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いつでも会える距離にいる時にこそ会うべき人がいる

唯一の親友がアメリカに帰ることになった。
これまで何年も日本とアメリカで離れて暮らしていて、会う機会は数少なかったけれど、彼女とはたくさんの思い出があり心はずっとそばにいた。

彼女とのエピソードはこれまでにも何度かnoteに登場している。

その彼女が旦那さんの仕事の都合で日本にやって来たのは昨年のこと。
1時間もすれば会える距離にいた彼女には定期的に会っていたけれど、アメリカへの帰国は1年先だったのでこれからまだまだ会えると思っていた。
いつでも会える距離にいるのに、いつでも会えると思うと、予定を決めることなくずるずると先延ばしになってしまっていた。

先週、彼女の旦那さんの急な帰国が決まり、4月9日のフライトでアメリカに戻ることになった。
まだまだ会えると思っていた存在がいなくなる事実に何と言葉を返していいかわからなかった。未来のことなんて誰にもわからない。わかってはいたけれど、やっぱり彼女の帰国を素直に喜べなかった。

旦那さんと彼女、そして愛犬の3人の帰国。私は成田空港まで彼女たちを送ることになった。彼女は滅多に自分から頼み事をする性格ではないので、荷物の多い移動に困っているだろうと予想して、自分から送迎を申し出ると申し訳なさそうに「お願いしたい」と返事が来た。
お見送りすると余計に悲しくなることは覚悟して、彼女との別れの時間を過ごしたかった。

彼女の家族も長崎からやってきて、家族の運転する車と私の車の2台で荷物を運ぶことになった。

この日、関東圏は暴風雨で大荒れの天気。朝から見たことないほどの大雨が降り続き、強風で車が何度も揺れた。
いろいろと話したいことがあるのに、何を話せばいいのか分からない。音楽をかけるにもどんなノリの曲が合うのか分からず、ひたすら空港までのナビ案内の音声と窓に当たる雨音だけが響いていた。

話題にあがるのは大荒れの天気模様がメイン。

「すっごいね、この雨」
「昨日まで晴れてたのにね。明日も晴れるらしいよ。今日だけなんだってこの大雨」
「わたしの悲しみが天気に届いたのかも…笑」

なんて言いながら、私はとにかく彼女の新たな旅立ちを応援するために明るく振る舞った。

空港に到着すると、搭乗アナウンスの声や大きなスーツケースを持った人々が慌ただしく行き交う姿に、ますます彼女がいなくなる実感が強くなった。
愛犬の検疫のため彼女と旦那さんがその場を離れ、私と彼女の家族が荷物番のためベンチに座って時間を過ごした。

「今はLINEでもリモートでもいつでも繋がれるけど、二人がアメリカ留学した時はまだ国際電話とエアメールでやりとりだったね」

彼女のお母さんが話してくれた高校時代の私たちの思い出。もう随分時間が経っているのに、空港に来るといつもその時代のことを思い出す。
大人になってからも別れと再会を繰り返した空港は、私たちにとって特別な場所だった。

「あの子からいつもntkの話聞いてたよ、支えてくれて本当にありがとうね」

日本にいる時にもっと会えばよかったと後悔ばかりが頭をよぎって感情がぐちゃぐちゃになった。オンラインではなく面と向かって会える時間をもっと味わいたかった。
それでも、フライトまでの残り時間は家族水入らずで過ごしてほしかったので私は先に帰ることにした。

お別れのハグをしたら彼女も私も一気に涙が溢れてきた。我慢してたのに、やっぱりダメだった。恥ずかしいのと寂しいのが全身を襲って、無理に笑ったら変な笑顔になった。

彼女と私の約束は「がんばらない」こと。もう私たちは十分がんばってきたから、もうがんばらない。でも飛ばされそうになったり倒れそうになったら踏ん張ろうと言い聞かせている。

空港を後にした帰り道は、雨も風も止んで雲のあいだから太陽がのぞいていた。

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