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ドラマ「俺の話は長い」の趣

わたしは今、人生においての長いおやすみに入っている。
2023年4月から始まって、もう半年になる。

人間関係に大きなトラブルが発生し、
それをきっかけに自分の世界が音を立てて崩れていき、
起き上がることも難しくなり、考えることも面倒になり、
息をすることさえも苦しくなった。

まだ半年、もう半年。
これまでずっと、仕事しかない人生だった。
仕事が楽しくて、私の生きがいだった。

それを失った今、おやすみを利用してベトナムに行き、
オーストラリアに行き、車で日本を縦断した。

それでもなぜか心は晴れなくて、人と会うことも話すことも苦痛で、
今は週に1回、病院の先生と話す以外は誰とも交流を持っていない。

これまで好きだったテレビ番組も見なくなり、
映画に挑戦しようとするも、2時間弱に耐えうる集中力が全く無い。

ある日、あまり使わなくなった録画用ハードディスクを整理している時に、
2019年10月クールの日テレドラマ「俺の話は長い」を全話保存しているのを思い出した。
私が生涯見続けたいと思うくらい大好きなドラマで、これまで定期的に見返していた。
今回で多分4周目か5周目くらい。

それだけ回数を重ねても、その時の自分の精神状態によって感じることが違うし、それぞれの登場人物に馳せる想いが変わる。

6年間ニートで屁理屈を言わせたら右に出る者はいない独身31歳の男性、満(みつる)と、喫茶店を営む母が住む実家が舞台。
満の姉家族が住む自宅リフォームが完了するまでの3か月間、同居生活を送ることになるというストーリー。
満と母、姉とその旦那さん、思春期まっさかりの中学生の娘の5人が、食卓を囲みながら舌戦を繰り広げるホームコメディなのだが、家族の会話がとにかく面白い。

実家滞在中になんとか満を仕事を就けようとする姉の奮闘、満を甘やかしがちな子離れできない母親と、尻に敷かれっぱなしの姉の旦那、その旦那とは血の繋がりがない姉の前夫との間にできた娘。
5人それぞれが些細な問題を抱えながら日常を過ごす様子とその会話や表情がとても秀逸。

テレビ制作に関わる人間としては(今はおやすみ中だけど)、このセリフ量よく覚えられたなぁとか、撮影大変だったろうなぁとか、どうしても裏側が気になってしまうが、それぞれの言葉の言い回しにとても趣があってとことん深く沁みるのだ。

全10話。しかも1話の放送が30分×2ストーリー構成になっていてとても見やすい。
サザエさんの30分×3ストーリー構成がちょっとだけ長くなったドラマ版みたいな気分。

こういう時どうやってこの面白さを伝えようかと思い悩む自分の語彙力の無さを嘆きたくなるけれど、登場人物それぞれに感情移入できるところがあるからすごい。

出てくるのは、どこにでもいそうな普通の生活を送る人たち。

無職でニートの男、娘の反抗期に悩むキャリアウーマンの母、ミュージシャンを諦めて会社員となった気弱な夫、恋に悩みながらラジオ番組を聴くことが楽しみな娘。

キラキラしている人もイケメンも大金持ちも全く出てこない。

※もちろん、満は生田斗真さんが演じているからかっこいいに決まってるし、満が一時転がり込む会社経営の女社長(倉科カナさん)と、母が趣味で始めた吹き矢教室の副会長(長谷川初範さん)はとんでもない金持ちだけど、いわゆるドラマ的な輝かしい人は一切出てこない。

言葉を選ばずに言うと「何かを諦めた」か「何かを諦めなければならなかった」人たちの日常が溢れていた。
それでも、その人の人生を、与えられた時間を一生懸命生きている。

ドラマだけど、ドラマなんだけど、こんな人生もあるんだな…と思えるドラマなのだ。
誰とも競わなくていい、誰とも比べなくていい。
比べるのは過去の自分と今の自分だけでいい。

そう教えられている気がして、心が苦しくなって涙が溢れた。

満の減らない嫌味な口も、側からみるととても愛おしくなってしまう。
(あんな親族がいたらきっと嫌だろうけど)

くすっと笑えて、ご飯でほっこりして、それぞれの思いが交差する時にホロっと来る本当に素晴らしい作品。

あの世界に生きられたらいいのになと思いながら、私は自分の世界をどう生きていくかを考えよう、と思う。

これまでの周回にはないくらい、今回は号泣した。
満ほど口達者ではないけれど、このままではダメだと気づいていながらも
前に進むことができない満に心から共感してしまった。

私もなんとか人生を動かさなきゃ。
立ち止まって、生きるとはなんぞやを考えているほど時間は無限にない。

またしばらくして見返すに決まってるから、全話永久保存は決定。
だから、ハードディスクの整理はまた今度。

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