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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第164回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の二~三
 
子張十九の二
 
『子張曰、執徳不弘、信道不篤、焉能為有、焉能為亡。』
 
子張曰く、徳を守っても、度量がせまく、道を信じても篤実でなければ、いったい道徳はあるのか、ないのか。
 
(現代中国的解釈)
 
半導体やEV車には、多額の補助金が注ぎこまれた。半導体業界は、米国の制裁により、その効果は限定的だが、EV車は、今や世界市場の6割を占める。次のターゲットは何か。宇宙産業もその1つのようだ。この道を信じて、篤実に進めることができるのだろうか。
 
(サブストーリー)
 
垣信衛星というベンチャーが、今年最大のシリーズA融資、67億元を獲得した。投資方は、国有系ファンドが勢ぞろいし、"共同購入"のようになっている。その垣信衛星とは、いかなる企業なのか。
 
垣信衛星は2018年設立。発起人は、上海聯合投資と上海信息投資というやはり国有系ファンドである。世界ではSpaceX がスターリンクプロジェクトで、民間の衛星インターネット市場をリードしている。イーロン・マスク氏の最終計画では、4万2000基からなる衛星チェーンを構築し、全地球規模の通信網を構築する。これらは、地上通信システムを効果的に補完し、衛星インターネットのアプリケーション市場を開くなど、ビジネス上の巨大な可能性を秘めている。
 
中国も負けじと独自のスターリンクプロジェクトを立ち上げた。具体的には「G60スターリンク」と呼ぶ、新たな衛星打ち上げ計画がスタートした。同計画のサプライチェーンには、衛星の設計、製造、打ち上げ、運用、保守、応用などをカバーする多くの企業が関与する。垣信衛星はその重要な参加者の1つである。
 
G60スターリンクは2024年に、最初の衛星バッチの一括打ち上げを開始する。2027年までに1つのロケット、18の衛星を用い、2025年までの前期に648基の子機、2027年までの後期にももう648基を運用する。スターリンクは2019年から2024年1月までに、5739基を運用しているので、ずいぶん見劣りする。しかし、米国の民間企業に対し、国家隊を挙げて、挑もうとしている。カリスマ経営者と国家官僚の争いだがとも言えるが、道を信じて、進めていこうとしているのは間違いない。
 
子張十九の三
 
『子夏の門人間交於子張。子張曰。子夏云何。対曰、子夏曰、可者与之、其不可者拒之。子張曰、異乎吾所聞。君子尊賢而容衆、嘉善而矜不能。我之大賢与、於人何所不容。我之不賢与。人将拒我。如之何其拒人也。』
 
子夏の門人が人との交流について子張に質問した。子張曰く、「子夏はなんと言った?」門人答え、「子夏は、善人と仲間になり、善くない人は拒絶せよ、と言いました。」子張曰く、
「私が(孔子から)聞いた内容とは違う。君子は賢人を尊敬し、大衆を受け入れ、善き友を褒め、善行しない者を憐れむ。自分が大賢人なら、どんな人も受容できるだろう。自分が大賢人でなければ、他人がこちらを拒絶する。どうして他人を拒絶しよう。」
 
(現代中国的解釈)
 
激変する自動車市場にあって、ファーウェイの存在感は高まっている。1月の新エネルギー車販売には、その象徴的な出来事があった。中国ではEV車製造のため、新しく立ち上げた企業を、旧来自動車メーカーと区別して、"造車新勢力"と呼ぶ。その中でファーウェイ系企業が、始めてトップに立った。賽力斯汽車といい、ブランド名を、AITO問界という。その問界は1月に3万2973台を売上げ、理想汽車の3万1165台をわずかに上回った。しかし、その反作用は大きく、他の自動車メーカーから拒絶されつつある。
 
(サブストーリー)
 
そのファーウェイは造車(自動車生産)はしない、サプライヤーに徹し、目指すのは中国のBOSHという方針を示し、自動車業界へ3つのモデルを提示した。
 
1、Huawayサプライヤーモデル…ソフト、ハードのいずれかを供給。
2、Huaway インサイドモデル…自動車メーカーと互いの資源を融合し、共同開発。
3、Huaway 鴻蒙モデル(スマートモデル)…ファーウェイが共同参与する。EV化、スマート化専用プラットフォームを利用。
 
賽力斯は、3に当たるが、技術や人材面からどう見ても、ファーウェイと一体化している。そのため、技術協力関係にあるとはいえ、賽力斯の躍進に、自動車メーカーは内心穏やかではない。
 
たとえば国有の雄、18年連続売上高1位の上海汽車である。2021年6月、有名な魂論を発表した。上海汽車は、自動運転において、ファーウェイのような第三者企業との協力はできない。これからの自動車メーカーにとって、自動運転ソリューションは"魂"だ。そしてこれまでの上海汽車は肉体である。上海汽車は、その魂も肉体も自らの手中に収めたいと考えている。
 
北京汽車は、1のモデルで提携、極狐というモデルを発表したが、販売不振に終わった。3のモデルの賽力斯も5年で150億元もの損失を被った。
 
長安汽車と奇瑞もこうした事態に激しく反発した。長安は、ファーウェイのマーケティングは誇張されすぎている。1~3のモデルは、業界規範、産業政策と矛盾しており、パートナー間の無計画な役割分担は、ユーザーの利益を損なう、と批判した。奇瑞は、智界S7という車で協力したが、ファーウェイは必要なソフトウェアを期限内に供給できなかった。そのうえ、他社へ転用したとの疑惑もある。
 
ファーウェイが横暴なのか、自動車メーカーが追いつけないのか。いずれにしろファーウェイは、技術力と資本から、自動運転ソリューションで、重要な役割を果たすことは明らかだ。綱引きが続いているのは、彼らを拒絶することができないからこそである。

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