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読書日記・入院(期間)編。『やめるな 外科医』中山祐次郎著

老母を見送るまでの数年間、医療や介護の現場の理不尽さや人間味の薄さに絶望する場面が多々あった。折れまくる心、それでも頼らざるを得ない不甲斐なさ、母への申し訳なさ…暗澹たる思いで過ごす日々。

果たして医療従事者の方々はどんな思いで働いているのか。自分の親や家族にもああした態度で接するのか。その本音が少しでも知りたくて、現役医師が書く医師や看護師目線の “医療物” を探して読み始めた。

中山さんの “外科医シリーズ” もその時出会った本で、シリーズ3冊は読了済み。「外科医になった主人公の田舎の父が病に倒れる」エピソードで描かれた主人公の心の動きに、「医者であろうが人の子はこう思うよね」と安心し、好感を抱いたので、4冊目も手に取った。

よく言われるのが、患者にとって担当医は一人でも、医師が担当する患者は数十人数百人だから、一人一人に丁寧に接してはいられないという話。

まるでベルトコンベアーに乗せるがごとく、診察室に招き入れた患者に通り一遍の問診をして、本人の顔も見ずに、いつも通りの処方箋を書く医師。母に付き添って病院に行くようになり、実際にその現場を目撃して、本当にこういう医師がいるのだと呆れた。そして、その医師の見逃しで、母は命を落としかけて緊急入院をしたので、かかりつけ医選びは大切だと肝に銘じた。

長年看護師をしていた母にとって、医師は “絶対” の存在だった。母の診察中にわたしが医師に何か質問したりすると、帰宅してから「あんたは先生に対する口のきき方が良くない」と叱られた。いや、当然の疑問の回答を求めているだけだし、それを面倒がるほうがおかしいし。

この小説の主人公である青年医師は “誠実” である。患者との向き合い方には、もしかしたら著者の理想が描かれているのかも知れないけれど、「こんなお医者さんに出会いたい」と思わせてくれる。若くて経験値が低くても、ベテランとは違う心安さが魅力だ。

母の通院や入院でお世話になった医師の方々も十人十色。地域の医療に貢献したいという想いに溢れた真摯な開業医の方もいれば、患者やその家族に親身に寄り添ってくれる若い勤務医の方もいた。決して、患者に無関心な医師ばかりではない。

入院中に “医療物” を読むと、医師や看護師さんのご苦労や葛藤が垣間見られ、患者それぞれの人生の背景なども想像でき、「みんな抱えているものがあるんだなぁ」「それなりに頑張ってるんだなぁ」と、心が鎮まる。

入院の際、大部屋は煩わしいと避けがちだけど、コロナ禍の影響で、患者同士の会話はできないので、割と気楽。カーテンで仕切られて姿は見えないので、回診やお見舞いで漏れ聞こえる会話に想像が膨らみ、退屈せずに済む(聞き耳を立てているわけでないので、悪趣味と言わないでw)。

今回は人生2度目の入院。前回も今回も、まぁまぁ死がちらつく病気。だからこそ、生死と日々向き合う医師の小説が面白い。

この作品の登場人物もそうだけれど、高齢でも若くても、近い将来死に至る病を受け入れるか抗うかは人それぞれ。受け入れて生き切るのか、抗って悔いを残すのか。

自分や家族が健康なうちに読んでおくと、いつか訪れるかも知れないその時の、心の準備が出来るかも。




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