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「グレッグ・ポポビッチ無能論」

サンアントニオ・スパーズの2020-2021シーズンが終了した。
シーズン順位は10位。プレーイントーナメントのグリズリーズ戦を最後に彼らの戦いは終わった。
今シーズン、NBAは特異な状況で開始され、スパーズは途中、何試合も延期があったりでかなり過密なスケジュールでのシーズンになったが、全てのチームが似たり寄ったりの状況であった事を考えると、それを成績不振の要因にしてはいけないだろう。

僕はNBA観戦の「素人」を自認しているが、今シーズンのスパーズの試合を観てきて色々と思う事はある。
これから書く事は、玄人には言いたくても言えない性質のものかも知れず、だからこそ素人である自分が思い切ってここにその考えを開陳してみようと思うのである。

単刀直入に言うと、表題の通り「グレッグ・ポポビッチ無能論」である。あるいはスパーズ首脳陣、経営陣の無能と言ってもいい。
サンアントニオ・スパーズを常勝軍団に築き上げた張本人を相手に「無能」とまで言うのはあまりにも暴論であるのは百も承知である。僕自身、そんな事はあって欲しくない、と強く願うスパーズファンの1人である。そしてこれまでの彼の功績を全て無に帰そうと言うのではない。史上最高のヘッドコーチという評価には疑いを抱いてはいない。だが、今シーズンのスパーズにはどうしても「無能」と考えざるを得ないものが多分にあったと言いたいのである。

よく言われる、今季のロスターの若返りが不調の原因とは考えていない。若い選手は経験が乏しく攻守においてムラが出やすいのは確かだが、それがチーム全体の成績を下げさせた、とするのは余りにも若手に対して厳し過ぎないだろうか。若手に責任を負わせるのはチームの将来にとって何一つ良い事は無い。しかも若手と言ってもスパーズのスターティングラインナップにルーキーは入っておらず、2年目のケルドン、3年目のロニーウォーカー、4、5年目のホワイトとマレーは若いがプレイオフの経験もある選手である。ルーキーのヴァッセルがベンチからプレイタイムを得てはいるが、試合の重要局面ではほとんど使われていない。そして上記の若手達はいずれも素晴らしい才能を持つ選手であるのはスパーズファンなら知っている。そしてチームリーダーのデローザンは言うに及ばず。デローザンと共に移籍して来た5年目のポートルはスターターに定着し、今季はディフェンスだけでなくオフェンスでも貢献出来る選手に成長している。
そして今季の前半まではオルドリッジも居て、控えにはルディ、パティ、プレイタイムが大きく減ったライルズ。さらにオルドリッジ不在時に2ndオプションビッグマンとなったユーバンクス。その他の超有望な若手達は割愛する。
このチームなら…と思うのはスパーズ贔屓が過ぎるのだろうか。

思い出して欲しい。昨シーズンのマイアミ・ヒートを。ヒーロー、ナン、というルーキー2人に2年目のダンカンロビンソン、さらにはバムでさえ3年目の若手だった。その彼らが躍動して見事にファイナルまで勝ち進んでいるではないか。ヒートの躍進は誰もが驚いた結果ではあったが、ヒートに出来てスパーズに出来ないという事は無いだろう。今季のニックスの一例を見ても同じことが言える。チームカルチャーは異なるかも知れないが、スパーズの首脳陣の優秀さは誰もが認める所だ。
それなのに何故?
僕の中で、昨シーズンから少しずつ兆していた疑念が、今シーズン終盤の不甲斐ない体たらくを観て一気に大きくなった。

マイアミ・ヒート戦 2021/4/22

そしてボストン・セルティックス戦 2021/5/1

この2試合の無様な敗戦が、コーチ陣の無能を端的に表していると思うのは間違っているだろうか。

セルツ戦に関しては選手個々のミスが目立った試合ではあるが、僕は選手を責めるつもりは全く無い。選手達は皆一様に頑張っている。もちろんミスをした選手にも責任の一端はあるが、あの状況を正すべき立場にあるのはまず客観的に観られるコーチ陣だ。もちろん実際には修正しようとしてもどうにもならなかったほどに悪い状況だったのかも知れない。何とかしようと手は打っていたのかも知れない。だが、それにしてもである。

これはシーズン全体を通して言える事であるが、オフェンスがあまりにも無策過ぎやしないか。デローザン、マレー、ケルドンのスターター3人が揃ってドライブからのリングアタックを好むプレイスタイルなのは分かるが、馬鹿の一つ覚えでドライブとキックアウトを繰り返すだけのオフェンスに相手チームが対応するのは容易く、ペイントエリアを固めて守ればスパーズの主攻は抑えられると考えるのは至極当然の事である。シーズン後半に失速したのもこのオフェンスの単調さが主な原因ではないだろうか。3ptシューターの不在がその単調なオフェンスに拍車をかけたのだが、ミドルレンジやペイントエリアで勝負をするなら、何故その為のセットオフェンスをもっと組まなかったのか。
ヒート戦における2-3ゾーンに対するオフェンスも何一つ手の込んだ攻略が行われなかった。タイムアウトを取った直後ですらである。
そして試合時間残り4分余りで全員交代させるのは選手達が悪かったような印象を与える効果しか無かったように感じるのだが、僕の思い過ごしだろうか。ただ、諦めただけだとしても、「諦める」ほどの「何か」をしたか?

ヒートにしてもセルティックスにしても、今季は前評判ほどの結果は残せていないチームであり、セルツに至ってはプレイイントーナメントで7、8位枠を争う立場になってしまうほどに、言うなれば「不調」なチームだった。つまりボロ負けを喫するような相手では無かったはずなのである。セルツ戦はオーバータイムに突入し得点的には接戦と言えるが、その内実はボロ負けである。

そのセルティックス戦のOT終盤のサイドセットオフェンス失敗後のタイムアウト中、ポポビッチが作戦を説明している最中に、どこか不貞腐れたような、不服そうなルディの姿が見られ、直後にポポビッチに何か意見を言っているルディが映し出されるのだが、このやり取りに何か良くない雰囲気を感じたのは僕だけだろうか。


実は、2021/3/2のネッツ戦においてもポポビッチはマレーと言い争いをしているのだが、この時はマレーが完全に感情的になっており、デローザンがマレーを横で宥め抑えながらの口論になっていたのである。

そういう口論は当然どこのチームでもどんな名コーチでも起こりうるものではあるが、スパーズにおいて、それもポポビッチとマレーという、良好な師弟関係を築いていると思われた2人がそこまで感情を露わに口論をしたというのが思いがけない事であり、そこに何か不協和音が鳴っているのを感じるのである。
もちろん、この2人だけの個人的な問題である可能性も否定出来ないが、試合中、それも競った局面での微妙な意見の食い違いが、たまたま大きくなったにしても、やはりそこには異常なものがある。もちろん、その後の2人の関係は修復したようには見える。しかし、それが非常に珍しい事だったのは間違いないのである。

そもそもNBAに関わる者で、ポポビッチに何か批判的な意見をする事が出来る者がいるだろうか。
上記の件は選手との意見の衝突という、その珍しい例として挙げられると思うのだが、我々NBAファンや解説者や評論家達にとって「グレッグ・ポポビッチ」という存在が半ば神格化されてはいないだろうか。
彼のやる事だから何か意味があるに違いない、我々の及ばない所で深く考えているに違いない、彼のする事に間違いはないのだ、と。僕らは知らず知らずの内に彼が正しい事を前提に考えてはいないだろうか。
だが、どんな人間も間違いを犯すし、衰えもする。その陰りがマレーとの口論に発展したと考えられはしないか。若い選手達や、若いアシスタントコーチ達が、マレーのようにポポビッチに向かって思いっきり意見をぶつけて、口論に発展させる程の強い意志を持っていればいいが、恐らくそんな強さを持つ者は数少ないだろう。常勝軍団スパーズを築いた歴代最高の指揮官とされるポポビッチはNBAの中の最高の権威である。その権威を批判する事が、NBAに携わる者としてどれほど勇気のいる事かは分からない。或いはアメリカという自由の国は日本とは違うのだ、誰でも堂々と意見できるに違いない、というかも知れない。だが、僕は疑っている。
ポポビッチ以外は皆若いチームという今の状況に強い危惧を抱いている。

さて、以上見てきた事は、見ようによっては素人が考えた乏しい論拠ではあるが、特にヒート戦とセルツ戦を考えると、チーム内の見えない所に、微かに不協和音が鳴り始めているのを感じないだろうか。

スパーズのやる事には、経営陣とポポビッチの深い考えがきっとあるに違いない。そう思うファンは多い筈だが、本当にそこに素人が窺い知ることのできない戦略的な意図があるのだろうか。プレイオフを逃す事にどんな戦略的な意図が隠されているというのか。わざと負けていたとは思わない。あくまでも実力の差だというのも、渋々ではあるが頷ける。しかしオフェンスの単調さだけはどう論っても繕えない。

単調な攻めしか出来ない選手しか居ない?
そもそもそんな選手をスパーズがドラフトする訳がない。

今オフFAになるデローザンの移籍をスムーズに進めたい為のスタッツ上げ?(価値を上げる)
そんな事をあのスパーズがする?

今オフのドラフトでどうしても欲しい選手が居るために分からないようにタンク(順位を落とす為にわざと負けるようにする事)している?

いずれにしろ、およそスパーズがやりそうもない事である。
素人考えでは今季の状況を取り繕うのはこの程度しか出来ない。

さて、スパーズは、一体、何がしたいというのか?

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