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美しい偶然

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わたしが出会った映画・小説・音楽・アートなどなど…についての記録
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Ain’t Got No, I Got Life

細胞は生まれ変わる 夕方の私は、朝の私ではない 16 日、ついに71… 二十歳代の頃は60より先の世界を考えたことはなかった しかしすでに10年も過ぎている 「わたしという小説」はまだ終わらない …いやもう少し書き続けよう…笑 この頃はほぼ毎日の金縛りの朝… 数日前からわたしにとって大切な歌 ニーナ・シモンの「Ain’t Got No, I Got Life」が身体中を駆け巡る 待ち望んでいたドイツ映画『システムクラッシャー』が ようやく日本公開になる この曲はこの映画

Il portiere di notte

昨日とは打って変わってまっ白な大粒の雨 …… 春雷の雫 わたしは春先の雨の花の咲きこぼれている木の葉が好きだ 静かに、秘めやかに… それでもそこまでやって来た新たな息吹の煌めきに ときとして身も心奪われる 激しい風にガタガタする縁側のサッシを開け 指先を濡らす雫をちょっとだけ口に含む… この何かエロティックな感覚に わたしは『Il portiere di notte(愛の嵐)』の映像が蘇えった 20代始め、渡仏してまだ間もないわたしは モンパルナスの小さな映画館でその

I cheated myself

窓の外は眩しさに満ちている どうしよう わたしはまだ夢の味が忘れられない 10時36分 久しぶりの休日 もはやベットと化したソファから身を起こし 身支度する間のBGMをかける 1曲目はAMY WINEHOUSEの<🎵LOVE IS A LOSING GAME> BGMのつもりがしばし聴き入ってしまう 彼女の曲の時は大体そうなってしまう 今日も彼女はどこも変わりがなかった 聴こえてくるもの全てがからだに突き刺さる 感覚の何もかもが奇妙に壊れている 壊れるところが聴こえてく

ひとしずくのスペクトルム

見上げると丸い空だけが見えた わたしは嬰児籠の中で起き上がろうと手足をばたつかせた ようやく藁の淵を掴みよろよろと這い上がる 目の前に鏡のように白っぽく輝く田んぼが広がった 母の姿を探した 広がる水面に餌を探す動物のように腰を屈めた数人の中に 母の後ろ姿があった わたしは母を求め嬰児籠から這い出そうともがいた 突然からだは中に浮き草むらに落ち 土手を転がりながら田んぼに水音をたてた 気がつくと母はわたしの両足を持ちげ 逆さ吊りの泥だらけの背中をパンパンと叩いていた 私は泥水を

Le Ballon Rouge

水滴がしとしとと落ちつづけていると 曇った窓ガラスに、雪原を通る小路のようなものが見えてくる あまりにもしんとしているので 私は耳が聞こえなくなったのではないかと思った 昼過ぎ 私が此処で唯一楽しみにしている花野さんの随想の中  ---- そういう解決策が欲しいんじゃないんです。     『よしよし』って慰めてくれればそれでいいんです ---- わたしが長い間忘れていたその『よしよし』という言葉に ふと…大好きな映画の「赤い風船」のシーンが蘇った… わたしにとって少年と

あの匂い…まぎれもない匂い…

プランニング用の資料をまとめていると… 開け放った窓から冷たい雨音と湿った微かな匂いが忍び込んだ マウスから指を離し、心をしずめて嗅いでみた あの匂い…まぎれもない匂い… この上なく微妙で、こまやかな匂い… 随分前になるがテレビの中直木賞を受賞した又吉直樹さんが 「海外小説で好きな小説はなんですか?」 という問いに『香水』と応えたので ビックリして画面の又吉さんを見つめてしまった なぜならわたしが大好きな小説の一つなのだ 『香水~ある人殺しの物語(Das Parfum

気狂いピエロの決闘 -Balada triste de trompeta-

一つの愛を奪い合う、二人の壊れた道化 残酷なまでに美しく、幻想的なまでにグロテスクな戦い そこには狂気にまで人を追いやるほどの... 心が耐えきれないほどの激しい感情がぶつかりあった… 

私の中でかけがえのない映画の一つ 『気狂いピエロの決闘 -Balada triste de trompeta-』 「笑わせなければ愛されない」 偉大な道化師だった愛する父の姿を追い続け
 しかし「笑わせるには悲しみを知りすぎた」… 涙のメイクに孤独を隠す心優しい 泣き虫ピエロ… ハビエ

そのとき、彼女との距離は0.1ミリ-6時間後、彼女は別の男に恋をした

「そのとき、彼女との距離は0.5ミリ-57時間後、僕は彼女に恋をした」 なんて美しく素敵なフレーズとカットだ。 「そのとき、彼女との距離は0.5ミリ-57時間後、僕は彼女に恋をした」 警官223号は、雑踏の中で金髪のウイッグに真っ赤なフレームのサングラスの謎の女とすれちがう。 警官223号は振られた彼女が恋しくて恋しくてたまらない男だけにカッコよくない。 それでも…偶然すれ違った金髪の女を無視され続けても追いかけまわし 夜のバーで口説く… 刑事223号は小食店ミッドナイト

蜜のあわれ

『おじさま、人を好くということは愉しいことでございますという言葉は、とても派手だけれど、本物の美しさでうざうざしているわね。』 
「それ以上の言葉は先ずみつからないね、女の人の言葉としては正直すぎているくらいで、だれでもそうは書けないものがあるね、大胆な表現でしかも極めて普通なところがいいね、どんな人なの。」 
『おじさま、言ってごらん遊ばせ。』 
「いやだよ、いい歳をしてさ。」 
 『ね、一ぺんこっきりでいいから言って見て頂戴。男の人の口からそれを聞いてみたいんだもの、人を