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「DAWが使えるバンドマン」の定義

「現代のバンドマンはDAWが使えるべき」というのは個人的な持論ですが、

  • 何をもって「DAWを使えている」と判断すべきか?

  • DAWで何をできるようになるべきか?

というのをレベル(難易度別)で定義(※)し、バンドマンがどのレベルであるべきか決めようと思います。

※飛び級できなくはないですが、お勧めはしません。1から順に知識や設備を積み上げていくほうがよいと思います。

細かい用語やどうすればそのレベルをマスターできるかなどの解説は一切しませんので、各自で調べてください。

レベル1 : 自由度の高い有料版相当のDAWが使える環境を用意する

まずは環境がなければ話になりません。ある程度のスペック(※1)を備えたPCとソフトウェア(※2)を用意しましょう。

※1
OS : WindowsかMac OSが無難
CPU : Intel Core i5以上 または Apple M1以上
RAM : 16GB以上 , M1 Macなら8GB以上のユニファイドメモリ
GPU : オンボードでOK , 拘ってもあまり意味がない
画面 : 理想は2枚以上

iPadやiPhoneで頑張る人もいなくはないですが、全て自分でやる場合を除いてその環境は好ましくありません。

※2
Studio One : Artist以上
Cubase : Artist以上
Logic Pro (GarageBandは微妙)
Ableton Live : Standard以上

・トラック数無制限
・外部プラグイン読み込み可
・48kHz / 24bitでのレコーディングや書き出しができる
概ねこのあたりの機能が揃っているDAWであれば何でもいい
何を言っているかわからなくても、機能として備わっていることが確認できればOK

レベル2 : メンバー間でアイデアの共有ができる

人によって2-1と2-2のどちらを習得すべきかは異なりますが、ここまでできるとバンド内でのコライト(※)が可能になります。

※Co-Write 「共同作曲」というような意味です

2-1と2-2の共通事項として、データのエクスポートとインポートができることも含みます。

レベル2-1 : 適切なオーディオインターフェースを用意し、最低限の録音ができる

レベル2-1は、ギターやベース、ボーカル、ハードウェアシンセなど、主に宅録でアイデアを残すタイプの楽器で製作されている方向けのレベルです。

そこそこのオーディオインターフェースが用意できていれば、あとは知識を習得するだけで提出音源のレコーディング(レベル5-1)までできます。

レベル2-1をマスターするためには、作成したWAVデータのエクスポートまでできるようになる必要があります。

レベル2-2 : midiで最低限の打ち込みができる

レベル2-2は、頻繁にレコーディングするわけにいかないドラム、ソフトウェアシンセ、所有できないようなオーケストラなど、midiで内蔵音源を制御する必要がある方向けのレベルです。

DAW内蔵音源があればそれで構いませんが、有料の高品質な音源が用意できていれば、あとは知識を習得するだけで提出音源の打ち込み(レベル5-3)までできます。

レベル2-2をマスターするためには、WAVデータとmidiデータのエクスポートまでできるようになる必要があります。

レベル3 : サンプリングレートとビット深度を理解できる

急にレベルが上がったと思うかもしれませんが、バンド外の人間とオーディオデータをやりとりする場合、この概念を必ず理解してください

画像でいうところの画素数やカラーモード(RGBとかCMYK)、映像でいうところのフレームレートとか、そういうものです。
拡張子が合っていれば何でもいいというわけではありません。

また、各自のDAWでこのあたりを設定する方法も一緒に学んでください。
なぜ48kHz/24bitが要求されているかまで理解できれば完璧です。

バンド内で誰か一人が理解できていれば、全員が理解する必要はないです。

レベル4 : レコーディングのためのデモ音源が作成できる

レコーディング本番を迎えるためには、BPMなどが確定したデモ音源を用意する必要があります。

メンバーが作成したアレンジ音源を取り込み、クリックやガイドメロなども入れてレコーディングができるようなデモが作成できればレベル4をマスターしたといえるでしょう。

このデモの目的はメンバー全員がレコーディングできる状態にすることなので(外に出す音源ではないので)、ラフミックスまでする必要はないと思います。
メンバー内の1人がレベル4に達していればその人が作成したデモを使えばいいので、最低でも1人がレベル4以上である必要があります。

レベル5 : バンド内でエンジニアとやりとりしてくれる人(レベル6の人)のために適切なデータを用意できる

レベル2と3を満たすことができた方は、あと少し頑張ったらエンジニアとやりとりしてくれる人のためにデータを用意することが可能になります。

レベル5からレベル7 , レベル10以降は、自分が作成したデータが世に公開されます。
適切なデータかどうかを判断し、再提出を食らわないようなデータが用意できればレベル5をマスターしたといえるでしょう。

レベル5-1から5-3は難易度別というよりはパート別での設定ですが、5-3はダントツで難しいと思います。

レベル5-1 : ゲイン調整、ノイズのケアまで考慮したレコーディングができる(ボーカル , アコースティック楽器)

サンプリングレートとビット深度を適切に設定したDAWプロジェクトを用意し、オーディオインターフェースのゲインつまみを適切な位置まで回します。

ある程度高品質なマイクやポップガード、リフレクションフィルターなどを用意し、スタジオで問題なくレコーディングできればレベル5-1達成です。

レベル5-2 : ゲイン調整、ノイズのケア、音作りをした上でレコーディングができる(エレキギター、エレキベース、シンセサイザーなど電気信号を出力する楽器)

サンプリングレートとビット深度を適切に設定したDAWプロジェクトを用意し、オーディオインターフェースのゲインつまみを適切な位置まで回します。

アンプシミュレータや実機アンプ、エフェクターなどを駆使し、自分の理想の音を録音できればレベル5-2達成です。

レベル5-3 : 高品質な音源を使用し、ベタ打ちではない打ち込みができる(打ち込みでしか用意できない楽器)

サンプリングレートとビット深度を適切に設定したDAWプロジェクトを用意します。

DAW付属からある程度アップグレードした、好みや音質が反映された高品質な音源を使用し、ベロシティやタイミングやアーティキュレーションを考慮した打ち込みができればレベル5-3達成です。

レベル6 : エンジニアに提出するデータを用意できる

レベル5を満たしているメンバーが提出したデータを取りまとめて整理し、エンジニアに提出するためのパラデータが問題なく作成できればレベル6をマスターしたといえるでしょう。

アレンジやレコーディングにミックスエンジニアを介入させたくない場合、メンバーのうち最低1人はレベル6まで達している必要があります(※)。

※もしレベル6まで達しているメンバーがいない場合、レコーディングの前段階からエンジニアを介入させるべきだと思います。
無尽蔵の予算があってレコーディングも全てエンジニアに任せられる場合は別ですが、ミックスエンジニアはレコーディングの知識もある程度あるので、ミックスを依頼する予定の人に予め声をかけておいた方がよいと思います。

DAWのフェーダーやパン振り、モノラルやステレオ、頭出しの概念を理解した上でエクスポート(パラアウト)ができるまでがレベル6です。
複数のテイクを切り貼りする作業も必要です。
データの階層やファイル名まで気を遣うことができれば完璧です。

レベル7 : エディットができる

レベル7以降はエンジニアに任せてもいいような作業なので、無理して習得する必要はありません。(当然追加料金は発生しますが)

この手の定番ソフトであるMelodyneを使ったり、DAWに搭載された機能を使ったりして、録音後の波形のピッチやタイミングを修正します。

修正もメンバーの意向が色濃く反映されるので、無理にとは言いませんができるに越したことはありません。特にボーカリストはピッチ修正まで自分でできることが望ましいです。

レベル8 : 最低限のラフミックスがされたデモが作れる

レベル8以上は、いわゆる「ミックス」の段階に入ります。

ミックスの基礎は、ボリュームとパンの調節なので、これができればレベル8をマスターしたといえるでしょう。

特に外部プラグインは必要ありませんので、フェーダーやパンをいじって簡単なデモを作ってみてください。
外部プラグインを使うとしたら、iZotopeのNeutronがおすすめです。ボタン一発で80点くらいにしてくれるので、あと20点分の好みを反映させればラフミックスデモの完成です。
このデモの目的は、バンドの気持ち(※)をエンジニアに伝えることです。

※例えば、「ここのギターはリードっぽいメロディを弾いているけどギターソロみたいに大きくなくていい」とか。

とはいえバンドの気持ちはテキストや口頭で伝えることもできますので、レベル8に達したメンバーがいなくても、コミュニケーションさえ取れれば特に問題はありません。

レベル9 : エフェクトを考慮したラフミックスができる

ボリュームとパンの調節ができたら、次に取り組むべきはEQとコンプ…と言いたいところですが、エンジニアに渡すデモを作成する場合はリバーブやディレイ、ディストーションの方が大切です。

バンドがエンジニアにデモを渡す最大の目的は意図を伝えることなので、EQやコンプを地道にかけることよりも、一聴してわかりやすいエフェクトがそこそこ使えることの方が大切です。ここまでできればレベル9をマスターしたといえるでしょう。

このデモが作成できれば、「2:31~ リードギターに深めのリバーブ」などの指示をする必要がなくなります。

レベル10以上 : 世に出る前提のミックスができる

レベル10以上の人は「世に出る前提のクオリティで行われるミックス」ができる人です。レーベルに提出するようなクオリティを求められるデモもレベル10以上の人が作るべきだと思います。

様々なプラットフォームでの配信用音源、CD音源、ライブでの同期音源などを作成できる人はレベル10かそれ以上といっていいでしょう。

また、この段階からマスタリング(厳密にはプリマスタリング)の工程も必要になってきます。つまり音圧上げです。

逆に言うと、レベル9までの人が作成するような「DAWに取り込む前提のデータ」は無暗に音圧を上げるべきではありません。これは結構わかってない人が多いので注意。

レベル10以上の人がメンバーにいて、その人が能力を十分発揮してくれる場合、外のエンジニアに仕事を頼む必要はないと思います。
つまりミックスエンジニアを自称している人は全員レベル10以上(※)のはずです。

※私は5-3以外をマスターしているつもりです。

バンドマンはどのレベルであるべきか

理想

  • 1人がレベル9

  • 打ち込みをしない人はレベル7

  • 打ち込みをする人はレベル6

ここまでくれば、エンジニアを入れた制作で困ることはまずありません。

とはいえこれは理想ですし、バンドマンがちまちまパソコンいじってられるかという声も理解できます。

現実

  • 1人がレベル6

  • それ以外のメンバーはレベル2

これは、レベル6の人がレコーディング現場に立ち会ったり打ち込みをしたりすれば、ほとんど全てのミックスエンジニアに仕事を投げることができる最低ラインです。

ミックスエンジニアはほとんどの場合ピッチ修正もできますので、レベル6の人がめちゃくちゃ頑張ればエンジニアに渡す手前のデータを用意することはできます。

マジでガチの最低ライン

  • 全員レベル2

マジでガチの最低ラインは全員レベル2です。

とりあえず作曲やアレンジまでは自分たちでやって、レコーディングから先は全て外のエンジニアに任せるということであれば、全員がレベル2でも制作はできます。

が、最低1人がレベル6まで上がるだけでかなり制作の自由度が上がるので、メインで作曲を担当しているメンバーはレベル6まで上がる代わりにそれ以外の仕事(※)を全てほかのメンバーに振るとよいと思います。

※アートワークなどビジュアル面のデザイン、グッズ制作、関係各所との連絡窓口、SNS運営、スケジュール、財布役、運転、など。

結論

「DAWが使える」と言っても、いろいろなレベルがあります。
私は、「DAWが使えるバンドマン」はレベル5以上の人だと思っています。
その上で、バンド内のDAW担当がレベル6以上であるべきです。

レベル6以下と7以上では、完全に分業することができます。
つまり、6以下のバンドマンが7以上のエンジニアにデータを丸投げするだけでも、作品を完成させることは不可能ではありません。
ただ、バンドメンバーの何人かがレベル5である場合、それぞれのメンバーから個別でエンジニアにデータを送っても絶対に問題が発生します。なのでレベル5の人たちがいる場合、彼らを取りまとめるレベル6の人はメンバー内に必要です。

バンドメンバー募集の条件に「DAWが使えること」と書く場合、この記事で言うとどのレベルなのか伝えると認識の相違が最小限で済むと思うので、どんどん共有してください。

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