大好きな仕事を6ヶ月間離れて
わたしは、14年以上前からWeb記事を書くライターをしていた。この間には、出産や子育てなどで休業していた時期もあったが、ほとんどの期間は、何かしらを書いて過ごしてきた。
今年の3月ごろだったか。以前からお付き合いのある企業で、ディレクターをやってみないかという話をいただいた。
実を言うと、わたしはずっと「ディレクターには絶対ならない」と決めていた。業界では「ライターは経験を積んで、いずれディレクターにステップアップしていくのがこの世界で生き残るひとつの方法だ」とかいう話を聞いたことがあった。実際にどうなのかはよく知らない。
ただ、自分には指揮や管理などは向いていないし、絶対にできないと思っていた。やりたいとも思わなかった。
ディレクターの仕事を引き受けたのは「せっかくの依頼を断るわけにもいかない」「断り切れずしかたなく」という感じではなかった。
知らない世界を体験することで、新しい発見があるかもしれない……もしかして、自分はこれをきっかけに新たな世界に羽ばたいていくのではないだろうか……! という期待感が少なからずあった。
知らない世界を体験してみた結果
ディレクターという仕事を半年間やってみて、感じたこと。
それは……
やっぱり、向いていない。
ぜんっっぜん、好きじゃない!
当初は、こんなことを言う予定ではなかった。この仕事をやってみて得たポジティブな気づき、学びを書くつもりだった。
恐怖を乗り越え、未知の世界に飛び込んでみた結果、とにかく一生懸命取り組んでみた結果「制作過程にはこんな苦労があるんだ!」とか「企画ってこんなにおもしろいんだ!」という、アツいメッセージを伝えられるかも? なんて思っていた。
もちろん、気づきや学びが一切ないなんてことはない。本当にいろいろ勉強になった。
しかし、それよりも何よりも「わたしはやっぱり書くのが好きだ」ということを、以前にも増して強く感じている自分がいる。
わたしは抜け漏れやミスが多いし、気遣いや配慮も今ひとつ足りない。毎日B5用紙3枚ほどの用紙にメモをしているが、それが毎日溜まっていく。それは今、9枚溜まっている。怖くて捨てられないのだ。にもかかわらず、いろんなことを忘れてしまう。一体どうすればよいのだろう。今日なんて、30回くらい誰かに謝った気がする。本当はもっと少ないのかもしれないけど、それくらいに感じる。すごく自分がダメ人間に思える。
しかし、ごく稀に、どうしても執筆を依頼できるライターさんがいないときに、自分で巻き取って書くことがある。ときどき、以前お付き合いのあった方が、執筆の依頼をしてくださることがある。慣れない業務の中に、ぽっと入ってくる、わたしの好きな仕事。
それが楽しみで楽しみでしかたない。本当に胸が高鳴る。
だいぶ執筆から離れてしまった今「書く機会」がやってくると、心が躍る。
書いている時間も、調べている時間も、推敲する時間も、すべてが幸せで、うっとりする。ちなみに、記事の内容にうっとりするような情緒あふれる描写など一切ない。
自分が選んだ情報、選んだ言葉、並べた順番、作ったリズムを確認するのが、何よりも心地よいのである。
そしてそのうっとりした文章は、校正さんの手厳しい赤入れだらけである。けっして「上手いライター」なわけでもないのだ。
それでもわたしは、書くことが好きで好きでたまらないのである。以前は、昨日も今日も明日も、ずっと書くのが仕事だった。だから、自分がどれだけ書く仕事が好きなのかわからなかった。書く仕事が、どれだけ自分に幸せをもたらしてくれるものだったのか。
そんな仕事に出会えているわたしは「恵まれているにもほどがある」ということを、知らなかった。
他を知れば本当に好きなものがわかる
今までやったことのない領域に足を踏み入れて、自分がどれだけ記事の執筆が好きだったかを再確認することができた。
それは、海外に憧れて異国に移り住んでみた結果「自分やっぱ日本の方が合ってるわ」と思うこととか、自分へのご褒美にちょっと高いフレンチのコースを食べてみたはいいけど「なんか、思ったてのと違う」とか、役者を極めた末に監督デビューして失敗するとか、そういう感じに似ているのだろうか。いや、少し違うような気もする。
違う世界を体験している間は一瞬、自分が次のステップに進んだような気がしたり、今までとは違う人間になった気がしたりした。
でも、なんだか先が見えない。
どうも、わくわくできない。
新しい世界に飛び込んだり、知らない場所を知ったりすることで世界は広がる。でも、今までいた場所や自分がもともと好んでいたものが、どれだけ自分にとって重要で、大好きだったのかを知る機会にもなり得るのだなと思った。
だからといって、仕事を辞めるつもりは今のところない。
繰り返しになるが、気づきや学びが一切ないなんてことはない。本当に、本当に、いろいろ勉強になっている。
でも「自分は本当に、記事を書くことが好きなんだ」「わたしにとっての幸せは、書くことなのだ」というのを、しっかり確かめることができた。
書いていてこそ、完全に満たされた状態 “ウェルビーイング” が保たれるのだとじんわり感じながら、この半年間の幕を閉じよう。
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