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【オススメ小説16】清純派ストーカーラブコメ(?)『僕の小規模な奇跡』

 あなたのこと全く好きではないけど、付き合ってもいいわ

 その代わりに、わたしをちゃんと守ってね

 理想として、あなたが死んでもいいから

 こんにちは、名雪七湯です。15回目にもなるオススメ本紹介の今回は私が好きでたまらない入間人間さん著『僕の小規模な奇跡』を取り挙げます。

1、本情報、作者情報、あらすじ

 『僕の小規模な奇跡』入間人間著 2009KADOKAWA

 2009年に表紙が黒ひ〇危機〇髪スピンが4本という変てこ単行本として発刊され、2011年にメディアワークスより文庫化された今作。

 作者は2007年に『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』で作家デビュー、『電波女と青春男』がアニメ化、最近ではアニメ『安達としまむら』が注目を浴びた入間人間さんです。簡単に言えばぶっ壊れた作風が持ち味の彼。入間さんマニアをイルマニアと言うそうですが、私もその一人です。

 入間さんに関しては興味深い武勇伝も沢山ありますので、興味のある方はぜひ調べてみて下さい。やっぱり作家は変人だなー、と思えます。

 自分の過去作に興味がないという彼ですが、その中でもお気に入りらしい『僕の小規模な奇跡』のあらすじは以下になります。

 大学に入学した俺は彼女に一目惚れした。三白眼で黒髪ロング人見知り美女の彼女。告白し振られたが、OKされるまでストーカーを続けてみる。ストーカーを続けていると、「私を守って、ただし理想としてはあなたが死んでもいいから」という謎のOK(?)を貰う。前から別のストーカーに狙われている彼女と最近ストーカーになった俺のラブコメ(?)小説。

2、独特なキャラの掛け合い

 入間人間さんの作品の魅力は、思想がぶっ飛んだキャラにあります。

 今作は実はちょっと変てこな形式をしていて、

 序章に、死にかけの僕人妻で憧れの彼女二十年前の話

 から始まり、舞台が現代に戻って来て、

 大学生の黒髪美女の彼女ストーカーの俺、と
 靴屋のアルバイトの私(ストーカー俺の妹)とハンサム丸の話

 が交互に語られる、という形を取ります。

 主人公に計6人(その多モブキャラ多数)がいますが、全員変人です。

 特にツンデレ(?)彼女清純派ストーカー俺の掛け合いは最高です。入間さんの描くキャラは基本的に倫理観が終わっているので、「ストーカーから守ってあなたが死んだとしても」とストーカーに頼み込む彼女も、それを嬉々として受け入れ死ぬ気満々の俺も価値観が終わっています。

「……あなたって、ストーカー?」
「それは違うよ。だって俺、きみのこと全然知らないし」
「知らないのに好きとか言うのね、お花畑さん。桜はもう散ったのよ」
「何で好きになったか知りたいから、こうして声をかけているんだ」
(P73)

 この絶妙にずれた感覚の会話が癖になる一冊です。

3、僕の小規模な奇跡

 タイトルは某漫画家さんから許諾を得てパクっているのですが、

 コンセプトとしてのテーマはバタフライエフェクトです。

 入間さんはSFの世界観ミステリー要素サイコパスが大好きなのですが、今作は序章に本編と全く関係の無い20年前の僕と彼女の話が入っています。その20年前に起きたことが「今」に少しずつ影響を与える、という形式の元に成り立っています。ちなみにバタフライエフェクトについては『時間のおとしもの』という短編集でより言及されています。

 この「小規模な奇跡」という話は現実にも常に関わって来ます。

 例えば、ただの一般市民である私が自動販売機でお茶を1本買うか買わないかだけで、救われる命があるかもしれない。命が救われなかったとしても、ちょっと笑顔になる人が現れるかもしれない。そんな「小規模な奇跡」が世の中には溢れている、というテーマが今作には盛り込まれています。

4、最後に

 入間人間さんの作品はどれもインパクトが強く文章も癖がありますが、今作は入間さん入門として適切だと私は思います。若干長いですけど。入間さんの描くキャラクターは他の作品では体験できないので、癖になること間違いなしです。よいイルマニア人生をお送りください。

 最後までお付き合いありがとうございました。

 またどこかでお会いしましょう。


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