけならままある。しかし、この番組では勝ってメンバー同士で喜ぶ姿だけでなく、健闘を讃えたり冗談を言ったりする声が一緒に聞こえてきた。試合直後に選手が何を言い、メンバーにどんなことを言われているのかが分かって、とても楽しかった。

観戦する立場から言うと、これまで「選手の声」はインタビューという用意された舞台でしか聞くことができなかった。マイクを向けられると選手側も身構えて、インタビュー用の不自然な言葉を使ってしまう。

でも、ストVオールスターは試合に臨む選手たちのあるがままの様子を楽しむことができた。こうした見せ方を行なった番組はほとんどなかっただろう。本当に画期的な工夫だった。

ちなみに、ドラフト会議でエキシビションが行なわれたのだが、勝ったチームには4000円の弁当が、負けたチームはスタッフが作ったおにぎりが配られた。初戦となる第1節では各チームに味の感想を尋ねるというこれまで聞いたことのないインタビューも行なわれ、予想外のところで楽しませてくれた。

キャスターの顔を見たいわけじゃない

僕は大会番組では試合を観たいし、プレイ中の選手の表情を見たいし、チームや選手がどんな感じで大会を過ごしているのかを知りたい。チームメンバー同士で相談したり、なんなら食事や水分補給をしたりしている姿を観たい。別に、キャスターの顔を見たいわけじゃない

そういう人がどれくらいいるか分からないが、ストVオールスターのチャットを見ていると、選手同士のやり取りにとても多くの人が好意的な反応していた。選手の一言に対して大草原が生まれもしていた。「将棋飯」が将棋人気の一翼を担ったのと同じように、「試合外の選手の様子」は強力なコンテンツになりうると確信した。

もちろん、キャスターの顔を見たい人もいるかもしれない。僕は最初のあいさつ以外はキャスターを一切映す必要がないと思うけれど、多少はキャスターのファンにも応える必要があろう。

キャスターも人気がほしいわけで、自分の顔が映されることは望ましいかもしれない。ただ、それだとキャスターとしては失格だろう。ゲームキャスターの岸大河もこう言っている。

あと、キャスターは自分が目立つ仕事じゃないと思ってます。だから、自分がすごい、自分が盛り上げてる、自分が人気、と考えてるアイドル気取りは、絶対にしてはならないことだと思います。そういう意識はもったいないと感じますね。

人気者になりたいならYouTuberやストリーマーをやるべきです。キャスターはあくまで選手や共演者を魅せる仕事ですから。

大病から復帰した岸大河、ゲームキャスターという仕事に何を思う?」より

緊張が続く大会番組だからこそ「遊び」を楽しめる

大会は緊張が支配する場だ。でも、緊張ばかりでは選手も観戦者も疲れてしまう。それゆえに、ときどき「遊び(緩和)」が挿入されることでリラックスでき、緊張のシーン(試合)にも余裕をもって臨むことができるようになる。選手も観戦者も同様だろう。

多くの(特に公式の)大会番組も緊張が幅を利かせている。もちろん、大会番組は緊張のシーンをかっこよくし、魅力的にする方向で発展している。それ自体はすばらしいことだが、一方で、「遊び」はあまり注目されてこなかったように思う。

いままでは実況席やキャスターの姿がかろうじて「遊び」の役目を果たしていた。でも、僕が観たいのは選手の表情であり、聞きたいのはメンバー同士での会話だ。そういう「遊び」を番組内で取り入れてくれると、観ている側としてはもっと選手たちに感情移入して試合を観戦できるようになる。

大会番組は試合を放送するという重要な役割がある。そしてもう1つ、選手のファンを作るという役割もある。そのためには試合中の選手のパフォーマンスだけでなく、その前後の様子――「遊び」を伝えることも有効なはずだ。ただ、やりすぎると緊張が疎かになり、ふざけていると捉えられてしまう。大事なのは緊張と「遊び」のバランスだ。

こういうことも「大会番組で観たいもの」などといったアンケート調査をしてデータを活用すればいいと思うが、なんにせよ、前例に倣うだけの、フォーマットに従うだけの大会番組よりは、いろんな挑戦をしてくれる大会番組を観せてもらえると嬉しい。

なので、ストVオールスターの取り組みがいい形で広まり、進展していけばいいなと思う。

※トップ画像は【第5節】「RAGE STREET FIGHTER V All-Star League powered by CAPCOM」 の配信より。ときど、ふ~ど、マゴの3選手が相手チームに聞かれないようにひそひそ相談している。実に愛おしい風景だ。

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鴨南蛮を食べます。

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謎部えむ

やあ、世にも珍しいeスポーツスリンガーですよ。日本のeスポーツ業界のあれこれを考察・分析しています。 マガジン「happy esports」の詳細と連絡先は↓のプロフィールをどうぞ。「焚き火を囲って」はジャンル不定で唐突ですよ。

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