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読書記録#1 ネットフリックスの人事戦略

これまで本を読んでも読みっぱなしだったので、少しずつ読んだ本の感想を書いていこうと思う。特に組織や人事に関する本を中心に記録予定。

早速、一番最近読んだ「ネットフリックスの人事戦略」から。急成長・急拡大したネットフリックスを支えた人事戦略について当時の人事責任者が書いた本。ネットフリックスと言えば文化や行動規範を定めたculture deckが有名だが、実際にそれを作った中の人の本ということで気になっていた。個人的に今回学びになったのは、事業の特性に応じたチームの考え方、報酬ベンチマークの考え方、従業員エンゲージメントの是非だった。


まずは本文のポイントまとめ

経営陣の仕事とは:

「まずは今日の人材管理の大前提に異議を唱えたい。すなわち、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、キャリアを伸ばし、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが、人材管理の仕事だとする考えである。そのすべてがまちがっている。そんなのものは経営陣の仕事でも何でもない。代わりに、ラディカルな提言をさせてほしい。ビジネスリ ーダ ーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチ ームをつくることである。それだけ。これが経営陣のやるべきことだ。」(本文より引用)

そのために何をするのか:

・すばやく最高の人材のみ採用して並外れて高い人材濃度を維持する。そのためにヘッドハンティング会社から人を採用して社内にリクルーティング専門部隊を組成。

・従業員にトップレベルの給与を支払う。優秀な人材が会社を辞めない限り自分の価値に見合った報酬を得られない制度は廃止。そして給与ベンチマーク水準に合わせるよりも候補者に期待できる実績、実現できる未来の価値を考え、それに対してどれくらいの金額を払えるかに集中。

・いつでも採用できる強力なパイプラインを持つ。熾烈な人材競争に勝つため、そしてスキルが合わなくなった人を進んで解雇できるようにするため。

・従業員に最大限の自由裁量を与えて最高の仕事をさせる。そのために経費規定の廃止、有給休暇の廃止、その他無駄なルールや手続きの廃止などを実施。

・適度な指導と適切なフィードバックでチームを正しい軌道に向かわせる。そのためにマネージャーはメンバーによりオープンで正直な姿勢を求め、自らもそれを実践する。

・事業や顧客について知る機会を提供する。著者はどんな能力開発研修より飲み会よりも有益だと明言。

・会社が必要とする職務に必要なスキルがなければ進んで解雇する。従業員が自分のスキルを未来に照らして評価し、自分がその未来の一翼を担いたいか自問自答する機会を提供する。会社側は従業員のスキルが見合わないと判断すれば解雇を選択し場合によっては他社に推薦する。

・ビジネスで使われる「エンゲ ージメント 」(愛着心からくる自発的な貢献意欲 )という用語は大嫌いな言葉。

学び①事業の特性に応じたチームの考え方


事業を成長させるために、事業フェーズに必要なスキルを持つ最高の人材を最速で集め、最大限成果を創出するための環境を作り、フェーズが変わって必要なスキルが変わったら円満な解雇を実施し人材を入れ替えるという戦略を徹底してきたネットフリックス。

本の中にも出てきたが、IT企業の優れた人事戦略として一番最初に名前が上がるのはグーグルだろう。グーグルも最高のチームを作っていることで有名だが、ネットフリックスとは思想を異にする。グーグルでは人材にアイディアをたくさん出してもらいその中から最高のアイディアをすくい取り、それをサービス化・事業化するという戦略をとっており、それに最適な、自由を求め発想力が豊かな人材を採用してチームを作っている。ネットフリックスではそういった人材は合わない。従業員が「AじゃなくてBの方法をやりたい」と言ってもネットフリックスがAだと言ったら従業員は自分の方向性を変えるか、辞めるしかないが、グーグルだったら「じゃあそっちもやってみたら」となる、ということだと思う。

プロダクトのブランド力が強かったり、創業者の意向が強く意思決定に反映されたりする企業はネットフリックスの戦略を応用できる可能性は高い。一方、例えばインターネットをベースに多種多様なサービスを生み出すことをモットーとしている企業にはグーグルの考え方の方が合うだろう。決して二極化するわけではなく、事業や企業の思想に応じてとる戦略が全く異なることを示すいい例だと思う。

学び②報酬ベンチマークの考え方

世の中には「このポジションはこのくらいの給与です」という報酬のベンチマークデータがある。ネットフリックスももちろん参考にはしているようだが、それでは最高の人材濃度は保てないとはっきり言っていた。それよりも候補者に期待できる実績、実現できる未来の価値を考えてそれにいくら払えるかに集中すると。確かに、報酬ベンチマークは外部競争力を保つために重要な指標ではあるが、あくまでも「過去の」「一般的な」ポジションのデータでしかない。未来に生み出す価値や、今まで存在し得なかった職務に関してはそのまま応用する方が乱暴に感じる。決して報酬ベンチマークが役に立たないという話ではなく、それで相応の水準を確認した後は、意思と覚悟を持ってこれからの未来をつくる人材へ払う金額を決める必要がある。なかなか難儀な経営の意思決定だが、それを強い決意で実行してきたのはただ企業に資金力があったからだけでなく、経営陣の並大抵ではない気持ちを感じる。

学び③「従業員エンゲージメント」の是非

本文中で印象的だったのは「エンゲージメントという言葉が大嫌いだ」という箇所。今まさに従業員エンゲージメントを高めましょうというのが日本企業でも大きなトレンドだが、この本ではその「エンゲージメント」を否定した。著者が嫌いな理由は、エンゲージメントと言いつつアメリカでは人事の仕事の半分は解雇だから、そしてやる気と業績には相関性がないから、だという。
日本では転職者の増加や働く価値観の変化をもとに企業と従業員の関係が見直され、今従業員エンゲージメントが脚光を浴びているが、すでに10年前から従業員エンゲージメントに取り組み、今では是非についての主張が表出するのは、米国では従業員エンゲージメントの事例が貯まり議論もされ続けていることの証左かと思う。議論と戦略が「従業員エンゲージメントの次」にいっているあたりがさすが日本よりHR戦略が進んでいる国だ。従業員エンゲージメントを高めることに異論を持っていなかった私にとって驚く視点であり、考えを深める新たな材料になってくれた。

最後に

今まで採用の大事さについて書かれた本はたくさんあったが、ここまで解雇の大事さを書いている本は少ないように思う。円満な解雇のコミュニケーション方法が書かれていて、これも勉強になるものだった。ただ、今回、取り立てて円満な解雇については学びとして章立てるほど抽出しなかったのは、日本の社員コミュニケーションにはなかなか応用が難しそうだからだ。詳述はしないが法規制とか慣習とか相まって日本では解雇はそう簡単にできるものではない。とはいえ、社員に対しては難しくても経営陣や役員などハイクラス人材との対話であれば状況に応じて活用できるだろうから、知っておくとひとつの引き出しにはなる。

総じて米国の最新人事戦略事例を学ぶにはいい内容だった。

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