見出し画像

小説 ねこ世界27

さて、お弁当無料配布テントに野良ねこ達が集まってきた。
どのねこも薄汚れていた。
野良ねこ達はどの顔も元気がなかった。
黒ねことミケは役割りを分担してお弁当配りにあたった。
ミケがチラシを受け取り、黒ねこがお弁当を渡す。
お弁当を受け取る野良ねこ達はどこか後ろ暗い気持ちを持っているのか、ササッとお弁当を受け取ると足早に立ち去っていく。
野良ねこであることを恥だと考えているのだろうか。
ミケは同じ野良ねことして、何だかつらくなる。中にはこねこを連れた母親もチラシを握りしめている。
母親はミケを見るとまあ、という顔をした。連れているこねこはミケと同じくらいのこねこだった。
「あの…チラシです。ここでお弁当が貰えるんですよね」
母親は黒ねこの方に話しかけた。
「そうです。そうです」
黒ねこは答えた。
「こねこの分もお弁当貰えるでしょうか…?」
母親はおそるおそるという風に訊ねた。
「あー、うーん、どうかな?」
黒ねこが隣でお弁当を配っているお兄さんに訊こうと顔を向けると、お兄さんはそれより素早くお弁当をふたつ持って母親に差し出した。
「どうぞ。お子様の分もお持ち下さい。それから生活相談のコーナーもあります。そちらでは食品も無料でお渡ししています。どうぞ、お寄り下さいね」
お兄さんは母親とこねこに笑いかけた。
「よかったなあ」
黒ねこは誰にともなく言った。
ミケもよかった、と思う。そしてお兄さんは偉いなあと思う。もしも、自分が大人になったらお兄さんのような仕事がしたいなとミケは考えた。
「ねこ助け、だな。俺らも助けて貰ってるし。お弁当も焼きそばも綿あめもくれるっていうんだからなあ」
黒ねこが言った。
「焼きそばと綿あめは手伝って貰ったお礼です。あなた達の労力に対する正当なお礼です。どうです、こういう仕事をしてみませんか」
お兄さんは黒ねこに言った。
「なんだい。俺に仕事を紹介してくれんのかい」
「そうです。食べ物じゃなくて、賃金を貰える仕事。どうですか。この後、お話だけでも聞いてみませんか」
お兄さんは黒ねこに言った。
「ふーん。仕事なあ。実は俺も働きたいと常々思っていたんだが、なんせ野良ねこ人生が長いだろ。仕事なんかできるんかな、と不安があるでなぁ」
黒ねこはお兄さんに言った。
その間、二匹はお弁当配りの手を止めているので、ミケは一匹で次々と野良ねこ達からチラシを受け取り、お弁当を渡していた。
お弁当はまだほのかに温かくフタの下からはおいしそうなご飯や焼き魚の匂いが鼻をくすぐる。ミケはああ、私も早くお弁当食べたいな、と唾を呑み込んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?