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死体はバーに置いてくれ

鉛のように重くなった身体を引きずるように起こして、何も考えずに麦茶をガバガバと飲んでいる時、一番生きているという感じがする。ベッドから起き上がったときに精神はそこに置き去りにしてきたらしく、まだベッドに大人しく横たわっている。動く度に頭で鐘が鳴る。これが痛みか。

昨日はどうなったんだっけ。そう、久しぶりに新宿に行ったのだった。紀伊國屋書店で本をたくさん買って、なんとなく外で呑みたい気分になって地元の焼き鳥屋へ行き、ハイボールと焼き鳥を淡々と食べ続けた。間違いない組み合わせ。頭の中で確定演出が流れている。美味い、美味い、ひたすらに、どこまでも美味い。ひとりだと誰にも迷惑をかけないし、酔いすぎないからいい。
すっかりご機嫌になって、にこにことしながら当たり前のようにバーへ行った。軽く飲み食いを、というつもりだったのにな、おかしいな、と思いながらも家から真逆の方に歩いている違和感。幸せな違和感。

バーで働き始めて三ヶ月が経った。最近気が付いたけど、地元はバーが多い。酒飲みにとっては天国のような街だ。今までは一か所で呑んでいたけれど、最近は違うお店にも行くようになった。休肝日を作らなくては、と思いつつ誘惑には勝てない。自分の意志の弱さに驚く。

「こんばんは」

長い夜の幕開け。ハイボール、ターキーロック、ハイボール、ターキーロック。ジグザグに呑む。ソーセージとピクルス。美味しくない訳がない。n回目の確定演出。ありがとうございます。マスターに、お店に、お酒に、神様仏様に、生きとし生ける者に、心からの感謝を。

完全に完璧に酔っている。沢山喋る。よく喋るなあ、私。と俯瞰しながらもべらべらと喋る。次の日、酔っている自分のことを思い出して反省会開くんだろうなあという予感。でも喋る。楽しいのだから仕方がない。
マスターと、一緒におしゃべりしていたお客さんと三人ではしご酒をすることに。一人じゃなくなっている。一人が三人になっている。不思議。一人呑みもいいけれど、楽しさをリアルタイムで共有できる相手がいるのもいい。凄くいい。なんて楽しい一日なんだろう。
そうだ、人生で初めてスナックに行ったんだった。綺麗なお姉さまに囲まれている。ファビュラスな空間。酔いが加速する。中島みゆきの糸を歌った。最初は一人でしっぽりと呑んでいたのに気が付いたら沢山の人に囲まれながら中島みゆきの糸を全力で歌っている。これは夢ですか?それとも人生の最終回だったりしますか?なぜめぐり逢うのかを私たちは何も知らない。

終点は働いているバーで。ジンバックをください。朝になってますけど、ジンバックをください。
私と呑んでくれる人は、必ずここのバーに送り届けてくれる。一緒に吞んでくれてありがとうございました。本当に、ありがとうございました。私はしょうもない人間ですけれど、どうか嫌いにならないでください。そして解散。この瞬間に息を引き取りたい。今が一番最高な状態なので、酔いが醒めないうちにエンディングが流れてほしい。

私は屍になっていた。このままオブジェになってしまいたい。もう立てません。今日で私はおしまいです。

帰って、泥のように寝て、現在。
知ってた。知ってたよ私。こうやって反省会しながら飲酒レポを書くの。全部わかってた。
なかなか人生の最終回は訪れない。何事もなかったかのようにまた一日が始まる。今日は出勤だ。屍になったあの場所に戻っていく。
反省会を繰り返す日々に疲れて、人との繋がりを作らないようにしていた時期もあったけれど、最近は人との繋がりを愛おしく感じている。そんなに臆病にならなくていいのだと、昔の自分に教えたい。

ああ、良い夜だった!

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