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三人でいよう。

彼は彼女が好きだった。
そのことに気付いたのは彼を好きになってすぐのことだ。
柔らかな眼差しと他の子より多めにかけられる言葉と嬉しそうな笑顔、彼の全部が物語っていた。
にも関わらず、当の彼女には微塵も伝わっていないのだから不思議だ。
彼の気持ちどころか恋愛にすら関心を持っていないらしい彼女は、私にとって好都合だった。

彼女がいることで、私は彼の特別な表情を見ることができる。
彼女に誘いを断られたときの寂しげな顔も、彼女の浴衣姿を見て喜びを噛み締めている顔も、髪をばっさり切った彼女に戸惑う顔も私だけが知っている。

そうして私は彼のとびきりの表情を待っている。
彼が彼女を好きだからこそ見られる、否、そうでなければ見られない。

彼が彼女を諦める日の表情を。

悠長にそんなものを待っていられるのは、彼女が振り向かないことを知っているからだった。

いつからだろう、彼女の心の中には誰かがいる。
それが誰なのかはわからないけれど、彼じゃないことだけは確かだった。
熱を帯びた視線の先はいつも携帯画面で、きっと彼女の好きな人はその先にいるんだろう。
だとしたら、私が待っている瞬間が訪れるのもそう遠くはないのかもしれない。

時々、そんなことを考える自分が嫌にもなるけれど、今はこのままでいようと決めた。
私は彼が好きで、同時に彼女も好きなのだ。

彼は今日も彼女を見つめ、彼女は今日も画面を見つめる。
そんな二人を私は見ている。

卒業まで、あともう少し。
もう少しだけ三人でいよう。


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『君の名は。』を観たあとに。
本編はまったくそんな話じゃありませんが(´▽`)

#小説
#短編小説

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