映画感想:『スパイダーマン:スパイダーバース』は命と魂を吹き込まれたアメコミと、不変のヒーローたちの運命の物語である。(ネタバレあり)

 『スパイダーマン:スパイダーバース』を見に行ったので感想を書こう。
 さて早速評価だが、最高名作だったな!
 まずは映像表現だ。アメリカンコミックを忠実に再現し、容赦ない色彩のナイアガラが押し寄せてくるような衝撃を受ける。今作のスパイダーバースはいろんな次元のスパイダーマンが一つの世界に集ってくるんだが、その彼らは1933年から来た白黒時代のハードボイルドなスパイダーマン・ノワールだったり、ジャパニメーションで出てきそうな女子ガールがスパイダーロボに搭乗してバリバリに戦うペニーパーカーだったり、豚だったり。多種多様だ。
 そんな彼らには元の世界があり、その世界のタッチとは違ってる部分がある。それを共存させて一つのCGアニメーション映画として確立したのである。印刷で出てくるドットも全員でちょびっと違ってたりするから芸が細かすぎる。あの映像美は映画館で見なくちゃ勿体無い。アクションも音楽も見事だし、ぜひとも全身でスパイダーマンを楽しんできてほしい。

 ああそれと私はあえて予告編は一切見ずに見に行った。もしかしたらその差でわかる部分もあるかもしれない。ぜひ本編みた後でもう一度予告編を見直してみてね。それと日本語吹き替え版でぜひ見ること。声優の演技と声がしみるぜ。

 さて、ここからがネタバレだ。先に重要な箇所を書いてから後にあらすじを載せておくスタイルでいこう。ちゃんと映画館で見てから見るんだぜ。

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 よし警告はしたぞ。ではここからはネタバレだ。

 スパイダーマンは『運命の法則』に縛られている。それは大切な人の離別であり、孤独な戦士であるということだ。

完璧なスパイダーマンの死』は実に衝撃的だった。
 映画の予告編を見ると、思い切り騙される場面があるんだ。「別の次元からやってきたノーマルなスパイダーマンに動きを教わるマイルズ君」というシーンがあるが、巧妙に仕組まれている。完璧なスパイダーマンとダサいスパイダーマンがいて、その二人の外見はまるで同じなのである。髪色と体型が違うけど。
 能力の使い方がよくわかってないマイルズ君に完璧なスパイダーマンが「俺が教えてやるよ」と言い残して強敵との戦いに向かい、その結果死に分かれ、再び出会ったスパイダーマンは中年太りの外見そっくりの別人……という。予告編見るとまるで同一人物のように見えるが巧妙に仕組まれたカットでそうさせられているんだ。これは驚いた。
 「この世界にはスパイダーマンは一人だけ」という世界の法則があるが、今作の主人公マイルズ・モラレスのいる世界ではちょっと異なる。完璧なスパイダーマン(ピーター・パーカー)がいる上で、そのスパイダーマンが死亡することで「この世界にはスパイダーマンが一人だけ」という運命の法則が完成する。あまりに残酷すぎる構図だろう?

【追記】予告編見るとかっこいい声の宮野真守さんのピーター・パーカーが意味深なナレーションをしているが実はこれがフェイク。宮野真守さんのスパイダーマンは中年太りのダサいほうなんだ。
映画で見ると完璧なほうのスパイダーマンは中村悠一さん。CMで一切出てこなかった当たりかなり徹底してるよこの仕掛け。
 「完全なる別人」であることが明らかになるのがいい。

 あまりに未熟な少年が、力を与えられても使いこなせず、その教えを受ける前に完璧なヒーローが死別という形で失われる。そこでやってくるのが運命的な別々のヒーローたちの出会いだ。果たしてマイルズ君はどうなるのだろうね?

 そしてちと意地悪な書き方をした。『大切な人との死別』は完璧なヒーローとの離別ではなかったということ。確かにマイルズにとっては重要な存在ではあるが、元々長い付き合いがあったわけではないのがミソだ。ヒーローは確かに重要な死別ではあるんだが、それはヒーローの覚醒のきっかけではない。特にスパイダーマンに置いては「大いなる力には大いなる責任がついてくる」という心情に目覚めるために必須な出来事だ。下のあらすじを見れば誰が死ぬのかがわかるがここではあえて伏せておこう。彼の死がなければスパイダーマンは生まれない。そこが重要だ。
 ピーターはベンおじさんを、ノワールはベンジャミンおじさんを、クヴェンは「親友」を、ペニーは父を失う。必ず誰かしら失われないとヒーローにはなれない。今作の『運命を受け入れろ』はきっとそこにも掛かってるのだろうね。
 ではここからはちょっとあらすじにしておこう。

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 今作の主人公はマイルズモラレスという少年だ。
 彼の世界にはスパイダーマンがいて悪人を懲らしめているヒーローだ。叔父のアーロンに誘われて壁面に落書きしに行ったところで、運命的に蜘蛛に噛まれて能力に目覚めるマイルズ。しかしちっとも能力を制御できてない。明らかにダサいし振り回される始末。
 その原因を探るべく蜘蛛を探しに行ったところで怪物と遭遇、戦うスパイダーマンとも。どうやら悪人キングピンが高次元宇宙を繋ごうとしてる、そんなことしたらブラックホールができる。やめさせなければ。
ピーターとマイルズが出会い、未熟な彼に技術を教えると約束する。しかし強敵の戦いと設備の大爆発。瀕死のスパイダーマンとマイルズ。マイルズに装置を破壊するチップを託し、スパイダーマンは死亡。
 墓参りに行くとそこにはもう一人のだらしないピーター。別次元から来たスパイダーマンだ。外見はそっくりだけどこちらのBピーターは失敗しまくりの中年太りのダサい人。しかし実力は本物である。
 マシンを止めるためのチップをマイルズが壊したのでもう一度作り直さねば。研究所に忍び込んでデータを盗もうとするとオクタヴィアに阻止されそうになる。そこに現れるもう一人のスパイダーウーマン。グウェンという少女。
 3人はピーターの我が家へ行く。秘密基地。3人と出会い6人のスパイダーマンが揃う。だが元の世界に帰るには誰か一人が残らないといけないし、細胞破壊によって確実に死ぬ。だからマイルズがやらないといけない。しかしマイルズはあまりに未熟故に作戦に参加させられない。打ちひしがれるマイルズ。
 しかしここで衝撃、アーロンがキングビーの一味だった。それをおばさんのうちに伝えに行くも後をつけられ大乱闘。アーロンはキングビーの凶弾によって死亡。
 失った命の重さに打ちひしがれるマイルズ、作戦の決行のためにマイルズを拘束するピーター。親父とドア越しの会話。吹っ切れたマイルズついに能力に目覚める。スーツを拵えて決戦だ。
 キングピンのビルへ。パーティーに潜入して地下施設へ。だが猛威を振るう敵に打ちのめされそうになる。そこに救いに来るマイルズ。黒いスパイダーマンの活躍で元の世界へ戻っていくスパイダーマンたち。
 最後の一人になったマイルズとキングピンの決戦の末、立ち上がって勝つ。新しいスパイダーマンの誕生だ。エンドクレジット後、新たなユニバーススパイダーマンの登場を示唆しつつ終わり。

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 とまぁこういう物語だが、ちょっぴり惜しいと思う点も書いておこう。
 ノワールやペニー・パーカーという極上の人物たちもいるんだけど、物語の半分以上は未熟なマイルズ君のあまりに未熟な動きを見せられる部分という構成なせいで「もっとほかのスパイダーマンの活躍を見たかったんじゃーい!!」と叫びそうになるとこもあるのである。もったいないんだぁ!

 そしてそこだけだな欠点は。ストーリーテーリングとしても文句なしの出来栄えであったし、もうあらかたネタバレしてる上でここまで読んでる読者はすでに映画を見に行ったはずだろう? ならば答えはきっと同じはず。

 誰だってヒーローになれる。必要なのは勇気だけだ。
 そして君たちは決して『孤独じゃない』んだ。

 このような名作を劇場で見ることができて、本当に満足であった。最高のスパイダーマンだったよ。

私は金の力で動く。