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一月の雨にしてはあたたかかった

一月の雨にしては
あたたかい
あたたかい一月の雨は
彼のことを思い出させた

彼のことを思い出すと
口の中が甘くなる
甘い香りが口から鼻に抜けて
そこから喉へ落ちていく
すると
彼が私の体と一体化したように
気配を感じる

彼の気配を思い起こすと
心の中、彼はそっと笑って
無精髭の生えた横顔が
美しすぎて、映えた

美しさを纏う、窓の外では
一月の雨がしたたり
夕暮れから夜の闇に変わるころ
激しく窓を叩いた

二回ほど彼がトントンと叩き
たゆませたシートベルトから
甘い感触が不意に
口の中広がると
私は彼のことを記憶した
記憶の奥深くに
甘いにおいを記憶した
甘い、雨が
未だに心の中
居場所を作っている

彼はふと顔を離すと
照れて笑って、こちらを見ながら
まだ甘いままの吐息を
大きなため息として
車中に放った

行こうか、と放つと
エンジンをかけた彼は
私の左手をポンポンと叩いて
子供をあしらうように
なのか
自分を諭すように
なのか
未だに分からない動きをした

諭してください、私を
と、私は思いながら
窓の外の夜を見て
どちらつかずの想いを
ただ、飲み込んだ
甘い匂いとともに
何の言葉も吐かずに

激しい雨は
一月にしてはあたたかかった


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