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ダイサギは渡り鳥 -亜種の記録を集計する-

ダイサギ  チュウサギ  コサギ

これらは「シラサギ白鷺」として知られている白いサギたちです。
これら3種の識別はまあまあ難しいのですが、今回はさらに踏み込んでダイサギの亜種の話をします。

私たちが東日本で観察しているダイサギには、2つの系統が含まれます。
体が大きく、冬羽だと足の黄色くなるオオダイサギ(亜種ダイサギとも言う)と体が小さく、冬羽でも足のほぼ黒いチュウダイサギの2つです。

オオダイサギ+チュウダイサギ  チュウサギ  コサギ
…!

ダイサギとチュウサギでさえややこしいのに、チュウダイサギとは何とやら。(探鳥会でふと口にすると混乱を招くため普段は黙っていますが、)これら2亜種を私たちは普通に観察しています。

ダイサギを種として見ると、ダイサギは年間を通して見られる鳥です。ところが亜種ごとに見るとオオダイサギ冬鳥チュウダイサギ夏鳥とされます。これはダイサギの生態を考える上で重要な違いに思われます。

そこでオオダイサギチュウダイサギを分けて記録し、宮城県の観察地においていつそれぞれが観察されているのかを調べました。

当地でのダイサギの観察時期(頻度)

記録する

ダイサギの亜種については少し前から意識して、eBirdに記録していました。eBirdでは種レベルの記録と亜種レベルの記録を意識的に分けることができます。識別には大きさが優先され、不明な場合は単に種ダイサギとして記録しました。

今回の集計を前に、自分のノートから過去の亜種別の記録を取りだし、また過去の写真を確認して亜種がわかる場合は追加で記録しました。

重要なのは両方の亜種が居ると思われる春と秋なのですが、秋は足の色では識別できないことが多く、単独で遠くにいて大きさがわからない場合は亜種不明として記録されることが多くありました。

集計する

eBirdに記録したのは、そこからの集計が楽だからです。
My eBirdより、ダイサギの「全て表示する」をクリックすると、場所・期間・種ごとに自分の記録を閲覧できます。

自分の記録を種ごとに閲覧・ダウンロードできる

右上のダウンロード(csv)から記録をダウンロードしました。

中身はこんな感じ

Rを使って集計します。
日付が「01 Jan 2023」のような形式になっていて、今回はそこから月・日だけ取り出しました。

# R script
library(tidyverse)

df = read_csv("ebird_greegr_spot_life_list.csv")
df$day = substr(df$Date, 1, 2) |> as.numeric()
df$monthchr = substr(df$Date, 4, 6)
df = left_join(df,
               data.frame(monthchr = c("Jan","Feb","Mar","Apr","May","Jun",
                                       "Jul","Aug","Sep","Oct","Nov","Dec"),
                          month = seq(12)))

これを月・日に基づいて一ヶ月を4つに区切る期間ごとにのべ個体数を集計しました。のべ個体数では、観察回数が多いほど個体数は多くなります。

df_sum = df_with_monthnumber |> 
  mutate(across(count, ~replace_na(., 1))) |> 
  group_by(monthnumber, species) |> 
  summarise(across(count, ~sum(., na.rm = T))) |> 
  ungroup()

描画します。

ggplot(aes(x = term, y = count, fill = species), data = df_sum) + 
# 積み上げ棒グラフ
geom_bar(position="stack", stat="identity") + 
# カテゴリのマニュアル設定
scale_fill_manual(values = c("#d3d3d3", "#00bfff", "#db7093"), 
                  labels = c("亜種不明", "オオダイサギ alba", "チュウダイサギ modesta")
                  ) +
# 横軸表示の設定
scale_x_continuous(breaks = seq(12), expand = c(0,0)) +
# 体裁の設定
theme(axis.ticks = element_blank(),
      panel.background = element_rect(fill = "white"),
      # 副軸のみを使って月の区切りを表現
      panel.grid.major = element_blank(), 
      panel.grid.minor.x = element_line(colour = "#dcdcdc", size = 1),
      # 凡例を下に
      legend.position="bottom"
      )

描けました。

ダイサギ亜種ごとの観察のべ個体数

集計の結果、この観察地では以下のことが言えました。

  • オオダイサギは9月から5月まで

  • チュウダイサギは4月から11月まで

  • はオオダイサギのみ、はチュウダイサギのみ見られる

  • の一ヶ月ほどは両亜種が見られる

  • は9月から11月にかけて両亜種が見られ、個体数も多い

関東ではチュウダイサギが普通に越冬していますが、宮城で冬にチュウダイサギを見かけたことは今のところありません。また夏のオオダイサギも(少なくとも当地では)見かけないため、夏と冬では完全に入れ替わっていることがわかりました。

ダイサギの亜種について

HBW and BirdLife 2023、Clements 2023、eBird 2023ではダイサギの中に4グループを認めています。(チュウダイサギを別種とする意見もあるが現時点では主流でない)

  • Ardea alba alba:ヨーロッパからアジア(青)

  • Ardea alba melanorhynchos (African):アフリカ中南部(橙)

  • Ardea alba egretta (American):南北アメリカ(緑)

  • Ardea alba modesta (Australasian):東アジア~オセアニア(赤)

ダイサギ亜種ごとの大まかな分布(季節考慮無し)

上の図のような分布だと言われていますが、実際のところどこまで分布していてどう移動しているのかはわかりません。(オーストラリアで撮影されたオオダイサギと思われる画像もありましたし。)
繁殖期には各亜種の外見の識別ができても、やはり似ていて亜種識別は難しいのが現状です。

サギの仲間は広域分布している種類が多いですが、それでも例えばアオサギがアメリカで発見されたら珍鳥としてBirderがたくさん集まるように東西の大陸間移動はあまりしていないと思われます。

なお、オオダイサギのことをだいだいさぎと呼ぶ方がおられますが、シラサギ、クロサギ、ムラサキサギ、アオサギに並んで橙を連想させるので私は否定的です。

ダイサギの亜種について紹介してきましたが、普段の観察で毎度のように種を分ける必要は無いと思います。なぜなら亜種の識別が、時期や場所によっては難しいからです。細かい記録をすることも大切ですが、曖昧な観察により同定することは望まれません。種名に辿り着くことがゴールとなるのではなく、対象をよく捉えることが識別においての到達点だと考えます。

つまり
ダイサギの亜種は、まあどちらでも良いのですが、
少なくともダイサギは渡り鳥だということです。

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