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【SS小説】一週間探し

ぱっと目が覚めると俺の部屋には昨日のクラッカーが落ちていた。

昨日は8月1日。俺の16歳の誕生日。彼女から誕生日プレゼントにお揃いのブレスレットをもらい、家に帰ると母さんが作ってくれたケーキと妹の鳴らすクラッカーでお祝いしてくれた。ああ、楽しかったなあ。

リビングに行くと慌ただしい母さんが俺を見て驚いた。
「リョウタ!まだ支度してなかったの?遅れるわよ!」
「え?支度って、なんの?」
「今日、登校日でしょ!」
「え?今日まだ2日でしょ、何言ってんの」
「何寝ぼけてんの!今日は9日、平和式典の日やろ!」
俺は意味が分からなくて、とりあえず携帯を確認したが確かに9日なのだ。
いや、俺は確かに昨日、誕生日だった。今日が9日だったとしてもその間の記憶が全くない。謎は深まるばかりだが世界は今日を8月9日だと認識しているようなので俺は準備をして学校に行くほかなかった。

学校で彼女に会うと開口一番に怒られた。
「なんで連絡してくれないの!!そんなに誕生日プレゼントが気に食わなかったの?!」
「いや、俺、実はあの日から今日まで記憶がないんだ!だから」
「は?!意味わかんない!ブレスレットだってしてないじゃん!最低!」
確かに俺は彼女にもらったブレスレットをしていなかった。家のどこにもなかったのだ。彼女はそれから一切口をきいてくれなかった。

俺にはこの出来事を話せる奴が一人しか思いつかなかった。
小さいころからの幼馴染で、俺に彼女ができた途端に疎遠になったケンジ。
俺はなんだか気まずい気持ちを振り払って、ケンジに声を掛けた。
「なあ、ケンジ。ちょっと話があるんだけど」
「・・・」
無視かよ。俺が彼女に夢中になってお前をほったらかしにしてたことを怒っているのか?でもケンジはいつも心強い理解者だった。俺のこんな不可解な話、誰も信じちゃくれないだろうがケンジだけは信じてくれるはずなんだ。
「なあ、頼むよケンジ!俺の最近の態度が悪かったなら謝るから!」
「いまさら何の用だ、彼女と毎日仲良くしてるんだろ」
「お前にしか相談できないことがあるんだよ」
「俺もあったよ、お前にしか相談できないことは。だけどお前が言ったんだ。彼女でも作って彼女に相談したらどうだって。お前が変わったことで、お前の周りにも変化を与えることを忘れるな。人間関係っていうのは常に変化し続けるものなんだ。お前に彼女ができた変化に俺がついていけなくなった。ただそれだけのこと」
俺は返す言葉が見つからなかった。
「本当にごめん」
「謝ってどうにかなることじゃない。だけどわざわざ話しかけてきたっていうことは余程のことがあったんだろう。それなら聞いてやってもいい。放課後、俺の家に来てもいいぞ」

俺が放課後、ケンジの家を訪ねると懐かしいケンジの部屋に通された。
「ジュースでも持ってくるから待ってろ」
「ああ、ありがとう」
少々ギクシャクしながらもなんだか昔に戻ったみたいで懐かしかった。
昔はよくここで一緒にゲームしたなあと部屋を見渡していると、押し入れが少しだけ開いていて、そこにハンガーに掛けられたシャツがあった。俺はなんだか妙に気になったんだがすぐにそれが俺が持っているシャツと全く同じだということに気が付いた。
まさか俺と全く一緒のシャツを買うなんて、そんな偶然あるか?と思い、押し入れに近づくと

ドスン!

と重いものが押し入れの中で倒れる音がした。
俺は押し入れに手を掛けて、少しずつ開けていった。
光の差し込んでいった押し入れの中には倒れた俺がいた。俺だ。

どうして俺がこの中に?ケンジの家に?
腕には彼女からもらったブレスレットをしている。

ぱっと部屋の入り口を見るとケンジが立っていた。
ニヤリと笑ったケンジを俺は忘れない。
一週間後も忘れない。


おわり


~あとがきという名の悪あがき~
どうも、FLATの夏夜夢と申します。
これまでショートコント脚本を中心に書いておりましたが現在、小説を執筆中でして、FLATとして10/31の文学フリマ福岡に参加予定です。

今回の作品は、前々からショートショートの小説というものに非常に興味がありまして、noteにこういう作品を載せてもいいんだ!と知ってからショートショートのネタ帳も購入して練り練りした中の一つです。
今後もテイストで言うとホラーとか奇妙な世界観というものが多くなるかと思います。そういうお話って、自分でどんどん怖い想像ができるじゃないですか。自分の一番怖いエンドにできるというか。
今回のお話も、真実って何だったんだろうって考えてみると面白いと思うんですよね。ケンジがリョウタのふりをして一週間過ごしていたのか、それとも押し入れの中のリョウタが本物で、俺が偽物でケンジが悪霊退散でもしようと家におびき出したのか・・・とか(笑)

感想等もお待ちしております。
不定期ですが、ショート作品をnoteであげていきますのでよろしくお願いいたします。
ショートコント脚本はTwitterをご参考ください。

これからもよろしくお願いします。

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