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小説 ねこ世界35

ミケが部屋を整えて布団を敷くと所長とおじさんがやってきた。
おじさんは背におぶっていた彼女を布団に寝かせてやる。
「本当は母子寮は男子禁制で私達は立ち入れないことになってるんですが、今日は緊急事態ですからな。本当にご協力ありがとうございます」
所長がおじさんに言った。
「いやいや、役に立ててよかったよ」
「食堂でお茶を飲んで行って下さい」
所長がおじさんに言う。
ミケはやつれた彼女に話しかけた。
「大丈夫よ。布団ふかふかであったかいでしょ。何か食べる?」
いたわるように声をかけると彼女は涙を流した。口元が震えている。
苦しい事をずっと我慢してきた子供みたいに彼女は泣いた。
ミケは所長とおじさんを促し部屋を出た。
食堂ではタマが湯を沸かして飲み物の準備をしているところだった。
「お姉ちゃんはどんな具合だい」
タマはミケに訊いた。
「すごく冷えてるみたい。ごはんも食べられてなかったみたいだからあったかいスープみたいなものがほしいわね」
所長とおじさんはテーブルについて茶請けのジャコせんべいをバリバリ食べ始めた。
それをみてタマは、
「あんれ、いま飲み物だすでよ。あんたら、何飲むかね」
とおっさん二匹に訊いた。
「私は何でもいいよ。飲めれば」
所長が言った。
「俺はココア」
おじさんが言った。
「ココアかね。じゃみんなココアでいいかね」
「私は後でいいわ。タマさんスープかなんかない?」
ミケはタマに訊いた。
「スープ?ミケちゃんはスープがいいんかね」
「私が飲むんじゃなくて保護した彼女に飲ませるの」
「あんれ、そうだいな。みそ汁なら昨夜の残りがちっとあるがな」
「みそ汁…」
ミケは考える顔をした。
「みそ汁にごはんを入れて煮てオジヤにしたらどうかね」
所長が口をはさんだ。
「俺は具合悪い時はクタクタに煮たうどんにしてもらうね」
おじさんが言った。
「ああ、うどんもいいですな〜」
ミケはおっさんどもの言葉は完全に無視してタマに向き直った。
「ちょっと戸棚見ていい?」
「ああ、いいよ。使えそうなもんなら何でも使ってくれや」
タマはマグカップにココアの粉を匙で入れながら言った。
ミケはゴソゴソ戸棚も漁った。
乾物の煮干し、かんぴょう、昆布、などの奥に缶詰のコーンスープか見つかった。
「これだわ!」
こういう時にコーンスープはぴったりだ、とミケは思った。
温かくてほんのり甘みもあるコーンスープ、こねこのウリも大好きだ。
大人だって大好きだ。缶詰の作り方を読むと同量の牛乳でのばせと書いてある。
ミケはタマに許可を貰って冷蔵庫から牛乳パックを取り出した。

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