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推しと仕事したテレビの話 #好きな番組

#好きな番組

noteのトップページを開くと、このハッシュタグが目に留まった。
好きな番組。それはそれはもう多すぎて選ぶことはできないほど。
幼い頃から両親が共働きで、遅い時間まで家には姉と二人。両親が離婚した後、母はますます忙しく働き、私の生活の大半はテレビとともにあった。

「テレビに育てられた少女」と名乗っても過言ではないほど、小さい頃からテレビと共に成長してきたと思っている。それが高じてテレビ番組制作の仕事に就いたのだから、多少の説得力はあるはずだ。

今わたしは、テレビをはじめとしたバラエティやドラマ、映画など様々な作品制作にプロデューサーという立場で関わっている。最近では配信プラットフォームの作品も増えてきてテレビ以外の仕事も多い。
今年の春から一旦長めのお休みに入っているけれど、テレビが好きという思いに変わりはない。

制作に関わった作品のなかで特に思い入れの深い番組…それも数えきれないほどあるが、思わず感慨深くなる作品がある。

フジテレビ「サマータイムマシン・ハズ・ゴーン」
2021年10月8日深夜放送・関東ローカル番組

フジテレビの関東ローカルで深夜に1日だけ放送されたドラマ。ひっそりと…でも内容は熱すぎるほど濃かった。

約20年前、大阪の大学在籍時代、関西の舞台や劇場文化に興味を持ち、地元で活動する劇団の舞台を調べていた。
そこで出会ったのが「ヨーロッパ企画」という京都を拠点にした劇団。

主宰は上田誠さん。1998年に同志社大学の演劇サークルの3人で結成され、コメディ要素の強い作品が多く、テンポよく展開するストーリーがとても心地よく、ぐいぐいと惹きつけられる不思議な魅力のある劇団だった。
その当時、舞台上の大きなスクリーンにゲーム画面を映して、画面とリンクするお芝居をしていたりと新鮮な挑戦も楽しかった。
私は大学時代のバイト代をヨーロッパ企画の舞台観劇に費やしていった。

大学卒業後、テレビ番組制作会社に入ってからも彼らの舞台は定期的にチェックしていた。
ある日、別会社に勤める先輩ディレクターから「急にドラマ撮ることになったんだけど、お前舞台好きやんな。関西在住のおすすめの劇作家さんいる?」と聞かれ「ヨーロッパ企画の上田誠さんです!」と即答した。

その先輩Dは早速ヨーロッパ企画の舞台を観に行き、その足で上田さんにドラマ脚本のお願いをしたそうだ。
私とヨーロッパ企画の距離が少しだけ近づいた気がした。
ちなみにその先輩はヨーロッパ企画と急速に仲良くなり、メンバーの結婚式に呼ばれるなど親交を深めていったため、この先ずっと私に妬まれることになる。

その後、大阪から東京に移動してしばらくした頃、東京キー局の深夜ドラマ制作の話を頂いた。脚本は数名いて、そのうちの一人が上田誠さんだった。

ついにこの日がやってきた!上田さん脚本の作品に関わることができるのだ!と浮き足だった。上田さんとはその作品でお会いすることは叶わなかったがそれでも嬉しかった。
ヨーロッパ企画と出会ってかれこれ15年ほど経っていた時のことだった。

そこからさらに数年を経た2021年の春、上田誠さん脚本&ヨーロッパ企画メンバー出演のフジテレビドラマ「サマータイムマシン・ハズ・ゴーン」制作に呼んでいただいた。大学時代から好きだった人たちとついにリンクした瞬間だった。推しと仕事ができるなんて、夢のようなひと時だ。

ヨーロッパ企画の代表作で映画にもなった「サマータイムマシン・ブルース」とリンクするタイムリープ・SFもののストーリー。
出演者はヨーロッパ企画メンバーに加えて、ムロツヨシさん、上白石萌歌さん、矢作兼さん、久保史緒里(乃木坂46)さん、戸塚純貴さんなどなど錚々たる方々。

1時間の放送枠は3つのストーリーとその間を繋ぐストーリーテリングパートで構成されている。
各ストーリーは上田さん他ヨーロッパ企画のメンバーが脚本を務めており、毎週の打合せでブラッシュアップされていくそれぞれのお話にワクワクが止まらなかった。

プロデューサーとはいえ、通常のドラマ作品チームに存在する「制作部」というポジションも兼ねていたため、撮影場所のリサーチからロケハン、衣装合せ場所の仕込みなど、とにかく何でもやった。そしてそのどれもが楽しかった。

東京で撮影したストーリーは1話だけ、あとはすべて京都での撮影となった。特に思い入れがあるのは、久保史緒里さん出演の「乙女、凛と。」
京都・先斗町の鴨川が見えるバーで、ワンカットで撮影されたものだ。
ヨーロッパ企画の魅力のひとつである時間SF要素も組み込まれ、現在の自分と未来の自分が電話で会話するというシーンがあり、その電話を通して二人が(実際には現在と未来の私が)歌唱でハモるシーンがある。
ここが何とも切なくて心がキュッとなる大好きなシーン。あの賑やかな四条界隈が一瞬だけ無音になり、久保さんの歌声だけが心地よく響いていた。

撮影の舞台・先斗町のバー

もちろん撮影の裏側はとんでもなくバタついた。
コロナ禍だったこともあり、発熱者が出て急遽別キャストを探したり、京都でも有数の観光地・鴨川の河川敷で人止めをして等間隔に座るカップルに移動をお願いしたり、トランシーバーでセリフを聞きながらキューを出したり。
ワンカット撮影のため、裏でミスをすると最初から撮り直しになってしまう恐怖はとてつもなかった。何年ぶんもの謝罪をして、数年ぶりに全力ダッシュした。

10分程のワンカット撮影に何度も何度もリハーサルを重ね、カメラマン転倒のハプニングもあり、本番は2テイクのみ。そのどちらもが完璧な演技だった。役者さんと撮影部の息が合ったからこそ大成功で終わった撮影だったが、そこに微力ながら協力できたことが誇りに思えた。

鴨川の河川敷

そして大学時代の私に「あんた今、推しと仕事してるよ」と心の中で報告した。過去の私も今の私も泣いて喜んでいた。

今でもヨーロッパ企画の公演は欠かさず観に行くし、今年6月に全国劇場公開された映画「リバー、流れないでよ」にも参加させてもらった。昔よりもさらに近い距離でヨーロッパ企画の皆さんと接することになり、この劇団のことがますます好きになった。

「サマータイムマシン・ハズ・ゴーン」を見ると、大学の頃に初めてみた彼らの舞台を思い出しながら胸が熱くなり、切なくもなる。
私にとって、とても感慨深い作品。
もちろんエンタメとしてもかなりクオリティーの高い作品なので、観たことがない人には是非!一度観ていただきたい。

FODで見られるそうです。

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