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秋がはじまる

仕事が終わってから、用事があって家を出た。

半袖で過ごしていた昼間とは一変して気温が下がる夜。肌に吹き付ける風がひんやりと冷たい。鈴虫がそこかしこから聞こえる中、自転車の鍵を解除して坂を下った。ひんやりとした空気が身体中に当たってくる。向かい風でここまで寒くなる夜なのかと、秋の存在を知った。

そろそろ秋服を探さなければならない、そうぼんやり頭の中で考えながら踏切前で待つ。ファーンっと走ってきた電車の中の人をよく見ると、大半が薄手のコートを羽織って本を読むか一心に携帯を見ている。帰宅ラッシュのためか車内は混み合っており、思い思いの時間を過ごしているように見えた。彼ら彼女らはこれから家に帰るのだ。車内からこぼれ落ちる灯りは暖かで、私の前をチラチラと灯りが舞っていく。カタンカタンと音を立てて通り過ぎてしまうと、裏路地のせいかすぅっと暗くなって静けさが戻る。暗闇の中に、さっき見た景色を心の中で混ぜ合わせてみるけれど、それはさっき見たものとは同じにはならなくて、だからこそあれは美しかったと余韻に浸ってみたり、寂しいような気持ちになった。きっと夏もこんな気持ちで人を見送るに違いない。

毎年のように思うのだが、気が付かないうちに秋は忍び寄ってくる。まだ夏ですよーって顔をして昼間は夏のフリをするのに、夜になると本格的秋めいてくる。通りゆく木々の色づき具合を確認しながら日々を過ごすのが一番秋を視認する手段だと思っていたが、やはり一番は自分の体感なのだと思い知った。


目的地に着き、やりたいことの為の道具を揃える。こうやって動き出そうと思ったきっかけは、先日読んだ「小説王」という本にあった。

その本の以下引用文に惹きつけられた。


「いったい自分はいつまで"いつか"のために"いま"を保留しているのかってずっとムカついてたから」


主人公の奥さんが言っていた言葉なのだが、この言葉が刺さってしまってどうにも自分は動かなければならないとつくづく感じて気がついたら動いてた。

今までは、何か一つやりたいことがあったとしても毎回「また今度」と先送りしてきた。

"いつか"のために"いま"を保留する癖があった自分に気づけた一文なのだと知り、私自身のやりたいことに向けて色々動き出すことにしたのだ。

その行動が今日だった。


まずは1歩、踏み出せた気がする。

読書は面白いなぁ。また次の本が楽しみだ。

物語は終わらない。

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