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環境問題解決に向けた先端技術、宇宙、資金~ASIA GREEN TECH SUMMITインタビュー~

IISEの野口聡一理事が、2024年3月8日にシンガポールで開催されたASIA GREEN TECH SUMMIT(日本経済新聞社・Financial Times共催)のキーノートインタビューに登壇しました。今回はこのキーノートインタビューの内容を報告します。

同イベントでは、アジア地域を中心とした各国のビジネスパーソンが参加し、アジアにおけるGXの方向性についての活発な議論が行われました。

キーノートインタビューのモデレーターは、日本経済新聞社の安藤淳編集委員が務められました。


先端技術による環境問題解決へ


安藤:宇宙からみて気候変動・環境の変化についてどのように考えますか。
 
野口:私は宇宙へ行く機会が3回ありました。JAXAを退職した後にIISEに所属した理由には、宇宙飛行士として、地球を守ることに十分に貢献できていないことに罪の意識を感じていたことが背景にあります。
宇宙ステーションは環境のための新技術の試験用プラットフォームとして非常に適していると考えていました。電力は太陽光でまかないます。水も独自のシステムでリサイクルします。二酸化炭素と水素で、メタンを作るシステムもあります。宇宙ステーションは小規模な地球のモデルでもあり、環境制御システムがうまくできあがっています。私はこれらの技術の未来を信じています。
 
安藤:最先端の技術を宇宙で試すことができるということですね。それらの技術を商用化するには、より多くの投資を行い、安く製造する仕組みを作らないといけない。IISEでは、その経験から、循環型経済の新しいモデルを提案しようとしているわけですね。
 
野口:IISEではカーボンニュートラルのための新しい道筋を作ろうとしています。見える化、分析、対処という3つのステップを踏むことがシンプルな方法です。まずは見える化が必要になります。
カーボンニュートラルだけでなく、DX全般でも同じことが言えます。NECは人工衛星の技術を持っています。また、地上の光ファイバーネットワークで振動を観測する技術もあります。リモートセンシング技術によって、地球上で起きていることが可視化できます。それらによって取得したデータをAIによって分析することがカギになります。
カーボンニュートラルに向けては、エネルギーリソースアグリゲーションもあります。電力使用量をモニターし、電力をスマートに集約し、需給のバランスを最適化することで、エネルギー使用量を減らすことができます。
 

衛星の環境問題も

 
安藤:現在、宇宙には非常に多くの衛星があります。使用するデータは多すぎるかもしれません。
 
野口:データは多ければいいとも限らない面があります。人工衛星の数は増え続けています。人工衛星による通信やデータの使用は日常的なものとなり、コストも削減されています。しかし、人工衛星の数が増え続ければ、夜空が明るくなってしまいます。最近では天文学者から苦情が出てきています。スペースデブリ(宇宙ごみ)に対する懸念も高まっています。人工衛星のデータが増えることはよいことですが、その打ち上げはよりスマートにしていく必要があります。

技術の導入には資金面の支援がカギ


安藤:AIはデータを分析するのにとても適しています。環境や気候変動の改善に役立てることができるのではないでしょうか。
 
野口:テクノロジーは変化し続け、あらゆるものがスマートになっていきます。AIもよりスマートに使えるようになります。
一方で、2つのことが必要です。第1に、資金面です。技術導入は資金面の支援ができなければ、社会に広げることはできません。私たちは日本で適応ファイナンスのための新しいコンソーシアムを立ち上げます。我々は先端技術を駆使して、リモートセンシングのデータから気候変動が原因で起りうる損害を予測します。その予測をベースに、構造物などへの被害を予防的に防ぐことができるようになります。
ひとたび自然災害が起きれば、被害復旧のための再建築などで発生する二酸化炭素の量も膨大になります。それも未然に防ぐことができます。
 
安藤:地球温暖化を止めることができない以上、何が起こるかを知り、対応できるようにしないといけません。早期警戒システムを持つためにも、宇宙技術は有用です。
 
野口:もう一つ重要な点は、ある地域の解決策がすべての国に当てはまるわけではないということです。適応ファイナンスの仕組みは自然災害が多いアジア諸国にとっては魅力的ですが、ほかの地域ではそうではないかも知れない。ヨーロッパでは水素やアンモニアの計画が盛んですが、パイプラインが整備されていない地域では水素が最適解ではないかも知れない。地域ごとに脱炭素に向けた最適解は違うことを考慮しないといけません。
 
安藤:月や火星に宇宙ステーションへ移住しようという計画が進められています。もし地球温暖化を止められず環境が悪化し続けるのであれば、他の惑星に移住することはありうるのでしょうか。
 
野口:私もそのアイデアは気に入っていますし、惑星間のプロジェクトは続けられるとは思いますが、とても長い時間がかかると思います。もし私たちがこの惑星に居続けようというのであれば、解決策は地球にしかありません。私たちのもっと重要な課題は、最先端技術の導入と、金融を含む産業界のあらゆるセクターの力を使って、いかに現在の地球を守るかということです。

文:国際社会経済研究所(IISE) 藤平慶太

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