見出し画像

『弥勒の世』町田康        (文學界2024年4月号)       ~見た目って~

弥勒の世
町田康
(文學界2024年4月号)

肌の色、言語、国籍、文化、宗教などなど、アイデンティティの根拠とされる要素はいろいろあります。そのなかでも、他者の視線によって規定されがちな顔かたちや肌色は特殊です。だから「ルッキズム」も問題視されます。

以前投稿したのですが、トニ・モリスンの『青い眼がほしい』では、肌、髪、眼などの人間の身体の色、つまり外的な特徴によって、各人の生の在り方が決定づけられ、心が囚われて蝕まれていく、という人類の永遠の課題が、美しく恐ろしく描かれていました。

そして、「肌の色とは何か、色による差別とは何だろう。世界がたとえばいわゆるインターレイシャルの人間ばかりだったら、差別事情はどう変わるのだろうか。肌の色があるのは自然が人間に課した宿題(=宿命的な問題)なのだろうか」、という疑問を持ちました。

短篇『弥勒の世』は、まさにそんな世界の出現を予感させるような衝撃的な作品で、私はびっくりしました。そしてこれが読みたかったものだ!と興奮してしまいました。

顔が悪くて損している主人公の「俺」就職小話風に始まるこの短篇、こまごまとした描写はの積み重ねが醸し出す現実感と、さらっと登場する謎の設定のギャップに、言い知れない不安感を覚えさせられます。

雇われ先でおこなわれた作業が、どうやら世界を変容させはじめているらしいと、気づいた「俺」。視線を向けた先にある人びとの顔。そして自分の顔。顔かたちは世界を規定するのか……最後の2ページが圧巻です。
トニ・モリスンの本が突きつける差別の問題から、さらに奥深く分け入った「差」という概念について考え続けていた私にガツンと一撃をくれました。面白かった!!
 
#弥勒の世 #町田康 #文學界 #短篇小説 #小説 #文芸誌 #トニモリスン #差別

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?