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中国甘粛の旅5 甘南チベット族自治州へ

甘粛の旅 その5(2015年5月19日)

さて、いよいよ今回の旅のほんとうの目的地「甘南」へ向かうことにしました。中国のサイトで、甘粛省の南部に「甘南チベット族自治州」というのがあるのを見つけたのです。チベットはもともと行きたいとは思っていたのですが、あまりに遠く、面倒な手続きを踏み、しかも高額なツアー料金が必要ということで行かれなかったのですが、今回いわば“ミニチベット”を訪ねてみようと思い立ったわけです。

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蘭州から高速バスで226Km、3時間ちょっとで自治州の中心地、「夏河(シャーハー)」に到着します。町は、“観光による町おこし”政策の対象になっているので、行政からの援助があり、観光地向きの整備が施されて商店もホテルも学校もお役所も一見似たような造りになっているのですが、それはもう私も最初から織り込み済みでした。それはそれで、ここにはもっと奥が深いところで、チベット文化の花が咲き乱れているのです。

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この町の人口の80%近くがチベット族で、町には拉卜楞寺(la bo leng si)-ラプラン寺という、チベット仏教ゲルク派の六大寺院のひとつがあるのです。私もずいぶん長いこと漢族の村で暮らしてきたので、漢族=中国人といった誤った価値観に染まりかけているのではないかという危惧があり、漢族ではない中国人の暮らしぶりを見てみたかったのです。ちなみに、上の写真の後方の山々は4000m峰です。

チベット仏教に関しては、もちろん私には何の知識もないので、関心がある方はこちらから。

予定通りに夏河のバスターミナルに到着し、蘭州の本屋で見たガイドブックに出ていたYHを探し当て、荷物を置いてさっそくラプラン寺に出かけました。すべてが徒歩で回れる小さな町です。

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「拉卜楞紅石国際青年旅舎」はほんとうに気持ちのいい、清潔なYHで、若い人、年寄でもお金のない方にはお勧めです。私が行った時も、個室に泊まるつもりだったけれど、老板娘(女主人)が、「今はお客さんも少ないから、ドミトリーに泊まったら?他には誰も入れないようにするから」といってくれて、1泊50元(1元≒16円)のドミにずっとひとりで入っていました。個室は120元から180元。ただ、あまりベッド数がないので、夏場は予約を入れておいて方が賢明です。もちろん標準語は通じます。電話番号は;0941-7123698

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YHからラプラン寺の入り口までは歩いて5分くらいです。寺といっても、僧院や学校や居住区などがすべて一緒になっているので実に広大な敷地で、その敷地のぐるりに、大小のマニ車というものが取り巻いていて、それをぐるぐる回しながらたくさんの人々が巡礼をしているのです。ほとんどが、一目でチベット人とわかる服装や顔立ちの人とエンジ色の僧衣を纏ったラマたちです。

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これがラプラン寺の全景です。ここに現在1500人くらいのラマ僧が修行しているそうですが、出家していない人もいるので、かなりの数の人々が暮らしているわけです。もちろん学校から図書館から病院から、普通の共同体の中にあるものは、警察以外ほぼすべて整っています。

観光客らしき人たちもたしかにいるのですが、“聖域”に踏み込んだ途端に、それら外地の人たちがほとんど目に入らないほど、濃厚な“チベット的世界”がそこには広がっていたのです。

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寺の周囲には、大小のマニ車(2枚目の写真)という、中に経文が納められている仏具があって、ラマ僧も一般のチベット人も、毎日1回、人によっては2回、3回と、グルグルそれを廻しながら巡礼をします。

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そして私のような“よそ者”が、罰当たりにもキョロキョロしながら慣れない手つきでマニ車を回している傍らを、「五体投地」で一心に祈りを捧げている人たちがいました。両手を合わせて跪き、その両手を前方にドーンと思い切り投げ出してその後に両足を引き寄せる、つまり尺取虫のような移動の仕方で仏に祈りを捧げているのです。手には厚い布で作った手袋のようなものをつけていました。これがなければ血だらけです。この方法で寺の周りを何周も巡礼するのです。いったい何時間かかるのかわかりませんが、驚いたことにこれはラマ僧だけではなく、一般の人、例えばジーパンにトレーナーという若者の姿もあったのです。

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映像では見たことがありましたが、あつい吐息が聞こえるような、いえ実際に聞こえる距離で、彼らのあまりにも“過酷な祈り”を見ていて、私は信仰に縁がない人生を送ってきたなぁとしみじみ思わされました。

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しばし呆然としている私を、こんなラマがこっちに来なさいと招き寄せてくれました。彼は標準語が少し話せて、会話が成立しました。日本人であるということもよく承知してくれました。彼は青海省の寺にいて、12歳のときにここに移り、以来76年間、ずっとこの寺で過ごしているのだそうです。ぽちぽちと会話をしていると、通りがかる巡礼者が、このラマにお布施を渡しに来るのです。ありがたそうに手を合わせながら。

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それで、ラマでも生活するのに現金がいるのかと聞くと、寺の中にいる限りはいらないけれど、たまには外に出たりするので、だいたい1か月に5、60元くらいのお金はいるというのです。でも、こんなにお布施をくれる人がいるんだから、きっとお金使いきれないくらい持ってるんでしょう?というと、そうだそうだとうなづいていました。銀行に貯金してるんじゃないの?というと、やっぱりそうだそうだとうなづいていました。

YHに帰ってから老板娘の完さんに写真を見せると、やはりこのラマはとても有名な人で、信者に説教をすると1回で100元くらいはもらうから、月に3000元くらいの収入はあるはずだというのです。でも、結婚もできないし、誰に残すのかと聞くと、兄弟の子供や孫にあげるのだそうです。つまりラマとして出世すれば、親族が養えるということです。

別れ際にラマが、背中がかゆいから掻いてくれというので、私は僧衣の中に手を突っ込んでバリバリ掻いてあげました。こんな“生き仏様”に喜んでもらえたのだから、きっと私には後で何かご利益が返って来るに違いありません。

そうそう、YHの完さんも通いできているおばちゃんも敬虔なチベット仏教徒で、毎日2階で五体投地でお祈りをしています。完さんはつい最近、女3人テントを担いで、徒歩で2か月かけてラサまで巡礼に行ってきたそうです。彼女は30代後半、もうひとりは50代だとか。さすがに帰りは飛行機だったのですが、冗談で「ここから五体投地で行ったの?」と聞いたら、「10年かかる」そうです。


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