「UNconscious BLack」第2話 週刊少年マガジン原作大賞・連載部門 応募作品
第2話
【相反する夢】
翌日になっても、俺は、ぐるぐると真白兄妹から言われたことを考えていた。
『俺たち、家の関係で、ヒーローやってるんだ。今はまだ、俺とヒメの2人だけど、いつかは5人の戦士をそろえてみせる。黒崎くん、3人目のヒーローになってくれないか?』
(ヒーローか、)
たしかに俺はヒーローが好きだ。
憧れてもいるし、自分もそうなれたらと小さい頃からずっと思ってきた。でも、それはあくまで生き方というか、精神性のもので、まさか文字通りのヒーローにならないかと、誘われる日が来るなんて。
もしかして、俺は揶揄われてるのか?
しかし、あの目。とても嘘をついているようには見えなかった。
「くーろーさーきくーん!!!」
「っ、どうして」
放課後、帰りのHRを終え、それでもぐずぐず席に残っていた俺は、勢いよく立ち上がった。
クラスの外から、ヒロ先輩が、ブンブンと手を振っている。
クラスメイトからの視線が痛い。ヒロ先輩は、俺の噂を知らないのだろうか。
俺はカバンを持つと、急いで廊下へと出た。
「ヒロ先輩、どうしたんですか?」
「どうしたって、昨日言っただろう? また、じっくり話そうって。流石に昨日の今日じゃ、
あの話、信じられないだろうし」
「俺、てっきり揶揄われてるのかと」
「あはは、なんで俺が黒崎くんを揶揄うんだよ」
「なんでって」
俺は、ヒロ先輩をみた。うまく答えられずに言葉に詰まる。
「まぁ、とりあえず、ゆっくり話せるところに行こう。ヒメが先にそこで待ってる」
ヒロ先輩がパチリとウインクをした。
◇
「要するに、ヒロ先輩と真白さんは宇宙人ということですか?」
俺は混乱していた。青山の洒落たカフェ。アイスコーヒーは美味しいし、学校の近くにこんな落ち着いた雰囲気のカフェがあるとは知らなかったと感心したていたのも束の間、ヒロ先輩によるその話は始まった。
「厳密には、黒崎くんも宇宙人ということになります」
真白さんが、紅茶を啜り、静かに言った。
俺は対角線上に座った彼女をみると、昨日のことを思い出して、つい意識してしまう。しかし、彼女は何も気に留めていないようだった。
「私たち真白家の祖先が、地球人の始祖ということは、その始祖から派生した皆さんにも少なからず違う星の血が流れているということ。もし兄がいう説を信じるならですが」
「おい、ヒメ、お前まだそんなことを言ってるのか。前に一緒に父から話を聞いただろう。あのとき、『私がヒーロー?』って、喜んでいたじゃないか」
「あれはあれ、それはそれで。どうせ私はヒーローオタクですよ」
真白さんは、口を尖らせて言った。昨日から、真白さんは、クラスでいる時と違った印象を受ける。とても新鮮だった。
「黒崎くん、他にわからないことあるかな?」
ヒロ先輩の言ったことをまとめるとおおよそこうだった。
昔地球に似た惑星(kプラー9星というらしい)に住んでいた真白家の祖先は、王の一族だった。
家臣とのいざこざにより、次第に命の危険を感じるようになった彼らは、生命の石という、kプラー9星の守り石を持って、命からがら地球へとやってきた。
生命の石には、神秘的な力がある。
それは、とても住める土地ではなかった地球を、現在の資源に溢れ、豊かな土地へと成長させるほどに。
しかし、またいつkプラー9星から、生命の石及び真白の一族を狙って追手が来るかもわからない。そのことに怯えた真白家の祖先は、石守りとして代々5人の戦士を任命し、万が一に備えてきたと。
「聞きたいことは、いろいろあるんですけど」
俺がそういうと、ヒロ先輩は「何でも聞いてくれ」と目を輝かせた。
「石守りって、結局敵が攻めてこなければ、仕事ないですよね?」
「いい質問だ!」
ヒロ先輩はニカっと笑った。
「実は、もうkプラー9星から、追っ手が来ている」
「ええ?」
思いもよらなことを、明るく言い放つヒロ先輩に、俺は驚きの声を漏らさずにはいられなかった。
「黒崎くんは、マシロホールディングスという会社をご存知ですか?」
真白さんに聞かれ、俺は頷いた。
「企業に詳しくない俺でも、知ってます。超大手ですよね」
逆に俺はマシロホールディングス以外の会社がパッと思い浮かばなかった。今家で愛用してる電気ケトルもマシロホールディングスのものだし。
「うちの父の会社です」
(たしかに、名前同じぃ……!)
俺は項垂れた。今なら、俺、何言われても驚かない自信がある。
「実はあまり大声では言えないのですが、」
ぐいっと、身を乗り出した真白さんは、耳元で囁いた。
「先日、会社の地下にある生命の石を保管していた倉庫が襲撃に遭いました」
「っ! じゃあ、石は?」
「大丈夫、ここだ」
ヒロ先輩は、ぱんぱんとスクバを叩いてみせた。
「実は、襲撃に遭う前に、たまたま、父から石を譲り受けたところで、俺なんだか嬉しくてさ肌身は出さず持ってたから、結果的に助かったんだよね」
「そんな布一枚のカバンに。ヒロ先輩のパンチはたしかに強烈ですけど、流石に無謀ですよ」
俺がそう言うと、ヒロ先輩は、ハハハっと言って笑った。
「それで、これの出番だ」
ヒロ先輩は、制服のボタンを外し始めた。
「わ、何やってるんですか。公共の場で」
焦る俺に、ヒロ先輩は、手を前に突き出した。
その中には、
「え、指輪?」
「そう!」
ヒロ先輩は、指輪をネックレスにして制服の下に隠し付けていたのだ。
「うちの高校、校則厳しいからな。バレないように仕込んでるってわけだ」
「それで、その指輪は?」
「きいて、驚くなよ。なんと、これで、ヒーロースーツに変身ができる!__って、あれ反応薄くないか? 変身、変身だぞ、黒崎くん。男のロマンだろう」
「すみません、信じられなくて」
「まぁ、それも無理ないか。こうやってリングにチュッとして、ちょちょいと呪文を唱えれば、ボンっとスーパーヒーローに変身ってわけさ。まぁ、防御力は変身だけで事足りるとしても、戦闘力や技なんかは、個人のポテンシャル次第だから、日々の鍛錬が必要だ。そして、強さは個人の内面にも大きく左右されるな」
「内面」
ドキンと胸がなる。ずっと考えていたことが、俺の中で首をもたげる。
ヒロ先輩は、ゴソゴソとポケットから同じ指輪を取り出した。
「そして、これが、君のだ。受け取ってくれるな?」
ヒロ先輩と、真白さんが俺のことを見る。
あぁ、またあの真っ直ぐで澄んだ瞳。
見ていると、落ち着くとともに、クラクラする。綺麗な目が、俺の歪んだ血を、遺伝子を、細胞レベルで見透かしている、そんな気になる。
「どうして俺なんでしょうか」
気がつくと人を突き放す、冷たい声が自分の口から漏れていた。でも、自分ではどうしようもなかった。
「えっと、」
ヒロ先輩が、真白さんを見る。
俺は重ねて訊いた。
「先輩は、俺が学校で何て呼ばれてるか知ってます?」
「ん?」
真白さんの表情が変わった。やっぱり、彼女は知っているんだ。
「俺、ヴィランって呼ばれてるんです。黒崎ランのランはヴィランのランって。そんな俺がヒーローなんて、笑っちゃいますよね」
「そんなことない!」
ずっと黙っていた真白さんが、大声を出して立ち上がった。
周りの客が、ジロジロと見ている。
「あんな、噂なんて」
「本当ですよ」
「え?」
俺より一生懸命な顔をした、真白さんの瞳が揺れる。
「あの、噂、全部本当です」
「黒崎くん、」
事情を知らないはずなのに、ヒロ先輩が、申し訳なさそうに、俺の名前を呼ぶ。
あぁ俺は、よくしてくれる人に、こんな顔しかさせることができない。
不甲斐ない自分が嫌になる。
どこまでも、俺は人を不快にしかできないんだな。
「今日はありがとうございました。お二人と話せて楽しかったです」
俺は、1000円札を残して、店を逃げるように走り去った。
【第3話へ続く】
https://note.com/natsumegu0_0/n/n7889819de7b2
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