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『ホピの予言』のDVDBOOK制作になぜ6年もかかったのか?

1986年の公開以来、グラスルーツで上映を続ける映画『ホピの予言』。この映画とブックレットとをセットにしたDVD BOOKが完成しました。
 

函の表面です
函にオリジナルケースに入ったDVDと
132ページのブックレットがセットになっています。


このプロジェクトに誘ってくれたのは、デザイン担当の野井俊良くんで、私が過去にマーブルブックスで北山耕平さん翻訳のネイティブ・アメリカンの言葉の本を編集していたことを知っていて、編集に誘ってくれたのだと思います。
 
プロジェクトに参加したのは2018年のこと。
 
じつに6年もの歳月がかかった理由は、思いのほか映像のクリーンナップ作業に野井くんの時間が取られたことも大きいけれど、ブックレットの編集作業について言えば、「学ぶことがたくさんあった」という一言に尽きます。
 

函のタイトルにUV盛りました❤️


アメリカ南西部のアリゾナ州に居住するホピ族はプライバシーを大切にする人々で、その暮らしぶりの記録は禁じられています。ですから、情報はあまり出てこないですし、情報の伝え方には細心の注意が必要でした。
 
さらに、そのホピの人たちの中でも、この映画に登場するのは、ホピ部族政府の方針に異を唱える、伝統を重んじる人々です。
 
ある意味、現代の「秘境」のようなホピ伝統派の人々と映画を通してつながってきたランド・アンド・ライフの30年以上に渡る活動がベースにあった上で今回のプロジェクトがありました。
 
ですから、私が途中から編集に加わった時点で、ニューズレターの過去記事や寄稿原稿など、本に収録する予定の原稿が全体の2/3くらいは集まっていました。
 

日本側の長老とも言える正木高志さんの原稿は、言葉の持つパンクな雰囲気を表すデザインに。


それなのに、すぐにデザイン入れできなかったのは、「何を編集の基準にすればよいのかがわからなかった」ということが言えます。
 
映画を制作した宮田雪監督は2011年に亡くなられていて、活動を引き継いだ現在の代表、辰巳玲子さんによって、『ホピの予言』の上映は続けられてきました。
 
ただ、どんな作品にも言えることだと思いますが、作品とは作者のもの。映画も監督のものです。
 
ですから、映画『ホピの予言』をしっかり遺していこうというこのプロジェクトでいちばん欠けていたのが、監督の視点でした。
 

宮田雪監督


ただ、そのことに気づいたのは、ずいぶん後のことでしたから、ブックレットを貫く柱みたいなものを見つけるまでに時間がかかったのです。
 
編集メンバーとの打ち合わせは、宮本常一の本に出てくるような村の寄り合いのようであり、何かとディティールの話に陥ることが多く、寄り合いであれば、長老が最終的にまとめるところを、監督不在によりその機能がない状態に。
 
私自身にこの映画と世界観を判断できるだけの材料がなく、過去掲載記事を扱うときにも、何を残し何を生かせばよいのかが分からず、紙をひとつ決めるにしても二転三転し、膨大な過去ログを検索するような時間がずいぶんありました。
 

メッセンジャー、トーマス・バンヤッケによる予言の岩絵(プロフェシーロック)の説明を巻頭に入れました。


そんな中で、2年くらい前に北山耕平さんをひとりで訪ねたことがありました。
 
北山さんは、過去の対談記事の再構成に悩む私に対し、「僕の持論なんかより(ホピの)メッセンジャーの言葉を伝えることが大事」と言いました。この言葉によって、何を指針にすればよいかが見えてきたのでした。
 
これにより、編集メンバーと話し合って長老たちの言葉のページや巻頭に地球誕生から始まる年表を設けることが決まりました。

とくに年表制作では、ホピを含む先住民の辿ってきた文明化の歴史やマンハッタン計画あたりから始まるウラン採掘問題、そことひもづく広島・長崎への原爆投下、そして現在における福島の原発問題を一気通関する経験となりました。
 
また、原発問題については、奇しくも別仕事で汚染水問題を特集し、放射能の健康への影響や国家の原発政策を理解したことで、ブックレット編集にフィードバックできたことが多く、巻頭に入れたナバホ居留地のウラン鉱山マップの作成にも熱がこもりました。
 
さらに「ホピの予言とは何か」という論考を辰巳玲子さんに書いてもらうことで、ホピ伝統派の系譜を入れることができたのもこの冊子に深みを与えました。
 

長老たちのメッセージを伝えるべく、当初予定していなかった言葉のページを設けました。
イラストは、ホピ居留地に近いフラッグスタッフ在住のなよごんさん。
46億年前の地球の誕生から始まる年表!


ホピとナバホの居留地があるフォーコーナーズの地理とウラン・石炭の鉱山の位置関係を整理しました。アメリカのすごいところは、エネルギー関係の鉱山やプラントをすべてオープンデータにしていること。こちらが参考になりました。
https://atlas.eia.gov/apps/5039a1a01ec34b6bbf0ab4fd57da5eb4/explore


今を生きるナバホ族のバヒさんのインタビュー。


北山耕平さんの訳したホピ平和宣言を収録!


おかげで、だいぶ情報量の多い誌面になりましたが、デザイナー野井くんのセンスによって、文字量が多いながら、ちゃんと読めるものになりました。
 
ひとつ良かったなと自信を持って言えることは、イラストをホピ居留地にも近いフラッグスタッフ在住のなよごんさんにお願いできたことでした。
 
イラストや写真は本の印象をつくります。
何が正解なのかわからない中で、ホピ・ナバホの世界観に通じたなよごんさんに書いてもらった絵が、この本の重要な支えになったと感じています。
 
また、巻頭グラビアに何の写真を入れるかを決めかねていたときに、一度みたスライド写真の山にもう一度向き合い、トウモロコシ畑にいるマーチンさんの写真を見つけられたことが自分にとって嬉しかったことです。
 
本の中で辰巳玲子さんが解説しているように、corn is life(トウモロコシは命そのもの)と言う言葉があるくらい、ホピにとってトウモロコシは象徴的な食べ物。そのことをよく表す写真でした。
 
また、グラビアのトップには、最初想定していなかったメッセンジャーのトーマス・バンヤッケと宮田監督のツーショット写真を入れることを提案することができました。
 
これは、この写真がカッコ良かったので使いたかったからなんですが、結果メッセンジャーを前面に出すことと、宮田監督へのリスペクトにつながりました。
 

トウモロコシを抱えるマーチンさん。
宮田監督とメッセンジャー、トーマス・バンヤッケとのツーショット写真。


そんなわけで、右往左往しながら6年目にして完成したDVD BOOK『ホピの予言』なのでした。
 
途中クラウドファンディングを実施し、多くの皆様に支援をいただいたこと、感謝しております。
 
この週末に群馬の辰巳さんの古民家で、支援していただいた方への発送作業を行いました。こたつに入っての袋詰め作業は家内制手工業のようで、けっこう楽しかったです。

家内制手工業!
PC作業ばかりなので、こういう手作業は楽しいなあ〜。


ただ、作業中にありえない箇所で誤字を発見し、冷や汗がどっと流れました。訂正シールを用意すべきか……。二刷りを目指すしかない心境です(直したいから)。
 
今後は、発刊イベントもやっていくと思います。
 
とりあげてくれるメディアも絶賛募集中です!


DVDBOOK『ホピの予言』はこちらから購入できます。
ISBNはつけていますが、一般書店には流通していないため、取り扱ってくれる書店があれば、嬉しい限りです。

ランド・アンド・ライフSHOPページ

https://landandlife.official.ec/items/84627035


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