【読んでみた】フリースタイル言語学

最近読んで面白かった本を紹介したいと思う(書評と言えるほどのものではない)

今回はコチラ。
川原繁人「フリースタイル言語学」

少し前に高野秀行さんの"語学の天才まで1億光年"を読んで、語学・言語学に興味が湧いた流れがあったのでタイトルに惹かれて手に取ってみた。
と言ってもこれから何か新たにどこかの国の言葉を習得しようという情熱がある訳ではないけれど。
ただ気管切開して声を半分失った身として、発声・発語のメカニズムを少しでも知れたらというのはある。

まずタイトル通り見ただけもで頭の痛くなるいかにもというものではなく、独特な切り口(一見アホっぽい)が、ド素人にも取っ付きやすい。
メイドカフェの店員名の響きから読み取る萌え系とツンデレ系を分類できる傾向の考察、ポケモンの進化、ドラクエの呪文、プリキュアについてなんて普通の専門書には出てこないはず(笑)
それら(ちょっとバカバカしい)研究を税金ですることへの是非についても触れていたけれど、裾野を広げる意味では自分はこういう人がいてもいいと思う。

何よりも最近ヒップホップに傾倒していたので、ZeebraやK DUB SHINEとの関わり合いのくだりにはニヤニヤせずにはいられなかった。
そんなこともありフリースタイルダンジョンのゲスト審査員を務めたこともあったとは知らなかったなー。
常々ある「日本語はヒップホップには合わない」「日本語ラップはダサい」論争にも過去にきちんと根拠を持って反対していた話も面白かった。
さらに晋平太とも繋がってコロナ禍を逆手に取って平時よりハードルの低いオンライン授業に呼び、そこから公開イベントに発展して日本全国のヒップホップ好きが集まって盛り上がった話もめちゃくちゃアツい。
この一連の流れで川原さん大好きになってしまった。

様々な言葉が濁点つきになったり「つ」が「っ」に変わる法則(例外もあるけど)、アクセントとイントネーションの違いについても分かりやすい説明だった。
例えば「にせだぬきじる」と「にせたぬきじる」では意味が変わる(ニセがどこにかかるか)など。
また母音と子音の関係性から見ると特殊と言われる日本語が決してそうとも限らないというのも、色んな言語の例を挙げて示してくれて興味深かった。

そんな楽しく研究している川原さんのそれが思いがけないところでちゃんと役立っているのが本当にスゴい。
発声の構造の観点で歌い手たちに喜ばれたり、彼の作ったプログラムが文章読み上げソフト・マイボイス開発に生きたり。
これも躊躇なく縦横無尽に様々な分野の人とクロスオーバーしていくフリースタイルな姿勢でこそ成せる技だろうし、好きなだけでも無駄になるものはないのかもしれないと思わせてくれる。
例えばダブミュージックも偶然のエラーから始まっているし、カルチャーはそういったところから生まれるケースもある。
「アホみたいな発想の中にも何かのヒントが潜んでいるかも」という思考は自分も好きだし、共感できる部分が多くてとても楽しく読めた一冊。

【追記】
私は筋ジストロフィーという病気の38歳。
35歳で気管切開の決断を迫られたものの、幸運にも裏技を駆使すれば比較的自然に話すことができる。
人工呼吸器から送気されるタイミングに合わせて、一回ごとに詰め込む音の数や言葉をどこで区切ったら聞き取りやすいかを常に意識して話している。
これがもし別の言語だったらまた違うんだろうなというのはたまに思うし、ちょっと興味がある。
まあネイティブだったら上手いことアジャストするんだろうけどね。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?