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小説 ねこ世界39

「まあまあ、年寄りをいじめてもつまらねぇよ。ミケちゃん」
タマがミケをなだめた。
「わたしは年寄りですか。タマさん」
所長はタマの言葉にショックをうけた。
「自分ではまだまだいけると思うんですが、わたし、年寄り?」
所長はタマにぐいと近づいた。
「ほらっ加齢臭がするがな。年寄りの証拠だ!」
所長はタマにどつかれた。
「カレイ臭?」
所長は意味がわからないという顔をする。
ミケは加齢臭の意味を所長に説明するのも気の毒なので黙っていた。
当のねこが気づかないなら、あなたは加齢による体臭が匂いますよなどと指摘することはないのだ。
タマはぶっちゃけ過ぎである。
「じゃ今日もお昼ごはんは私が作ります」
ミケは気持ちを切り替えて所長とタマに言った。
「おお〜さすがミケちゃん。わたしも食べていいかね。ついでにシマちゃんも呼んでみんなで食べようよ」
所長が楽しそうに言った。
呑気過ぎ!とミケは思ったが、所長の楽しげな顔を見ていると 、それもいいかな、という気になった。
所長などは毎日カップラーメンだし、シマも毎日出前のラーメンで昼飯をすませているのだ。
たまにはみんなでわいわい手作り料理を食べるのも悪くないじゃない?
「じゃ焼き肉か鍋にすればいいがな。みんなでテーブルで食えば手間が省けていいっぺやん」
タマが言った。
「でそれなら個別に盛り付けなくていいわよね」
「でも、焼き肉用の肉がねえから鍋がいいんでねえかな。大根も白菜もあるしな。豚のひき肉があるから団子のにすれば食いでがあるな」
タマがミケに言った。
「私のうちでは団子は鶏ひき肉で作るわね」
「豚でやるとこってりしてうめえよ。しょうがと細かく刻んだ椎茸と人参を混ぜる。あたしの息子が野菜嫌いだったけど肉団子に混ぜるとバクバク食ったもんだ」
「へえー参考になるわ」
「じゃあ、わたしはシマちゃんを呼んでくるよ。寮にはニキさん達もいるだろう。総勢何人になるかな」
所長が言った。
「でも、アヤメさん起きてこれないかも」
ミケは言った。
「でも、みんなで賑やかに食べてる時にひとりで部屋食べるのもさみしいだろうよ」
「そうですけどね」
「シメのオジヤだったら、消化にいいしあったまるし、アヤメさんは無理のない範囲で参加してもらえば」
所長は言った。
「何より自分はひとりじゃないことをここで感じてもらいたいんだ。ニキさん母子やアヤメさんに。困ったら気軽にわたし達に声をかけてもらいたいよね。わたし達は彼女達にどうしたら寄り添えるか。ミケさんやシマちゃんも彼女達のそばでじかの声を聴いて考えてもらいたいんだ」
ひさしぶりに所長が所長らしいことを言った。

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