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ニキビとの戦いの記録

ここ半年ほどの私の生活であった大きな出来事といえば、人生で初めて美容皮膚科を受診したことだ。
美容皮膚科、自由診療の美容医療を受けることができる皮膚科。
自由診療のため治療に保険は効かないので費用はある程度高額になる。
多少お金をかけてでも美容医療を受けてみようも思い立ったのは、長年の悩みだったニキビとそろそろ完全に決別したいと思ったからだ。

私とニキビの付き合いは相当長く、辿っていけばなんと12歳の頃にまで遡る。
小学校卒業を控えて浮足立つまだまだ乳臭い田舎の芋い小学生だった私の肌に、本当に突然に、ぽつりと赤く腫れたニキビができた。
生まれて初めてできたニキビに困惑はしたが、暫くすれば治るだろう、と当時の私は気にもとめていなかった。
この小さな異変を始まりとして、肌の状態は年々悪化していく。

最も肌の状態が悪かったのは、中学3年生の頃だ。
この頃の私は同級生の男子生徒たちによるいじめで酷いストレスを抱えていて、その影響もあってかニキビは顔中に広がり、顔全体が赤く炎症を起こしているような状態だった。
皮膚科で保険適用の治療を行っていたが全くよくならない。
抗生剤の服用も塗り薬も、一切効果がない。皮膚科で処方してもらったニキビ肌用の石鹸で顔を洗っても顔はヒリヒリと痛み、ますますニキビは悪化していく。
ニキビが悪化するといじめも悪化し、気持ち悪い、汚い、近寄るな、と毎日のように言われ続け、思春期の自尊心は欠片も残さず削り取られてしまった。
唯一の救いは同級生の女子たちは誰一人そのいじめに加担せずにいてくれたことだ。
大人になった今ならそんなろくでもない場所はさっさと逃げ出してしまうところだが、当時の私は半ば意地になっているかのように休むことなく登校し続けた。
ストレスは増える一方でニキビは悪化の一途を辿り、最早正常な皮膚が見えないほどにニキビが顔全体を覆い尽くしているような状態だった。
いじめは中学校卒業まで続き、中学の卒業式では嬉しさのあまり涙を流した。
やっと終わる、やっと彼らと離れた場所に行ける、と式中そればかりを考えていた。
このいじめの後遺症で私は以降10年近く男性の目を見て話すことができなくなってしまい、仕事でも男性と話す際大変苦労した。
(今は失礼なことを言われたらきちんと男性の目を見て言い返すことができるようになった)

進学先の高校は男子生徒がいない環境、女子校だった。
この女子校という世界に私は大いに救われ、今の自分を形成する大きな要因の一つになったと思っているのだが、それについてはいずれ書くとして今回は割愛させていただく。
とにかく私はストレスから開放され、のびのびと高校生活を送ることができた。
ストレスが激減したためか、高校に進学してから悪化するばかりだったニキビは急激に減少に転じた。
ニキビが一向に改善しないため皮膚科への通院も怠っていた時期だったが、肌の状態は目に見えてよくなり、やがてファンデーションを塗ることができるまでに改善した。
初めてファンデーションを塗った時は感動した。
ニキビ跡も酷い顔の赤みも、ファンデーションが全て優しく覆い隠してくれる。
ファンデーションを塗った後の顔は別人のようだった。
化粧は救いなんだな、と鏡に映る自分を見てしみじみ思った。
中学生時代にすっかり擦り減らされてしまった自尊心と自己肯定感も、少しずつ取り戻していくのを感じた。
高校時代は私の外見を揶揄するような人も周りには存在しなかったというのも大きな要因かもしれない。
周囲の人間関係に恵まれたことにはとても感謝している。

こうして思春期ニキビとの壮絶な戦いは一旦終わりを迎えた……かのように思えたが、20代から今にいたるまで、今度は顎とフェイスラインの所謂大人ニキビに悩まされるようになる。
大人ニキビとの戦いは一進一退で、非常に肌の調子がよくニキビが一つもない時期も短いながらも存在するが、一定周期でまた大きなしこりのように芯があるニキビができてしまう。
丁寧にスキンケアをしようがビタミン剤を飲もうが野菜とタンパク質を豊富に食べて規則正しく生活をしようが適度な運動をしようが低用量ピルを服用しようが、ニキビはそれを嘲笑うがごとく現れる。
思春期のニキビと戦っていた時期もそうだが、そこらへんの美容家が言っているようなニキビを治す方法は全部実行し、その上で難治性のニキビは治らないのだ。
顔を洗っていないからニキビができるんだ、などというとんでもないことを言う人も未だに少なくない。
ニキビは皮膚科医もその原因の殆どが遺伝だと言っているのに、自己管理が甘いからだと言わんばかりの言説が巷にもTwitterにも溢れている。
ニキビという根治が難しい皮膚疾患を舐め腐った話だと思う。

アラサーになって以降は頬やTゾーンには大きなニキビができることはあまりなかったが、顎とフェイスラインには難治性のニキビが繰り返しでき、酷く化膿してしまうこともあった。
騙し騙し自分の肌と付き合ってきたが、いい加減、ニキビがない肌というものになってみたい、と思い始めた。
最早人生の半分以上をニキビと共に歩んできた。
別にニキビ跡もなく毛穴も一つもない陶器肌になりたいなどと考えているわけではく、自分の肌を見て、綺麗になったな、ニキビを乗り越えて頑張ってきたな、と思えるようになりたい。
幸い大人になった今なら、諭吉(栄一)の何枚ぐらいかはニキビ治療にあてることができる。
ネットで美容皮膚科について調べ、重症ニキビや難治性ニキビの治療に定評がある美容皮膚科を探し、とあるクリニックの情報に出会った。該当クリニックの医師によるニキビ治療についての文献も読み、誠実で正確な情報発信だと感じたためそちらを受診することに決めた。

初診の際には初めて訪れた美容皮膚科の雰囲気に圧倒され、待ち合い室で診察室に呼ばれるのを待ちながら冷や汗をかいたりしていたが、いざ医師と対面すると、不思議と落ち着いて治療の希望について話すことができた。
担当の医師は非常に丁寧に治療の選択肢とそれに伴う治療費についての説明をしてくれた。
治療方針はニキビの根治を目指すこと。
そして完全に新規のニキビができない状態になったら、長年のニキビの副産物で大きな悩みの一つだったニキビ跡の治療も行っていくことになった。
担当してくれた医師は、このくらいのニキビなら、治療で問題なく改善しますよ。肌も綺麗になると思います。と言ってくれたが、保険診療での治療が全く効果がなかった私は劇的な改善に対しては正直半信半疑だった。

医師と相談して決めた治療方法は、ホルモン治療とイソトレチノインでの治療を並行して行うというものだった。
ホルモン治療はニキビの原因となる男性ホルモン活性を抑える低予算ピルのヤスミンを服用するというもので、イソトレチノイン治療はアキュテインという皮脂を減らしてニキビの発生と悪化を防ぎ、肌のターンオーバーを促す薬を服用する治療だ。
イソトレチノインには催奇性という非常に重い副作用がある上、美容目的の治療という扱いになるため国内では認可されていないので薬代が高額になる。
私のニキビは難治性ではあったものの、化膿した患部が顔の全体に及ぶような重症ニキビではないのでホルモン治療だけでも治療は可能とのことだったが、再発の少なさを優先したかったのでイソトレチノインでの治療も並行する形となった(ホルモン治療はイソトレチノイン治療に比べリスクは低いが再発率が高い)。
重症ニキビではないためアキュテインの量は一番少ないものからスタートし、症状が改善しない場合増やしていく形となる。
催奇性の副作用のため、イソトレチノイン治療は一年以内に子供を考えている人は受けることができない。(服用中は勿論服用終了後6ヶ月避妊が必要で、治療は1クール6ヶ月程度、ニキビの症状の度合いによっては数クール治療を続けることになる)
また、催奇性以外にも肝炎や膵炎のリスク、精神面での副作用(鬱など)もあり、処方の際の血液検査は必須で、精神疾患がある人、一部アレルギーがある人なども服用することはできない。
イソトレチノイン治療のリスクは担当の医師から丁寧に説明してもらい、リスクに納得した上で治療に入ることとなった。
Twitterで美容アカウントがアキュテインを個人輸入して飲むことを勧めたりしているが、はっきり言って危険過ぎるので必ず医療機関で処方してもらうべきだと思う。

こうして処方されたヤスミンとアキュテインを服用する治療を開始して、もうすぐ半年になる。
ここからはこれまでの治療による肌の状態の経過について語っていきたい。

・服用開始して1ヶ月の状況
アキュテイン服用開始後しばらくはニキビの状態は一時的に悪化することがある、と医師から説明を受けていたが、説明の通り次々に新規の大きなニキビが現れ、一時的に治療前よりもニキビが悪化した状態になる。
肌に常に角栓が浮き出たような状態になり肌に触れるとポロポロと落ちるように(汚い)。
アキュテインの一般的な副作用である唇の乾燥の症状が激しい。

・服用開始して2ヶ月の状況
悪化していたニキビは沈静化してきたがまだまだ新規ニキビはできる。特に顎と顎の下から首にかけてのニキビは出現し続けている。
ただ大きなニキビができても化膿せず短期間で腫れが引いて小さくなっていくのを感じる。
小さなコメドはあまりできなくなってくる。
唇の乾燥はかなり酷い状況。常にガサガサでリップクリームもあまり効果がない。
顔の皮脂もかなり減っているのを感じる。
さらに頭皮の皮脂も減り、夕方になると髪がベタついていたのがなくなり快適に。

・服用開始して3ヶ月の状況
しぶとく残っていた顎ニキビが減ってきた。
しかし顎下と首は相変わらずニキビができる。
フェイスラインは殆どニキビができなくなってきた。
小さなコメドは見当たらなくなり、Tゾーンと頬の肌はかなり綺麗になってきた。
唇の乾燥は酷く、口角炎も発症し、口の端が切れて痛い。
肌の乾燥は若干感じるがそこまで酷くはない。

・服用開始して4ヶ月の状態
顎ニキビができなくなった。
常にニキビの前段階のようなしこりがありボコボコとしていた顎の皮膚が滑らかになったように感じる。
しつこく繰り返していた顎下と首のニキビがようやく沈静化してきた。
フェイスラインにニキビができなくなった。
口角炎は軟膏を塗って対処していたが今度は反対側の唇が切れる。

・服用開始して5ヶ月〜現在の状態
ニキビができない期間が続いている。
時折小さなニキビができてもすぐ治るようになった。
大きなニキビはどこの部位にもできなくなった。
最後まで残っていた首と顎下のニキビも消え、新規ニキビはできていない。

大体このような経緯を辿ってニキビの症状は改善していった。
今は新規ニキビはほぼできない状態が続いている。
このままニキビができない状態なら、アキュテイン服用の治療は終えて今度はレーザー治療などで赤みやニキビ跡の治療をしていく予定だが、正直ニキビ跡の色素沈着や肌の凹凸、赤みが残っていても、ニキビができなくなっただけでもかなり満足している。
本当に久しぶりのニキビができない肌。
肌を触ってみても、常に触れていたニキビの芯のしこりもなく、滑らかな手触りになった。
鏡を見るのも億劫でなくなり、自分でも信じられないほど、かつてなく肌が健康な状態だ。
治療前は常に肌の下にニキビの爆弾を抱えているような感覚だったのだが、治療を継続するごとに毛穴の詰まりも炎症も起きにくくなり、これが正常な肌のターンオーバーなのか、と実感することができた。
迷ったが自由診療の治療を受けてよかったと心から思っている。

ちなみに一月でかかった治療費は大体2万円程度だ。
薬代と薬を処方する際の血液検査と尿検査の代金が含まれている。
私が治療を受けたクリニックでは、アキュテイン処方の際の毎月の検査は必須だった。
私はイソトレチノインの量を増やすことなく治療の効果が出たが、もし治療の効果が出にくい場合、段階的に量を増やしていくためさらに薬の金額は上がっていく形になる。
その上治療期間は長いと半年や年単位に及ぶため、長期にわたって高額な治療費がかかってしまう可能性がある。
私は保険適用の治療で効果を得られなかったため自由診療の治療を選んだが、圧倒的に治療費の金額に差があるためまずは保険診療の治療を受け、効果を感じられない場合自由診療での治療を選択肢に入れるの形がいいのかなと考える。
こんなに効果があるのなら、もっと早く自由診療の治療を受けたかったと思ったが、美容医療にお金を出せるようになったのは大人になってこの年齢になってからなので、ニキビとの付き合いが長くなってしまったのは仕方がないことだったと受け入れている。

今ニキビやニキビ跡で悩んでいる方は、肌が綺麗な人と自分の肌を比べて落ち込むことも多いかと思うが、無責任な美容家やインフルエンサーの言うニキビができるのは自己管理やスキンケアが悪いせい、というような科学的根拠のない言説は気にせず、信頼できる皮膚科医の言葉に耳を傾けるようにしてほしい。
肌が強い人はどんな生活をしていてもニキビが一つもない肌を維持できたりするし、ニキビができやすい人はどんなに気をつけていてもニキビができてしまうものだ。

アキュテイン休薬後にニキビが再発する可能性もあるので、これからのニキビ治療がどう進んでいくのかはまだ分からないが、一旦はニキビとの戦いは一区切りついたと考え、noteに記録した。
本当は肌の状態を写真で記録して載せるべきだったと思うのだが、ニキビができている状態の肌を撮影するのは非常にストレスを感じる行為のため文書のみでの記録となった。

長らく私の肌に居座り続け、人生の様々な局面で悩まされ続けたニキビだったが、このままニキビとの縁が切れることを切に願う。

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