見出し画像

大吉原展で遊女が「人間」だと知った

朝ドラ「虎に翼」で、法廷劇を演じる寅子たちに男が野次を飛ばすシーンでぼろぼろ泣いたのち、大吉原展へ行った。

遊女を描いた絵はほとんどが浮世絵だったけど、中には写実的な油絵や写真もあり、それを見て初めて「遊女は生身の人間だったのだ」ときちんと理解した気がする。

もちろん吉原や遊女、花魁が過去に実在したものであり、そこで何が行われていたのかは知っていたけれど、これまでエンタメコンテンツで眼にしてきたそれらを、わたしはどこか非現実のものとして受け止めていた。だから散々「ガラスの仮面」で「たけくらべ」の話を読んだのに、美登利が花魁になることの意味を考えることもなかった。

大吉原展は開催を発表した際に炎上したようで、会場内には「遊廓は人権侵害・女性虐待」と何度も書かれていた。炎上したから説明書きが足されたのか、元々あったのか、実際のところはわからないけれど、折に触れて注意書きがあったのはとてもよかったと思う。美しく描かれた浮世絵を前に、遊廓が人権侵害・女性虐待の場であった事実はあっという間に霞んでしまう。

引用

遊郭の女性たちは身売りされた境遇。劣悪な待遇への不満や抗議の意思を示すために遊女が遊郭に放火することもあり、幕末に吉原で起きた火災の半数は遊女によるものだったそう。

そんな遊郭の女性たちの悲惨な境遇に憤り、廃娼運動を起こしたのはキリスト教者。マリア=ルス号事件で「日本では遊女の売買が行われている」と抗議されたことがきっかけとなり、1872年に政府が娼妓芸妓を自由の身とした。

娼妓解放令後は9割の遊女が遊郭を離れたものの、その実態は親族や以前の人主への引き渡しであり、どうやら自由を手にしたわけではなさそう。

実際に、遊女が馴染みの奉公人との結婚を認めてほしいと東京府に嘆願したものの却下され、結果として吉原に戻ることを迫られ、遊女は嫌だと拒んだにも関わらず、証文には「真意をもって遊女稼ぎを望んでいる」と明記されたと説明があった。

また、政府は娼妓解放令後、遊女を「自らの意思で身を売る娼妓」と言い換え、事実上公認。家の事情により身売りせざるを得なかった遊女への世間からの同情心は薄れ、「自由意志で身を売る女性」として見られるようになり、厳しい眼差しが強まっていったとも書いてあった。

体を売る女性に厳しい目が向けられるのは今も同じ。自己責任論で片付ける人もいるけれど、本当の意味での自由意志で身を売る女性はどのくらいいるのだろうか。身を売らざるを得ない女性たちの状況を想像できるだけの知性と余裕を持てる人でありたいと思う。

その後、廃娼運動が高まったのは1911年ごろで、売春防止法公布は1956年。とはいえ挿入を伴う性交をしなければ法には触れず、現在も日本は風俗大国なわけで、女性の立場はまだまだ低いのだと再認識させられる。 

そもそも売春防止法って何なのだろうと調べたら、「当事者に対する罰則規定はない」とあった。かつて遊女のほとんどが身売りされた女性たちであったことを考えれば、当事者の女性が罰則の対象にならないのは妥当に思える。けれども、同じく当事者である「女性を買った」男性側に罰則規定がないのはどういう理屈なのだろうか。

以前『言葉を失ったあとで』という本に衝撃を受け、著者の一人である信田さよ子さんに取材をした時も、「DV防止法に加害者への罰則はない」と聞いた。

そもそも「日本の家族に関する法律はほとんど明治時代のまま」と信田さん。

「法学部の先生に聞いたのですが、日本の法律では、家族内で起きたことを犯罪化し、その加害者を処罰することは難しいのだそうです。

DVで妻が怪我をしたら傷害罪、親からの虐待で子どもが死んだら殺人罪に問われますが、DV罪や虐待罪ではないんですね。

なぜなら防止法であって禁止法じゃないからです」

日本はDV加害者に甘い国「女性たちは自己肯定感という言葉を捨て、わがままに生きましょう」

今も共同親権の導入が進んでいる。実質的な離婚禁止制度と言われていて、女性と子どもの立場が弱くなるとさまざまな問題点が指摘され、見直しを求めるオンライン署名には22万人を超える人が賛同しているにも関わらず、そして夫婦別性や同性婚が「家族の形を変えかねないので慎重に検討」と遅々として進まないにも関わらず、共同親権の導入は急速に進んでいる。

今朝の「虎に翼」では、いつも男装姿で一匹狼な山田よねの生い立ちが描かれた。よねは貧しい百姓の生まれで、身売りされそうなところを逃げ出してきた女性。まさに吉原に身売りされた遊女たちと同じ境遇で、遊女が生きた人間であったことを再び痛感させられる。

大吉原展に展示されていた艶やかな遊女の絵は男性たちが描いたものだった。もし遊女が遊郭や遊女の絵を描いたら、どういう絵になっていたのだろうか。

この記事が参加している募集

最近の学び

今日やったこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?