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過渡期のジェンダー(3) 未来のお母さん食堂

2020年末から2021年の年明けごろ、ファミリーマートのお惣菜シリーズ「お母さん食堂」の名称が話題となった。
「食事は母親が作るものという印象を強化する」との理由で批判され、批判に対しての反対意見も沸き立ち、大いに炎上。
それが理由ではない、としながらもファミリーマートは名称を変更、2022年の今は「ファミマル」となっている。

料理は誰が担当してもよいし、誰が担当すべきということもない。
母親が作ってもよいし、父親でもおじいちゃんでもおばあちゃんでもよい。
お母さん食堂があってもいいし、お父さん食堂があってもいい。

だから、男女平等が達成された未来では、お母さん食堂という名称は批判されない。
色々な形態の料理担当者がおり、たくさんの「○○食堂」が考えられる中、この会社では「お母さん食堂」を選んだだけなのね、となる。

では、男女平等が達成された未来においては、再びお母さん食堂が復活するのか、といえばそうはならない。

そもそもファミリーマートがお母さん食堂という名称を選んだのは、当然「お母さんが作ったようなお惣菜です」というアピールを狙っている。
「お母さん食堂」が始まった2017年当時、お母さんが作ったような料理、と聞いて思い浮かべるのは「家庭的」「馴染みのある」「安心できる」「毎日食べていた味」「丁寧で繊細」「ふるさとの味」といった辺りだろうか。
一方例えばお父さんが作った料理といえば「豪快」「こだわり」「週末だけ」「肉料理」という感じか。
これらの印象は、人によって異なる。が、多くの人はだいたい同じ印象を持っているのではないか、と期待したからこそ、ファミリーマートはこの名称を選んだはずだ。

そして、男女平等が達成された未来では、この印象が人によって大きく異なる。

日々の料理は父親が担当し、週末だけ母親が料理をするような家庭に育った子供は、お母さんが作った料理と聞いて、週末だけ振る舞われる豪快な肉料理を思い浮かべるかもしれない。
人によって想起する印象が異なるので、家庭的な印象を与えたい、といった効果は期待できなくなる。

だから男女平等が達成された未来において「お母さん食堂」はきっと存在しない。
例えば「大和撫子」のような慣用句となった場合は存在するかもしれないけれど、お母さんという単語は多分そうはならない。

2020年の当時「お母さん食堂」が問題ありとされたのは、ジェンダーに関する価値観が大きく変化しようとしている時代特有の出来事だ。
料理は女性が行うものと多くの人が思っていた時代(それを不満に思っていたにせよ誇らしく思っていたにせよ)には問題とならないし、男女平等が達成された社会でもやはり問題にならない。

ジェンダーに関しての話題を見るたび、それが過渡期だけのものなのか、ずっと続いていくものなのかを考えることは、とてもおもしろい。
男女平等が達成され、価値観が大きく変わった後で振り返ったとき、きっと懐かしく思うのだろう。

そんな日が早く来ることを願いつつ、おしまい。

名角こま


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