M-1グランプリにおける偏見の話

今日はM-1グランプリの決勝戦である。

M-1といってもご存知の通り、世の膣自慢ガールがその持ち物でビールの栓を抜いたりバナナを千切ったりするマンコ-1グランプリの事ではない。漫才の頂上決戦を決めるというコンセプトの大会、即ち漫才1グランプリである。

私は例年、この大会の開催直後にはSNSを決して開かないことにしている。精神衛生上宜しいことが何も無いからである。

何を隠そう私の夫はお笑い芸人だ。しかも私自身、元お笑いファンを経たのち芸人として事務所に二箇所ほど所属した(そして上下関係に耐えきれずバックれた)過去があるため、お笑いというジャンルに対して非常に複雑な感情を抱いている。いや、基本的には好きなのだが、何というか昨今のM-1グランプリに対して「甲子園」みたいな熱視線を送る観客の皆さんに対し、若干「キツイ」と思っている節がある。 

話は迂回するが、私がお笑いファンだった10代の頃、「ラーメンズ」がその界隈の人気を席巻した。言わずと知れた「コントと演劇の融合」みたいなユニットの走りである。ラーメンズの作り出す世界観は非常に画期的なモノであり、私も御多分に漏れずその作品に魅了されてはいたのだが、大変失礼な話ながら、ラーメンズのガチオタは有り体に言って「キツかった」。10代真っ盛り、一緒にROUND1に通う友達もおらず暗黒時代に突入していた私の青春はガロと戸川純と寺山修司で出来ていたが、そんな私の厨2メソッドをもってしても、ラーメンズのマジファンは「キツかった」のである。

当時、インターネットにはSNSという概念がなく、お笑いに関する情報収集といえば個人サイトかブログ、掲示板である。私はお笑いオタクであるとともに二次創作オタク、更にBLオタクという役満ヤバマンコ(臭い)だったが、二次創作サイトの「貴方は●番目の来訪者…キリ番踏み逃げ禁止」というアクセスカウンターの方がなんぼかマシというくらい、ラーメンズのファンサイトはキツかった。一言で表現すれば「テメェでは何のアドバンテージも持たざる者がたまたま見つけた先鋭的スタイルに乗っかった選民思想」の塊だった。全く一言で表現できていないのは申し訳ないが、当時のお笑いオタクであればこの全身がカユくなるモゾモゾ感、わかって頂けると思う。

あの時のモゾモゾ感が、より大衆化されたものを、私は現代のお笑いオタクに見てしまっているのである。ラーメンズは結局のところ「私は彼らをアイドル視などしていませんが舞台上でちょっと二人がイチャつこうもんなら萌えはするし、結局マンコ濡らしていますよ」「僕は大学にこそ友達はおりませんがパリピウェイが知らないオシャレを存じている選ばれたセンスの持ち主ですよ」という消費のされ方をしてしまった側面がある。

かくいう私自身にもその手の感性が働いていなかったといえば嘘になるので、別に文句をつける筋合いはない。ただ、SNSが発展した今、一部のお笑いファンの芸人に対する意識には、この「ラーメンズに対するキツイやつ」をバシャバシャに薄めた何かを感じずにいられないのである。ピュアピュアにピュアなのは和牛の川西さんとEXITのファンくらいだ。

更に「お笑いの賞レース」がメジャー化することによって、彼奴等は甲子園とかフィギュアスケート世界大会の観客みたいな熱視線を浴びせるようになった。元々「甲子園みたいな暑苦しいイベントに感情移入できないちょっとインキャ気味の人」が、僕たち私たちの甲子園を見つけてしまった結果であろう。「からし蓮根◯」「見取り図△」みたいな競馬予想まで投稿する有様だ。「これは誰も予測できないぞ!」等とつぶやくツイッターの向こう側に、耳に赤鉛筆挟んだジジイが見える。万が一非公式のM-1賭博などかまそうとしたら烈火のごとくキレるくせに。

ほんで貴様の普段やっていることと言えば居酒屋で砂肝のニンニク炒めと生ビールの写真をUPしつつ「今日も一日」だ。しかも人によってはハガキ職人とかやってる。ハガキ職人。承認欲求と自己肯定能力のバランスが取れていない事にかけては自撮り界隈に引けを取らない存在だ。しかも自撮り界隈の8億倍、ツイッターのフォロワー数を気にかけている。

キツイ。キツすぎる。

ここまで読んでおわかりの方もいると思うが、この個人的ほろ苦さには若干の同族嫌悪も含まれている(証拠に、私の実家には深夜の馬鹿力カードがデュエルデッキの如く貯蓄されている)。その為、ここまで書き連ねてきた罵詈雑言に対する反発心にも若干の手心を加えてほしいなど日和ったメンタリティも持ってはいるのだが、最後にこれだけは言わせてほしい。

「コバケン」「ギリジン」

当時の拗らせ「ラヲタ」がバナナマンの真似をして多用していたニックネームであり、ラーメンズを語るにあたってこの呼称を使用する人間には決して心を開かないようにしているが、昨今それを遥かに超えた激アツパワーワードを、SNSで散見するようになった。

漫才コンビ・金属バットの事を指した

「金属ちゃん」

これはヤバイ。人が死ぬヤバさである。友保の顔をよく見ろ。


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