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青シソと焼き鮭の混ぜおにぎり

はぐっ。口いっぱいに頬張るとほろほろと米粒がほどけてゆき、 もぐ、もぐ、噛むたびに米の甘みと鮭の塩辛いうま味が広がっていく。
プチプチッ、時折弾ける白ごまのコク、でも飲み込んだ後はさっぱり爽やかな香りが抜ける。


ステイホームしていたら夏が来てしまった。


朝の散歩道にはアジサイが咲きジャスミンが香り、スーパーにトウモロコシやスイカが並び始めた。毛布はそろそろお役御免、夏用のタオルケットを引っ張り出す気温。
なんだか季節に置いてけぼりにされたような気分。冬眠明けの熊ってこんな感じかな。

なんとなく焦る気持ちを落ち着けるため、今年も旺盛に茂り始めた青シソで大好きなおにぎりをこしらえることにしよう。


材料は鮭の切り身、白ごま、青シソ、調味料は塩ときどきバター。

まず、お米。通常通り米を研いで吸水させておく。水加減はやや硬めがいい。
じゃっ、じゃっ。小気味良いリズムが響く。クマデ型に開いた指の間を固い生米がすり抜けていく。
力を入れすぎて必要以上に削らぬように。でも「かき混ぜる」ではなく「研ぐ」力加減で。
水がぬかで白く濁ったら、ざああ・・・っ 。内窯を傾けて水を切る。 一粒もこぼさないよう、慎重に。
冬はあんなに億劫だった水仕事、夏は進んでやりたい心地よさ。

さてお米を炊く間、次の作業は鮭の支度。
塩鮭ならそのまんま、甘酒なら軽く塩を振り、余分な水気をふき取ってから魚焼きグリルへ。
鮭はものによって塩加減が全然違うからむしろ難しく、塩気のほぼ無いノルウェーサーモンなどは事前に軽く塩締めしたりもする。
ちなみに、好みは断然塩っ辛い荒巻鮭。しょ・・・っぱーい!!と口がすぼまるほどの塩分濃度、でもぎゅぎゅっと濃縮された味の濃さがたまらない。
塩焼きにすると塩が吹くほどだから、健康には絶対良くないのが難点だけど。

ちちちち・・・しゅぱぱっ。鮭の脂が弾ける音をBGMに最後の食材青シソに取り掛かる。
流水でざばざば軽く洗い、ちゃっちゃっと水分を切ってキッチンタオル。
これでもかこれでもかと水気を切って、キッチンタオルを取り換えてさらに乾かす。

これで舞台は整った。あとは炊飯器のゴール待ち。
ぷしゅるる・・・、甘いにおいの水蒸気が漂ってきた。ごぽごぽごぽ、炊飯器の中で踊るお米の音。
かしゅ・・・からららっと魚焼きの様子を見張る。しゅわしゅわとハラミのあたりで脂が泡立っている。
うむ。いい焼き目がついてきた。でも今日は普段の塩焼きよりもう少しだけ長く焼く。

この焼き立ての皮、皮ごと混ぜ込むと焦げ目のカリカリがなんとも香ばしくほろ苦くおいしいのだけれど、味見がてら食べてしまってもおいしいのでいつも誘惑と戦っている。
ご飯と鮭は一緒に炊き込んでしまえば手間もないのだけど、この皮の魅力をしってしまっては妥協はできない。きつめに焼いた鮭はお皿にとって粗熱をとっておく。

さて、そろそろ青シソの水気が飛んだかな。
茎の固いところを切り落とし、葉を数枚まとめてくるくる筒状に巻く。そうして筒の端からトントン刻んでいけば簡単に千切りが出来上がる。
このおにぎり、青シソは風味が主役で食感は控えめでいいので、糸のように細く細くを心掛ける。舌の上でのっぺり伸びると爽やかさの足を引っ張ってしまう。

ピーッ!きた。炊飯器の炊きあがりは開戦のゴングだ。
先に白ごまと鮭を混ぜる。しゃもじで鮭の身を切るように、さっくり大きく底から混ぜる。もわぁあ、と湯気が立ち上るはず、くれぐれもやけどに気を付け混ぜていく。
炊き立てご飯の甘い香り、鮭の香ばしい香りが入り混じる。
鮭の身がある程度ほぐれ、湯気も少し落ち着いた頃、千切りにしておいた青シソを投入。
最初から混ぜてしまうと青シソが煮えて黒っぽく変色してしまうから、少し熱のとれた、でも冷め切る前のほどよいタイミングを見計らう。
最も見た目の話であって、食べてしまえばおいしいからあんまり気にしすぎることもないけれど。

ツヤツヤのご飯に鮭を混ぜ込んだ鮭ご飯は白とピンクで華やかで、そこへさらに青シソを加えることでビシッとアクセントが効いた彩りの良さ。
バターをひとかけら入れても味と香りに奥行きが出ておいしい。

鮭の身はあまり細かくならないほうが彩りが鮮やかだし食べ応えがあっていいけどお好みだ。もちろん鮭フレークという万能選手も控えているし。
ただ、鮭フレークだと少し油分が多めだから入れすぎないように量は加減したほうがいいかもしれない。ほろほろと握っても固まらないおにぎりになる。


出来立てをほふほふ食べるのももちろんおいしいけれど、なんといっても味の馴染んだ数時間後が最高潮。朝作ってお弁当がおすすめだ。

もっちりしたお米の粒。白ごまの香ばしさとコク。鮭の脂が前面に主張しつつ、余韻には青シソの爽やかさ。

食欲がないときは、このおにぎりをお茶漬けにしてもいい。少しだけお醤油と、たっぷりの青シソの追加を盛って。

ああ、今年も夏がやってきた。