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人生は次のコーナーに

同学年の中で、一番付き合いの長い友達が結婚することになった。
相手は同級生。今まで直接的な付き合いはないけど、わたしもよく知っている。

二人の独身最後の夜、同じく同級生の仲間達で集まってお祝いをした。
みんながみんな、お互いに小さい頃からの姿を知っている。物心ついた時から一緒に成長してきたのだ。
となると、話題は自然と他の同級生の話に。


誰々と誰々が付き合ってる。
誰々は今結婚して東京で暮らしてる。
〇〇高の誰々知ってる?〇〇部の。
この前〇〇で誰々に会ったよ。もうすぐ仕事辞めるんだって。
誰々って今何やってるの?


あの頃、勉強や部活の話ばかりだったわたし達の話題は、いつからかそんな話で持ちきりになっていた。

結婚とか、出産とか、確かに近頃そういう話をしばしば耳にするようにはなっていた。
あぁ、これが世で言う"そういう時期''か。ラッシュが来たのか。
けれども、なんとなくどこか自分には遠い話だと思っていた。

だけど、その友達が同級生と結婚したことで、"遠い話''が今、自分と同じ目線の高さにあることに気がついたのだった。

焦りがないと言ったら嘘になるけど、「あ、そっか、そういう年なのか」とその時初めて自覚した気がする。大人になってからの自我が新たに芽生えたような。

今までは勉強や部活ばかりで、どこ中からどこ高に行くとか、地方にありがちな進学の"ある程度固定されたルート"を各々進んできたけど、ここにきてやっと"自分の人生"を歩み始めたのだと実感した。
今更かもしれないけど。

仕事も、人生のイベントも、もうみんなバラバラの道を歩いている。バラバラの道を歩いていても、タイミングが合っているからこうして会えている。
それは多分、惑星の軌道に似ていて、軌道が近いから、重なっているから、会えるのだ。


お祝いの終り、同級生の男子が別の同級生を呼んだ。
その子と会うのは久々すぎて、最後に会ったのがいつだったのか記憶がない。
会って開口一番、わたしを見て


「変わってるようで変わってないね」

と言った。

「アハハ。よく言われる」

と返した。心の中で「君もな」と付け足しながら。
笑った息は白かった。


友達の家に泊まり、帰路に着きながら昨晩のことをぼんやり思いだしていた。

意外な組み合わせの二人だったけど、お似合いだったな。幸せそうだったな。
わたし、結構昔のこと覚えてたんだな。
なんだかんだで、みんな変わってないな。


電車に差し込む朝日がやわらかい。
今日、二人は籍を入れるらしい。


ふと輪郭もなく湧き上がった感覚や感情を、忘れないように書き留めておこうと思った。
きっと、これは今しか書けないはずだから。


私たちの人生に名前はまだない。
きっと、最後まで名前はつかないかもしれない。
それでも、人生は続く。 ささやかに。

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