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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第165回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子張十九の四~五
 
子張十九の四
 
『子夏曰、難小道、」必有可観者焉。致遠恐泥。是以君子不為也。』
 
子夏曰く、「細かな技能でも見どころはある。深遠な奥義に至るには、泥沼に陥る恐れがある。このため君子は細かい技能に手を出さない。」
 
(現代中国的解釈)
 
AIスマホという概念が登場しつつある。2月中旬、スマホ大手、OPPOと魅族は、ともにAIへ注力する、と宣布した。今後はAll In AIでありという、従来型スマホの開発は行わない。しかし概念だけが先行し、細かな技能の裏付けがないようにみえる。
 
(サブストーリー)
 
2023年、ファーウェイ、栄耀、OPPO、VIVO、小米などの大手メーカーは、相次いで学習パラメーターを持つ大規模言語モデルを搭載したスマホを発売した。
 
ファーウェイは、AI制御、スマート決済、視認中は画面が閉じない、などの新機能を追加したOS、鴻蒙4.0において、大規模言語モデルと操作システムを融合させたという。
 
OPPOの創業者兼CEOの陳明永氏は、2024年はAIスマホの元年であり、それはフィーチャーフォン、スマートフォンに次ぐ、携帯電話の第三ステージのスタートという。そのためOPPOは、AIセンターを立ち上げ、今後リソースを集中させていく。
 
市場分析機構IDCとOPPOは、共同で「AI手機白皮書」を発表、新世代AIスマホの標準を定義した。それによればAIスマホには、創作能力を備え、さらに自己学習能力、現実世界の認識能力も備えている。これにはスマホのフルスタックイノベーション、エコロジーの最構成が必要とされる。
 
さらにIDCは、AIスマホを2つに分類している。1つはハードウエア対応型で、メインのプロセッサーに加えて、アクセレーター(加速器)や専門プロセッサーを付加したもの。もう1つはAIモデルをアプリケーションとして利用するものである。こちらにはさまざまな大規模言語モデルが含まれる。ファーウエイは後者のようだ。独自OS、鴻蒙を利用してもらえれば、AI化が可能となる。一方のOPPOは、"SF的な未来"を取り入れるとしており、前者も後者も考えているのだろう。自社チップ開発に失敗した上、ハイエンド市場では影が薄い。AIスマホで技術力をアピール、必死の巻き返しを図っているのだ。
 
IDCは、2024年、AIスマホの出荷量は1億7000万台になると予想している。まだ何がAIモデルなのかはっきりしないのに、煽りすぎの感は否めない。さらに細部にこだわる泥沼にも陥りかねない。その一方、AIスマホの定義は、いずれユーザーの手にゆだねられるだろう、と、突き放したようなことも言っている。まだ確かな裏付けは何もない。
 
子張十九の五
 
『子夏曰、日知其所亡、月無忘其所能、可謂好学也已矣。』
 
子夏曰く、「日々、自分の足りないところを知り、月々、自分にできることを忘れなければ、それは学問を好む、ということだろう。」
 
(現代中国的解釈)現代中国は、学問というより、新技術をやたら好む。国力の象徴であるかの
 
ようだ。AR(拡張現実)産業もその1つである。最近「2024年、中国AR産業発展洞察研究」というレポートが発表された。それによると。2023年、全世界のAR設備の出荷量は50万台、そのうち中国が24万台を占めた。これが2027年には1全世界500万台、中国750万台になると予想されている。
 
(サブストーリー)
 
レポートによれば、AR技術は、専門化、高性能化、低消費電力化、没入感、の4つが主流となる。そして、短期、中期、長期にわたり、さまざまなAR技術が実用化されるだろう。オペレーティングシステムと半導体は専門化に向かい、光学デバイスとディスプレイは、高性能、低消費電力へ向かう。知覚感知は、スマート化操作と没入体験に向かって発展する。コンテンツ制作はますます豊かになり、プラットフォームの互換性も改善され続けるという。
 
企業、公的レベルのアプリケーションでは、工業、教育、職業訓練などにおいて、すでに技術的成熟度が高い上、社会実装の価値が高い。広告、展示会、観光も、技術的成熟度は高いが、実装価値はそれほど高くない。
 
消費者向けアプリケーションでは、特にエンタメが進んでいる、大画面での映画鑑賞やゲームにおいて、技術的成熟度が高く、多大な商業的利益をもたらす可能性がある。ショッピング、情報提供、スマートオフィスなどに関しては、中長期的課題となるが、ポテンシャルは高い。
 
レポートは、消費者向けアプリケーション市場の拡大により、AR産業の発展は、新たなピークを迎えるとしている。需要側では、ユーザー教育と市場の成長、供給側ではすべてのサプライチェーン関係者が、産業建設に参加し、環境に配慮しつつ、研究開発と製品イノベを強化すべし、と提言している。
 
懸念は、NVIDIA製、高性能GPUの調達ということになりそうだが、もちろんそれらの事情には、触れられていない。中国は、あくまで前進を好む。

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