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人をつなぐアートの力を、まちづくりに生かす


このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。横浜の街の中にアートに出会える場所を作るというアイデアについて、象の鼻テラスの大越晴子さんにお話を聞いています。

「水と油」を混ぜる場

今井 今回は大越さんが一緒に仕事をされている、街中にアートを仕掛ける人についてお話を伺いたいと思います。普段はどういう人たちとともにアートをまちづくりに生かす仕事をされてるんでしょうか。

大越 街中に作品を置くとなると、登場人物がすごく多くなります。場所を所有している人、作家さん、それを調整する我々みたいな役目の人、周辺に住んでいる皆さんもいます。みなさんにご理解とか協力してもらうためのステップが必要になってきます。その人たちとの調整をする過程で見えてくるものもあります。それがまちづくりにつながってくるのかなと思っています。

村上 前回かな、そもそもこれまでの人生の中にアートが入ってこなかった人たちもがっつり、プロジェクトの中に入ってくるというお話をされましたけど、そういったアートのことは知らないけど町のことはすごく知っているといった人たちが入って来ることで、何か面白い化学反応とか、面白い会話とかが出てきたりするんでしょうか。

大越 象の鼻テラスで、都市観光とアートの融合というコンセプトの事業で、象の鼻テラスの室内だけではなく、外に飛び出して街中にアート作品を設置することがありました。横浜は夜景も観光資源の一つです。アーティストの創造性で新しい夜景を作ろという事業だったのですが、 象の鼻テラスの反対側に、税関という建物があって、クイーンって呼ばれているんですね。「横浜三棟(キング、クイーン、ジャック)」と数えられる建物の一つなんです。それをドラッグクイーンに見立てて擬人化するっていうプロジェクションをしたことがあって。税関はかなり歴史的な建物なんですが、作品が投影されると一瞬にして全然違う表情を見せたんです。それはやっぱりアーティストのアイデアがないと成立しなかった一つのものだったりします。

村上 あの「水と油」ってよく言うと思うんですけど、全く違ったものが境目を作るんですけど、でもちょっと揺らすとゆるゆるとなって、止めるとまた戻っていく。ある意味アートだけの世界だとずっとアートは続いてるのかもしれないけれども、違った動きができないのかなと思います。その点、皆さんどうなんですかね、水の中に油が入ってくることを楽しんでらっしゃるんですか。

大越 象の鼻テラスではまさにその「水と油」を混ぜる作業が大事だと思って運営している場所です。対峙するものじゃなくて、関わるきっかけを作って、混ざって、それを新しい形だったりスタイルだったりっていうものにして発信していくことが良いこととして私たちは考えています。それは最初の回で言った、文化交易での文化が始まったこの場所の特性だったりというところから生まれるコンセプトだったりするんです。

村上 前回でしたか、「わからないけどもやってみよう」っていう「アートの力」についておっしゃっていたと思うんですけど、極地だと、分からないものに突っ込んじゃうと死んじゃうかもしれないので、分からないものはとりあえず避けるみたいなところもあるのです。
だけどアートの中では、わからないけれども何か関わってみようと思わせる力ってやっぱりあるような気が僕もするんです。わからないけどやってみようとして、そこからわかってみたら、自分とはちょっと違ったといって離れていく人もいるし、面白くなっちゃってもっとやる人もいると思うんです。どっちにしても、その最初のきっかけは、やろうとさせるアートの力だと思うんですよね。それって何なんでしょうかね。

大越 何なんでしょうね。やっぱり、楽しそうとか、一緒に仲間と結束力を高めて、一緒に作る。そういうわいわいとしたことって、文化祭みたいな、そういう活動ってやっぱり楽しいって受け取る人も結構多いと思うんですけど、そういうのにつながるのかなと思いますね。

暮らし続けるために必要なアート

村上 コロナ禍ということで不要不急の外出はみたいなことも言われたりすると思うんですが、できないことと諦めなきゃいけないものも多いと思うんですけど、それでもやっぱりこれって必要だったんだろうなって思う事もあると思っています。アートもなんかそういうものの一つかなって思うんですよね 。振り返れば、昔の古代の人たちも、洞窟に手形をつけたりとか、衣食住がすごく厳しい時代であっても、なにかやっぱりアートをする。生き延びるためだけじゃなくて、生きてく実感を得るために何かアートっているような気もするんですけど、いま大越さんはアートをどう考えてらっしゃいますか。

大越 すごく今突きつけられるもので、まぁちょっと郊外区に出かけていってアートイベントを仕掛ける例なんですが、 今年のゴールとしてイベントをしようという話をしているんですが、やっぱりコロナのことがあるので、地域の中でもやることにどうなの?と懐疑的に思っていらっしゃる方もいれば、こういう時だからこそやろうよっていう方もいらっしゃって。どっちの気持ちも分かると言うか。
やっぱり人の命が一番なので、生き死にに関してはアートは必要ないとは思うんですけど、生きる上では心を動かす感動の対象物になるので、やっぱりアートがないと、生きる時間の過ごし方として寂しいなって思ったりとか、そういうものとして 考えます。

村上 僕の話で恐縮なんですけど、今まで閉鎖空間っていう閉じ込められる生活を長く経験をしてた時に、基本的に壁とか屋根とかって嬉しいもんなんですよ。外がすごく危ない場所なので、守ってもらえるから、ありがたい。だけれども分厚く守ってもらえたら、ずっと心が安定するかって言ったら、やっぱりそうじゃなくて、窓が欲しいと思うんです。窓があると、別の世界があるっていうインスピレーションがそこから入ってくる。ここにしか逃げ場のない人にとって、ここではないどこかを知れるのが窓だと思ってて、もしかしたらそれがアートなのかな、アートの役割なのかなという風に思っています。そういう意味では、生きるために必要なんじゃないかとも思うんですよね 。

大越 お話し聞いていて、例えば病院で入院してて、病院にそういうアートを取り込んで、心が元気になるようなプログラムを取り入れられる事例も結構聞きますけど、心豊かにするための大事な要素はアートなのかなって今お話を聞いていて思いました。

村上 少し視点を変えて、まちづくりという観点からもう一度お話を伺いたいんですけど、まちづくりという枠の中で、アートっていうものは必要なんでしょうか。

大越 多分まちづくりにアートが必要なのではなくて、まちづくりで目指す場所がこうなって欲しいっていうビジョンに対して、文化芸術の活動ができることのもたらす効果が高いという期待を我々は持っているということです。別にアートである必要は多分ないんですけど、わからないけどやってみたくなるワクワクさがそこにはあったりとか、我々はそこに期待しているという感じかなと思ってます。

村上 いま自分で質問ておいてなんなんですけど、「まちづくりにとってアートが必要なんですか」と今僕は聞き方をしたと思うんですけど、本来はまちづくりそのものがアートの一部のような気もするんですよね。もちろん、まちづくりの中には非常にシビアなロジスティクスの部分も当然出てくるし、安全とか危機管理みたいな部分もそこに入ってくるので、そこのウエイトが広がってくると、アートがちょっと後ろに追いやられていくっていう。もしかしたら今みたいな質問が出ちゃうのは、まちづくりがもはやその危機管理みたいなウエイトがすごく高くなってきたから、まちづくりにアートは必要なんですかっていう、そういう感覚に僕自身がいたのかもしれないんですけど。その辺りはまちづくりの現場に立たれている大越さんはどうそのバランスを見ていますか。

大越 アートは有機的にどういう場面でも切り取り方とか、関われるチャンネルの使い方とかで、色々に効果を生み出せる手段だったりするから、結構取り入れられ、取り入れられやすいのかなと思ったりもします。

村上 おっしゃる通り、まちづくりって言うと、いろんな人が関わってくると、当然いろんなスケールが出てくる。いろんな多様性のある中で、息遣いを整えるって難しいと思うんですけど、もしかしたらアートが入ると、なんとなく温度が整えられるというか、歩調があうというか、そういう効果が一番すごいとこなのかなと思ったりもしました。

今井 人と人とが繋がることがすごく難しくなってる今だからこそ、アートの力がすごく試されるのかなと思いましたし、それが美術館などの限られた場所ではなく、多様な人がかかわる無料休憩所で試されてる点にすごく可能性を感じました。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真・Mito Ikeda)

次回のおしらせ

神奈川県横浜市の「象の鼻パーク」を中心に、アートによるまちづくりをすすめる大越晴子さん(スパイラル/ワコールアートセンター)にお話を伺います。アートの力がどうまちづくりにかかわるのか、お楽しみに!

The best is yet to be!

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