ため息の熱でゆるゆる溶けてく生クリーム。さくりとバナナを噛み取ると、つるんっと断面が唇をかすめていく。
もきゅっ、むちむちっ、ねっとりしたムースのような果肉とふわっと空気を含んだホイップの感覚。ふんわりしたスポンジ生地。
スゥ、・・・ごくり。ひんやりした幸せを飲み込むと、口にかすかに残るでんぷん質のざらつきにやっと気づく。

これは、天才の考えたデザートだ。
出会ってしまった瞬間から、私はずっと恋している。

高校二年を迎える春だった。
午前中、部室の大掃除と片付けに精を出してお腹の空いた私たちは、コンビニへお昼ご飯を買いに行った。皆が思い思いにおにぎりやサンドイッチ、お弁当を手に取る中で、ふと惹かれたのが金色で文字が縁取りされたパッケージ。
スポンジ生地の中にたっぷりの生クリームとバナナがまるごと一本挟まれた「まるごとバナナ」。

食べ盛りのあの頃はいくら食べてもおなかが空いて、限られたお小遣いでいかに空腹を満たすかが最重要課題だった。わりと贅沢品だったデザートを、しかも見慣れない商品をどうして手に取ったのかまでは覚えていない。もしかしたら予感したのかもしれない。一目惚れ、に至る寸前の空気がざわめく感覚を。

学校に戻り、 ほころび始めた桜の木の下に丸くなって座る。
春の日差しは暖かく、ひんやりしたまるごとバナナは火照った体に心地よく、感動的においしかった。後輩ができる不安と緊張と高揚感と相まって、間違いなく人生最良の思い出のひとつだ。

そもそも、バナナのポテンシャルが高すぎて、生クリームまで加わったら鬼に金棒、虎に翼。

天然のバナナホルダー（皮）がついており携帯に便利で、手で簡単に剥けてナイフいらず、そのまま食べられて非常においしい。
おまけに他の果物に比べて安価で、コンビニでも買えるという入手しやすさ。
おまけに熟れ具合によって自在に印象が変化する。

両端に青さの残る若いバナナは果肉が固く、サクッと前歯が割いていく感覚がよくわかる。
中心の種の名残はつるんとして、一口噛み切るとむっちりした質量が顎に伝わる。しっかりした果肉は 青さがあり爽やかな香りで、控えめな甘さの奥に未熟さゆえのえぐみ渋みを感じることもある。

皮目がまんべんなく黄色く染まり、ぽつぽつと茶色いシュガースポットが浮かぶ頃合いになれば、
果肉は歯をあてるだけでスク・・・ッと沈み、種の名残はねっとりからみつくような食感に変化する。香りと甘さと食べ応えを両立する、一番ファンの多いタイミング。

もはや真っ黒になるほど追熟させると、香りの強さは最高潮、でんぷんを糖に変えた果肉は崩れ落ちそうなほど柔らかく甘い。
中心はぬるりととろける蜜を蓄えている。味蕾にしみるような強い甘さはしばらくじいんと余韻を残す。

まるごとバナナに使われるのはおそらく両端まで黄色くなったくらい、シュガースポットが浮かぶより少し前だと踏んでいる。

愛してやまないまるごとバナナ。さらなるロングロングセラーを願って熱いラブレターをここに贈る。

追伸:わがままを申し上げますと、取扱い店舗を増やして欲しいです。行きつけのスーパー三軒に張り込む日々です。