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アルコール侍

リビングのソファで目が覚めた。どうやら部屋までたどり着けなかったらしい。
目を開けた瞬間に「なんで目覚めてしまったんだ」という強い後悔が脳天に突き刺さった。痛い。ものすごく痛い。心も痛いし普通に二日酔いなので頭も痛い。
携帯を開く覚悟がまだない。引き落としの履歴や優しい友人からの「大丈夫?」の通知を見た瞬間から償いの時間が始まるから。

とりあえず吐きそうなのでトイレに向かう。最悪のモーニングルーティン。カスのvlog。
犬がいる。赤ちゃんの犬コロがいる。死んだ顔をした私を見て無邪気に尻尾を振る。「生」に対する喜びを全身で表している。光だ。眩しくて目が眩む。
思考が停止する。なんで家に犬がいるんだっけ。
そうだ、3日前くらいに新しい家族になったんだ。まだこの世に誕生して2ヶ月の犬。見る世界が全部新しくて楽しくてしょうがないだろう。君にはこれからもこの世の美しいところだけを見てほしい。その綺麗な瞳に限界アルコール人間を映す必要なんて全くない。汚いもの見せてしまって本当に申し訳ないです。今は嘔吐のことしか考えられないから後でいっぱい遊ぼうね。

この世の膿、こと私は胃の中を全て空にした後、犬と戯れた。この子を全身全霊で愛そうと思った。私が持ちうる全ての愛をこの子に捧げようと思った。可愛い犬と猫がいる素敵なお家。私だけが汚い。私も綺麗になりたい。まっさらになりたい。
でもまっさらになることなんてできない。ツケは必ず払わないといけない。それがこの世の絶対的なルールだからだ。
犬を見て覚悟を決めた。全ての罪と向き合う覚悟が。


19時。千歳烏山。某焼き鳥店。
今日という日をすごく楽しみにしていた。ずっと飲みたかった人達との女子会がこれから始まる。
勿論ヘパリーゼの錠剤を飲むことも忘れない。保険が人生で一番大事だと気づいたから。
角ハイボールと焼き鳥。なんて美しい景色。世界はこんなにも美しい。
ここのお酒は比較的濃い。それが良い。大丈夫、ヘパリーゼ飲んでるから。
今思えばこの安心感が良くなかったのだと思う。楽しくて油断をしてしまった。私は油断をしちゃダメなタイプの人間だというのに。
ほろ酔いで退店。まだこの時点では日付が変わる頃には帰ろう、美しく終わろうという心持ちだった。

2件目。スナック。
気さくで素敵なママ。流れるアニソン。美しい歌声を肴にお茶割りを飲む。
やばいかもしれない、と思った。頭の中でゴングが鳴り響いた気がした。普段眠っているクラッシャーの人格が起きてくる。やめて。起きないで。クラッシャーがストレッチをし始める。皆さん、逃げてください。私と距離をとってください。
残りわずかの理性を掻き集めて時刻を確認する。もう帰る予定の時刻をとうに過ぎている。時刻を確認した瞬間、全てがどうでも良くなった。理性が弾け飛ぶ。
走馬灯みたいに次の日の自分の様子が脳裏に浮かぶ。逃げられない、と思う。
ここで帰れば全て丸く収まるというのに、私は自分の運命を笑って何杯目かわからないお茶割りを一息で飲み干す。アルコールネキのお時間です。

3件目。バイト先のバー。終点。
知ってる人しかいない。思わずただいま!と言いそうになる。
この後のことはよく覚えていない。お店のストーリーにテキーラを乾杯している私の姿が載っていたけれど全く心当たりがない。私によく似た別の人かと思いたかった。
沢山の人たちがいた気がするのにいつの間にか私一人になっていた。みんないつ帰ったんだろう。
お会計。これだけが真実。魔法のカードでお支払い。これをかざすだけでお金を払ったことになるんだからすごい。
酒で頭が馬鹿になっていたので、カードが一体なんなのか、どうやって払うのか、財布の中の数あるカードでどれが払えるカードなのか、全てがわからなくなって5分くらい放心していた。こうやって何もわからないまま人生が終わっていくんだろうな、とぼんやり思った。

戒めを今までいくつ書いてきたんだろう。私には今いったいいくつの罪があるんだろう。
人の不幸は蜜の味なのか、戒めを載せると色んな人が反応してくれる。で、反応してくださる方全員に言いたいのですが、これはウケとしてやっている訳じゃないんです。パフォーマンスじゃないんです。戒め、なんです。
全然書きたくない。辞めたい。じゃあ辞めりゃあええじゃないですか、と言われればそれはその通りなんですが、それじゃ意味ないんです。私は、真っ当な、人間に、なりたい。真っ当な…真っ当な人間に…。
では、私は本格的な反省の時間がやってきそうなのでこの辺で失礼します。次回作に期待しないでください。
皆さんはどうか良い飲酒ライフをお過ごしください。

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